「中国では公園や広場でやるダンスが人気ですよ。中高年の人たちが多いです」
「太極拳なら、日本人も中国人も来てくれるんじゃない?」
5月下旬、芝園団地15号棟の集会所では、10人あまりの日中住民と学生が集まって、次回のイベントを何にするかを話し合っていた。
この日の会合で取りまとめ役をしていたのは、埼玉大学2年の小野瀬廉さん(19)だ。芝園団地で活動している大学生の団体「芝園かけはしプロジェクト」の一員だ。
小野瀬さんが初めて団地にやってきたのは2017年。書道部員として、「かけはしプロジェクト」の書道教室で教師役を頼まれた。
私もこのときの書道教室に参加していたが、高齢者も子供も集まって、とても盛り上がった。団地に住む外国人のほとんどは中国人だ。書道は日本人も中国人もなじみがあるうえ、子供たちも楽しめる。しかも漢字で書けばお互い意味がわかるので、日本人住民と中国人住民が自分の作品を見せて、拍手を送りあっていた。
小野瀬さんはこのときの印象について、「中国人はマナーを守らないとか、うるさいとか思っていたけど、そんなことはなくて、普通の日本人と変わらないのかなと思いました」と語る。もともとボランティア活動や多文化共生に関心があったこともあって、かけはしプロジェクトに加わった。
コミュニティをつなぐ
かけはしプロジェクトの発足は2015年。その前年、東京大学などの学生たちが、団地の国際交流イベントを手伝ったのがきっかけだった。「多文化・多世代が共生する、笑顔あふれる団地をつくる」ことを掲げ、現在8大学の約30人が加わっている。
これまでお菓子づくり、中国語教室、書道教室、三味線演奏会など、様々なイベントを開いてきた。発足時からのメンバーで現代表の圓山王国さん(25)は、「人数がたくさん来ればうれしいが、それだけじゃなくて、たとえばイベントに参加してこれまで交流していなかった外国人の方の顔を知ってもらえれば、人数は少なくてもよしかもしれない。そういった積み重ねが大事なのかもしれないと思っています」と語る。
「かけはしプロジェクト」の学生や活動を支援する自治会にとって、いまの課題の一つは、交流に関心がない住民たちにもいかにリーチするかだ。
日本人も中国人も、住民の多くは、多文化共生や国際交流に関心があるからここに住んでいるわけではない。ルポ「芝園団地に住んでいます」では「共存はしても、共生はしていない」と書いたが、そもそも共生を求めていない住民も多いのだ。
昨年度に大学を卒業するまで、多文化交流のイベントを多く手掛けてきた鈴木大志さん(24)は、「日本人と外国人が交流する雰囲気が生まれ、場としての機能は小さいが果たせていると思う」と振り返る一方で、こうも語る。
「やっぱまだ、同じ芝園団地で生活しているのに、別々のコミュニティだなと思う。お互いまだマイナスの感情がまだあるし、それを解決するためのコミュニティのつながりがまだ存在していないのかなと思います」
ステレオタイプを変える
「かけはしプロジェクト」は毎年新しいメンバーが加わり、4年目に入った。今年から参加しているカナダ人のシーナ・ウォンさん(23)は、日本でインターンをしていたときにかけはしプロジェクトの学生と知り合ったのをきっかけに、加わった。英語に加えて中国語も話すウォンさんは、中国人住民との橋渡し役として活躍している。
あなたにとって、この活動のゴールはなんですか?ウォンさんに聞いてみると、「日本人と中国人が、お互いのステレオタイプ(固定観念)を変えられる場をつくることです」という返事が返ってきた。
「私たちは相手を知らない場合、ステレオタイプを簡単に抱いてしまいます。たとえば、ごみをみたら『中国人だ』とか。ただ、実際に知り合いになれば、一人ひとり違うことがわかるはずです。ステレオタイプを変えるのは1か月や2か月ではできないし、もしかしたら10年かけても難しいかもしれませんが、それが目標です」
ウォンさんは、自分自身の体験も話した。「私の祖父は中国の旧満州出身で、日本人によい感情を抱いていませんでした。子供のころ、祖父からは「日本人とは口を聞くな」と言われていましたが、初めて日本に旅行で来た時、人々は礼儀正しいし道路はきれいだし、イメージが変わりました」
試行錯誤をしながら前に進む、かけはしプロジェクトの学生たち。いまは、6月下旬に開く太極拳のイベントに向け、準備にいそしんでいる。