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共生のために必要なこと カナダ・ケベックに移民受け入れの取り組みを見る

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モントリオール市内では、カナダ国旗だけでなく、ケベック州の旗もいたるところで掲げられている

到着したら、まず講義

モントリオール市内にあるNGOのオフィス。講師を務めるスタッフが、アフリカ諸国などから到着したばかりの移民約20人を相手に、フランス語で話していた。

「ケベック社会の共通の価値について聞いたことはありますか?」

多様性、フランス語、男女の平等、民主主義……。スタッフが、尊重すべきケベックの価値を説明していく。3時間の講義では、ほかにも銀行口座の開き方から職探しまで、移民が

カナダ・モントリオールで到着したばかりの移民向けにNGO「CITIM」が開いた講座

順調に生活を立ち上げられるような情報を教える。

この到着直後の講座は州政府が財政支援して各地で開かれ、新たな移民は受講を強くすすめられる。この後にも1週間の定住支援プログラム、フランス語教室、職探しのサポートなどを、行政とNGOが協力して、移民が社会にスムーズに溶け込めるようなプログラムを提供している。

やるべきことは双方にある

州政府移民局のシャルル・セヴィニーさんは、移民と受け入れ社会双方向の取り組みが重要だと話す。「移民が学ぶべき事はたくさんありますが、受け入れる社会もまた、円滑な統合のためにやるべきことがたくさんあります。移民が孤立しないよう、社会がそばにいて支えるのです」

ケベック州政府移民局のシャルル・セヴィニー氏

ケベックとカナダのほかの州で、政策や実際の定住支援プログラムの内容に大きな違いはないという。ただセヴィニーさんは、力点の置き方に、若干の違いはあると語る。「私たちの取り組みは、多様性を認識しつつ、フランス語など共通のものにも焦点をあてるものです」と話す。ケベック州政府は、フランス語や民主主義など7項目を、移民を含めたすべての人々が尊重すべき「共通の価値」と位置付けている。

これは、カナダの中でケベック州が置かれた、特殊な状況が関係している。

ケベック州ではフランス系住民が多数派で、公用語もフランス語だ。だが、フランス系住民はカナダ全体の中では、歴史的に同化の圧力にさらされてきた少数派でもある。こうした背景が、多数派のフランス系の声に耳を傾けつつも、多様な社会をつくるという独自の道を選ばせた。

国として多文化主義を掲げるカナダだが、フランス系住民の多いケベックは、独自の「インターカルチュラリズム」〈※〉という考え方を取り入れている。ケベックでこの考え方を提唱した一人が、著名な社会学者で歴史学者でもある、ジェラール・ブシャール・ケベック大学シクチミ校教授だ。

多数派の不安を和らげる準備

移民が社会の一員になることを助けると同時に、多数派と少数派の関係にも目を向けるべきだ、というのがブシャール教授の訴えだ。

ジェラール・ブシャール・ケベック大学シクチミ校教授 Photo: Oshima Takashi

インターカルチュラリズムにおいて重要なのが、「多数派と少数派の交流や、協力して何かに取り組むことです」と語る。交流を通じて外国人へのステレオタイプな見方を防ぐことや、協力することで共通の帰属意識をはぐくむことが狙いだ。

「移民受け入れによる変化は多数派に不安を引き起こし、これが非常にネガティブな反応につながる恐れがあります。こうした感情を和らげる準備をしておく必要があるのです」とブシャール教授は話した。

もう一つ、インターカルチュラリズムが重視するのが、移民も含め社会全体で共有する、共通の文化や価値観だ。

ブシャール教授は言う。「インターカルチュラリズムとは、妥協と均衡です。移民は自らの文化を保ちつつも、社会への統合を求められます。ただし、統合は同化ではありません。社会の基本的なルールや根源的な価値を守るのであれば、多様性が確保されます。それは豊かさの源であり、社会に彩りを与えうるものです」

※インターカルチュラリズム

一つの社会の中に、複数の文化が対等な形で共存するのが多文化主義だ。受け入れ社会への同化を求める同化主義に対抗する考え方として広がったが、異なる文化ごとのコミュニティーがお互いに接点を持たず、社会が分断されるリスクがあるという指摘も出るようになった。

一方、インターカルチュラリズムは、多様性を尊重しつつ、異なる文化間の相互交流や共通の立場につながる取り組みを重視する。欧州評議会がこの考え方に基づき推進するインターカルチュラル・シティー・ネットワークが知られている。また、カナダ・ケベック州におけるインターカルチュラリズムは、フランス語の重視などの特徴がある。