身につけられる資産、値上がり益も 40本所有の匿名コレクター
「盗難や強盗が怖い。だから匿名でお願い」。東京都内在住、50代の自営業の男性は取材の冒頭、そう告げた。
高校生のとき、祖父からスイスの歴史あるブランドIWCの機械式時計を譲り受けたことで興味を持ち始め、気がつけばコレクターに。「色々と売り買いもしたけれど、おそらく常時40本ぐらいは所有している」という。
コレクションの一部を見せてもらうと、パテックフィリップの永久カレンダー時計や人気モデルのノーチラス、カルティエのトーチュ(亀甲型)のクロノグラフ、ロレックスのスポーツタイプのほか、F.P.ジュルヌやナオヤ・ヒダといった注目の独立時計師のものまで、アンティーク、現行品にこだわらず高級時計が幅広く雑多に並んでいた。「このほか最近は、またオーデマピゲやパテックフィリップ、カルティエの希少なアンティークを買った」という。
このうち、カルティエの時計を男性は300万円で購入したというが、「つい先日のオークションで、全く同じモデルの時計が2600万円で落札されていた」と笑う。数年前に購入したパテックフィリップのビンテージの永久カレンダーは1200万円だったが、現在の取引価格は2000万円を超えることもある。「2000年代初頭に100万円以下で買った時計が今では500万、1000万ということも珍しくないんです」。入手先は様々だ。海外出張が多く、語学にも堪能なため、ヨーロッパに親しいディーラーが複数いる。コレクター同士のつながりもあり、「あの人があの時計を手放したがっているらしい」という情報もキャッチできるという。
この男性は愛好家目線で長年時計市場を見つめてきた。だから、2次流通市場で将来的にどんな時計の値段が上がっていくかという傾向がなんとなく分かっている、ともいう。やはり、「資産価値」目当てで時計を集めているのか。そう問うと、「いや、それはちゃうんですわ」と返ってきた。「つまり、『これはもう、今買っとかな、今後は高くなって絶対手が出んようになる』という思いから、買う。あくまでコレクターとして」
しかし、男性は「売り買いをしながらコレクションの入れ替えをしている」とも話す。つまりキャピタルゲインを、より高額な時計を購入する資金に充てているとも取れる。本当に邪心は一切ないのか、と重ねて問うと、「まあ……うーん」と言った後、小声で続けた。「数千万円の現金や金塊を持って海外に渡航するのは難しい。でも、時計を着用してなら出られる。そして時計は、簡単に換金できる。僕はしないけど」。もちろん、そんなことをすれば脱法行為になる。
「インターネットが広まって情報が共有される現代、動産で、ゴールド以外で、国際相場が一定のものって、時計なんですよね。例えばロレックスのデイトナで、購入当時の保証書などの付属品がそろっていたら、世界中どこでも同じ値段で買い取ってくれるんです」