1. HOME
  2. 特集
  3. 機械式腕時計の沼
  4. 社員6人、逆境を機動力に 独立ブランドの雄・ノルケイン副社長に聞く

社員6人、逆境を機動力に 独立ブランドの雄・ノルケイン副社長に聞く

LifeStyle 更新日: 公開日:
ノルケインの人気モデル「ワイルドワン」をトレーに並べるトビアス・カッファー副社長
ノルケインの人気モデル「ワイルドワン」をトレーに並べるトビアス・カッファー副社長=2025年8月、後藤洋平撮影

スイスの老舗ブランドが群雄割拠する時計業界にあって、2018年に誕生した独立系ブランド「ノルケイン」は異彩を放っている。創業から数年で世界45カ国・地域、340店舗に販路を拡大し、いまや「若いが確かな時計ブランド」として存在感を増している。創業者の弟で、副社長のトビアス・カッファーさん(35)が、その歩みと今後の展望について語った。

トビアスさんの兄ベン・カッファーさんがノルケインを創業したのは30歳の時だった。大手のブライトリングで経験を積んだうえでの独立だったが、周囲からは「絶対に成功しない」と忠告を受けたという。しかし、「フレッシュでダイナミックな時計を生み出せば勝機はある」と、思いを貫いた。これまでの経験だけでなく、時計の部品製造を営んできた家系であることも、自信の源になったという。

創業から間もなく新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われたが、社員わずか6人の小さな組織は、逆境をむしろ機動力に変えた。実店舗などでの宣伝よりも、インターネットを中心としたデジタルマーケティングに力を入れて世界中の時計好きな若者たちに浸透していった。「独立資本の小さな企業ならではの、小回りのきいた戦略だった」

コロナ禍が落ち着いた22年に発表した「ワイルドワン」は、ブランドの象徴とも言える存在だ。若き兄弟に力を貸したのはウブロ、ブランパン、オメガといった有力ブランドで成功を収めた時計業界の重鎮ジャンクロード・ビバーさん(76)だった。経営顧問に就任したビバーさんが構想を担ったカーボン複合素材のケースはデザイン性に優れ、極めて軽量かつ高耐衝撃性を誇るという。「ビバーさんはオフィスで机をたたきながら私たちに時計づくりを説いている。とても元気で、刺激を与えてくれる人です」とトビアスさんは語った。

近年の中国経済減速や、米トランプ大統領による「相互関税」でスイスの時計業界は揺れているが、「中国市場への本格参入を見送ったことで影響は小さく、米国市場での競争条件はスイスの他のブランドにも共通する問題であり、致命的な打撃とはならないだろう」と楽観している。

現在は年間1万本の時計を製造し、日本国内でも42店舗と取引している。内部機構についてはサプライヤーからの供給を受けてはいるものの「ハイエンドな機構メーカーのものも使えるようになった。今後も最高品質の時計を、より多くの人に届けたい」としている。老舗ブランドが多数存在するスイスを拠点に、新しい風の挑戦が続く。