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ジェンダーギャップ指数3位のノルウェー、徴兵制も平等に 男女同室の兵舎も問題なし

World Now 更新日: 公開日:
兵役に就くノルウェーの若者たち=2025年2月11日、ベルゲンの海軍基地、荒ちひろ撮影
兵役に就くノルウェーの若者たち=2025年2月11日、ベルゲンの海軍基地、荒ちひろ撮影

ジェンダー平等が当たり前となった社会では、徴兵制も例外ではない――。そんな観点から2015年に男女平等の徴兵制を実現したのが北欧ノルウェーです。兵役は国民の義務とされる一方、個人の意思も尊重されているといいます。フィヨルドに囲まれたノルウェー第2の都市、南西部ベルゲンの海軍基地へ向かいました。

「着替えるときは声をかければいいだけ。男女同室でも何の問題もない」

昨年4月に入隊したアマイア・フライシャーさん(20)は、フリゲート艦を案内しながら、当たり前のように言った。艦内底部、2段ベッドとロッカーですれ違うのがやっとの部屋に、フライシャーさんら男女6人の徴集兵が暮らす。同室のアイヴァン・クリステンセンさん(22)も「最初は少し変な感じがしたけど、そもそも誰もこんな狭い部屋に6人で暮らした経験なんてないから、互いのありのままを尊重するだけ。たいした問題じゃなかった」。徴集兵30人ほどで使うシャワーとトイレも男女共用だ。

フリゲート艦内の居室を案内するアマイア・フライシャーさん。2段ベッドが並ぶ=2025年2月11日、ノルウェー・ベルゲンの海軍基地、荒ちひろ撮影
フリゲート艦内の居室を案内するアマイア・フライシャーさん。2段ベッドが並ぶ=2025年2月11日、ノルウェー・ベルゲンの海軍基地、荒ちひろ撮影

ノルウェーは、男女平等の度合いを示すジェンダーギャップ指数で常に上位につけ、2024年は世界146カ国中3位(日本は118位)。そんな国でも100年以上、徴兵は男性のみが対象となってきた。1976年に女性の兵役志願が認められ、徐々に女性兵士の数が増える中で、転機は2000年代。徴兵制も平等にすべきだとの声が軍の組合から上がったと、軍の人事部門を担当するペルトマス・ボー上級曹長(51)は説明する。

2010年に徴兵調査への回答義務を、2014年の法改正で徴兵義務を女性にも拡大。この時点で、徴集兵の女性比率は約15%を占め、「社会の反対もなく、特に若い世代は当たり前にとらえた。軍も、従来の倍の候補者からより良い兵士を選ぶことができると、肯定的に受け止めた」と振り返る。

女性の徴兵は北大西洋条約機構(NATO)加盟国で初めてで、さらに男女同室の兵舎の試みなどが世界的に関心を集めた。「若い男女が同室で暮らすなんてクレージーだと思われたのだろうが、一緒に過ごすことで彼らは兄弟姉妹のような関係になり、実際にとてもうまく機能している。ノルウェー軍にとって、今ではごく普通のことになっている」とボー氏は言う。

ノルウェー軍で人事部門を担当するペルトマス・ボー上級曹長=2025年2月10日、オスロ、荒ちひろ撮影
ノルウェー軍で人事部門を担当するペルトマス・ボー上級曹長=2025年2月10日、オスロ、荒ちひろ撮影

男性を基準につくられていた装備や設備の改善を進める一方で、採用や配置は個人の能力に応じて行い、必ずしも男女同数を意味するわけではない。それでも、徴集兵の女性比率は空軍で50%、海軍で45%に達し、陸軍でも26%まで上がっているという。

6万人から15%の「狭き門」

どのように徴兵が行われるのか。

国民には17歳を迎える年に国防省から徴兵に関する電子メールが送られる。記載されたリンクから徴兵調査に回答する義務があり、学校の成績や性格、健康状態や運動習慣、趣味や兵役の志望度などについての55問ほどの質問に、複数の選択肢から選ぶ形で答える。回答は点数化され、上位3分の1ほどが次の選考に進み、体力・IQテストや健康診断、面接を受ける。合格するのは半分ほどで、高校卒業後に徴兵される。

例えば、自分に軍が向いていると思うか? という質問に「いいえ」と答えれば、点数は低くなり、結果として徴兵される可能性は低くなる。毎年約6万人の対象から実際に徴兵されるのは15%ほどで、2024年は約1万1000人が入隊した。「選択的徴兵制」とも呼ばれる理由だ。

ボー氏は、「幸運なことに、定員より多くの志望者がいる。もちろん、必要があればさらに多くを徴兵することは可能だ」と強調する。

フリゲート艦内の談話室を案内するホークン・カルミルさん=2025年2月11日、ノルウェー・ベルゲンの海軍基地、荒ちひろ撮影
フリゲート艦内の談話室を案内するホークン・カルミルさん=2025年2月11日、ノルウェー・ベルゲンの海軍基地、荒ちひろ撮影

家族や親族に兵役経験者が多く、兵役に就くのが当たり前だと思っていたと話すホークン・カルミルさん(21)や、徴兵調査に正直に回答しただけで、徴兵制や軍についてあまり知らなかったというフライシャーさんをはじめ、入隊の経緯はさまざまだ。昨年4月に入隊し、通信を担当するアーレ・ソグネスさん(20)は、特段希望していたわけではなかったが、「新しい経験を経て自分を成長させたいと思って臨んだ」と振り返る。

兵役経験者の社会的評価の高さや、大学の入学選考での加点や奨学金といったメリット、入隊や除隊のタイミングに柔軟性をもたせるような軍側の工夫などを背景に、兵役を希望する若者は多い。実際、狭き門でもあり、海軍希望だったクリステンセンさんも17歳当時は面接に進めず、船の電気技師としての教育や経験を積んでから再挑戦したという。

フリゲート艦内の談話室を案内するアイヴァン・クリステンセンさん。柱には、兵役を終えた先輩たちの名札が貼り付けられている=2025年2月11日、ノルウェー・ベルゲンの海軍基地、荒ちひろ撮影
フリゲート艦内の談話室を案内するアイヴァン・クリステンセンさん。柱には、兵役を終えた先輩たちの名札が貼り付けられている=2025年2月11日、ノルウェー・ベルゲンの海軍基地、荒ちひろ撮影

IT分野などの発展で、これまでの選抜方式では健康面などの理由から兵役に就けなかった若者にも門戸を開きたい、とボー氏は話す。「現代の軍隊で、すべての兵士が中距離走や腕立て伏せが得意である必要はない」

多くの若者が兵役を希望し、経験を得て社会に戻っていくには、「軍は、社会の価値観を反映するものでなくてはならない」とボー氏は強調する。

「重要なのは、国防が平時から『あなた』と『私』ではなく、『私たち』のものであること。ノルウェーでは社会の一部として肯定的に受け入れられてきた。徴兵制を導入してきた一番のメリットではないか」