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五輪出場を相次いで逃す韓国 サッカーもバスケもバレーも 超少子化社会が抱える苦悩

World Now 更新日: 公開日:
仁憲高校であったバスケットボールの試合。高校生と中学生のチームが対戦していた
仁憲高校であったバスケットボールの試合。高校生と中学生のチームが対戦していた=2024年4月、ソウル、稲垣康介撮影

4月20日、ソウル市南部にある仁憲高校の体育館では、バスケットボールの試合が開かれていた。

プレーを見ていると、明らかに一方のチームの選手の体格が一回り細い。仁憲高校の対戦相手は、近くの私立中学のバスケ部だった。以前は対戦相手だった高校のバスケ部が廃部になり、スカウトも兼ねて中学生と練習試合をするという。

「私が子どものころはソウル周辺だけで、バスケ部がある小学校が20校以上あった。今は3校だけです」と仁憲高校のバスケ部顧問、シン・ジョンソクさん(48)。中学、高校も先細りの傾向は変わらない。

シンさん自身は3人兄弟で、今は3人の娘の父だ。ただし、中学3年の長女と中学1年の次女はバスケはやらず、小学2年の三女だけが楽しんでいるという。「妻はバスケに乗り気ではなかった。勉強が大事だと」と苦笑いした。

女子バスケットボールの元韓国代表、チョン・ジュウォンさん(51)を訪ねた。2000年シドニー五輪の切符をかけた大一番で日本を破り、本大会もベスト4まで勝ち上がったときのスター選手だった。

今は国内女子リーグの強豪、ウリ銀行でコーチを務めるチョンさんは「バスケ部に5人しかいない高校もある。反則で退場になれば、4人で試合をすることもあると聞きます。出生率は0.72でしょう。人口が減れば、スポーツをする人が減るのも当たり前」

出生率が1を下回るのは、先進国が名を連ねる経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国で、韓国だけだ。

昨年、韓国でも日本の人気バスケ漫画「スラムダンク」の映画版が公開されて大ヒットしたが、「特効薬にはなりません」。一人っ子が多く、スポーツより勉強を優先させる風潮が強いという。日本以上に学歴社会といわれる韓国の現実がそこにある。

そして、少ない分母を競技間で奪い合う。中学・高校バスケットボール連盟によると、背の高い有望なバスケ選手をバレーボールのチームが引き抜く動きがあるという。

女子バスケットボールの元韓国代表、チョン・ジュウォンさん
女子バスケットボールの元韓国代表、チョン・ジュウォンさん=2024年4月、ソウル、稲垣康介撮影

韓国の学校の部活動は日本とは違い、将来、大学、さらに代表チームをめざす層と、そうでなく楽しむ層とで明確に分かれている。少数精鋭によるエリート強化が伝統として息づく。

バスケの場合、高校で連盟に登録する運動部は全国で男子が30、女子が19しかない。女子の部員数は昨年度で計142人と、30年前に比べて半分以下に減った。

全国のスポーツ団体を統括する大韓体育会のキム・テッチョン学校体育委員長(62)は「朝鮮戦争後の韓国は貧しかった。忍耐と根性で復興を果たす過程で、スポーツを通じて、韓国を世界に知らしめようとした。国威発揚のためにはエリートを集中的に強化するのが手っ取り早いということになった」。

1988年のソウル五輪、2002年のサッカー・ワールドカップ(W杯)日韓大会は、韓国を世界にアピールする舞台装置であり、国民の士気高揚にもつながった。

だが、そんなスポーツの役割は、過去のものになりつつある。

東京五輪のホンジュラス戦でゴールを決めた喜ぶ韓国代表
東京五輪のホンジュラス戦でゴールを決めた喜ぶ韓国代表=2021年7月28日、日産スタジアム、伊藤進之介撮影

「サッカー、お前もか…」

4月27日に配信された「朝鮮日報」(電子版)の見出しに、悲哀がにじんだ。

サッカー男子のパリ五輪最終予選で、韓国は準々決勝でインドネシアに敗れ、出場を逃した。見出しは、さらに続いた。

「没落した韓国スポーツ界、パリ五輪選手団の規模はここ48年間で最小」

「常連」のバスケやバレーなども、出場を逃したのだ。

スポーツに代わって、韓国の存在感を世界に示しているのは、エンタメだ。

韓国の人気グループBTSのメンバーたち
韓国の人気グループBTSのメンバーたち=2017年、ソウル、武田肇撮影

BTSなど世界的な人気グループを束ねるマネジメント会社、HYBEのキム・テホCOO(50)は、2002年のサッカーW杯を盛り上げるため、1997年に「韓国代表の応援団「レッドデビルズ」を旗揚げした中心メンバーだった。

「あのW杯は日韓の音楽、ドラマなどの文化交流の呼び水となった。その後、若者の趣味、嗜好(しこう)も多様化が進んだ。グローバル化が進み、スポーツ以外にも、進路の選択肢が増えた」

兵役免除のために五輪でメダルをめざす夢は、若者たちにとっての魅力が薄れている。野球、サッカーのように、国内リーグにとどまらず、海外へ羽ばたける競技にあこがれることはあっても、そうではない団体球技の将来は明るくない、と見る。

HYBEが手がける音楽グループのほうが華やかで、少年少女にとって夢があるのか? そう、キムCOOに問いかけた。

BTSなどのグループを束ねるマネジメント会社HYBEのキム・テホCOO
BTSなどのグループを束ねるマネジメント会社HYBEのキム・テホCOO=2024年4月、ソウル、稲垣康介撮影

「韓国のエンタメ業界は努力の末、夢を持つ若者が才能を開花させる舞台を準備できるようになった。人気低迷に悩む競技団体は意識改革が必要では」

スポーツ界が再浮上する手立てはないのか。仁憲高校のシン・ジョンソクさんは愛好者を増やすことが欠かせないと語る。「一握りのエリート校だけでなく、クラブチームも含め、裾野を広げることが大切だ」

同校のバスケ部には1人、ナイジェリア出身の父を持つ選手がいた。

日本代表チームでは近年の傾向として、男子の八村塁、女子の馬瓜エブリンら、親が外国にルーツを持つ選手たちが存在感を放つ。サッカー男子でパリ五輪切符をつかんだU23代表もアジア予選で23人中4人がそうした選手たちだった。韓国はそんなケースは少ないという。

シンさんは「これまでは移民系の選手を代表に入れることにアレルギーがあったが、多様性、共生が叫ばれる時代になり、国民の意識も変化しつつある」。

元女子代表のチョン・ジュウォンさんも、賛同する。コーチを務めるウリ銀行にも小学生年代の下部組織を作った。

「選手や、元選手たちが指導すれば、基礎から学べて上達するスピードも早くなる。うまくなれば、バスケが楽しくなるし、クラブチームからエリート系の部活に入る子が出てくれば、理想的だ」

チョンさんの長女は高校から米国に留学し、今は米イリノイ州の大学1年生だ。「娘は米国の高校ではバスケ、サッカー、レスリング、テニスを楽しんでいた。その年代ではいろいろな競技に触れた方が良い。将来、娘が外国の人と結婚するとしても、反対する理由は、ありません」