2017年、5人1組のチームで相手の陣地を制圧する対戦型ゲーム「リーグ・オブ・レジェンド(LoL)」の世界最強を決める国際大会が北京であった。3年連続で決勝は常勝国・韓国のプロチーム同士の対戦。3戦全勝で優勝トロフィーを手にしたチームの中に、「CuVee」の名で知られるイ・ソンジン(24)がいた。5万人ほどが観客席を埋め、6000万人がオンライン視聴した大会で、「全世界が自分の手中にあるようだった」。チームが手にした優勝賞金は約185万ドル(約2億円)。「人生が変わります」とCuVeeは笑う。
総人口の約半分にあたるゲーム人口をほこる韓国で、最も人気があるLoL。そのプロリーグ(LCK)に所属する10チームは国際大会の常連だ。トップ選手の新旧の入れ替わりが激しい猛烈な競争社会で、CuVeeは15年、国内ランキング1位を経験した。
午後1時から約4時間、夕食後も約4時間、チームで合同練習。その後は、翌日午前3時まで個人練習した。CuVeeに限らず、プロ選手たちの多くの生活が同じような感じなのだという。とりわけ夜間に練習を集中させる傾向が強いというが、その理由を聞くと「ゲームって、だいたい夜にやるものですよね」と笑っていた。
LCKは2シーズン制で、さらに大会は年中ある。「eスポーツのための生活だったと言っても過言ではありません」。もちろん、体への負担はある。「体中のあちこちで違和感を感じるほどすっきりしない状態になることもあった」。そのため、体調や健康のケアは、チームが組織的におこなっている。チームが契約するスポーツジムのトレーナーが状態を確認したり、チーム内でマッサージ師を呼んだりする。「健康管理は極めて重要」という認識が、チームや選手内で広く共有されているのだという。
大学受験でつまずき、幼いころから得意だったゲームに人生をかけることにした。当時はゲームに対する世の中の印象は悪かったが、両親は背中を押してくれた。今では親世代が「子どもをプロにする方法を教えてほしい」と話を聞きに来るようになった。「eスポーツの発展に自分の活躍が大きく寄与したと思う」と胸を張る。そうなるとライバルも増える。次々と現れる新星たちからの突きあげが激しく「息苦しかった」。常に勝つことを求められるプロの世界で、プレッシャーはとても大きかった。限界を感じた今年1月、現役を退いた。
ピーク時の年収は数億ウォン(数千万円)。ソウル市内に家を買った。現在は数十億ウォンを稼ぐトップ選手もでている。引退後も、所属チームGen.Gに残り、そこでLoLの攻略法などを動画で教えるストリーマーになった。収入は悪くない。息苦しさから解放され、心にゆとりができた。何よりもLoLを、純粋に楽しめるようになったことがうれしいという。
徐々にeスポーツへの関心が広がりつつある日本にもプロ選手はいる。ただ、多くは別の職業と二足のわらじ状態。実名よりゲーマー名のほうが浸透する韓国ほど、一般社会で知られる存在にはなっていない。
鳥取市内の大学を昨年卒業し、神奈川県の会社にシステムエンジニアとして入社した大上拓海(23)は、人気野球ゲーム「実況パワフルプロ野球(パワプロ)」を使ったeBASEBALLプロリーグで2年目の選手でもある。ゲーマー名は「どいや」だ。
3月に閉幕した今シーズンは、ソフトバンクホークスの代表選手として日本一に貢献。e日本シリーズでは、2試合連続の代打本塁打をバレンティンで放ち、MVPに選ばれた。シーズンを通して攻守にわたり大活躍し、最優秀防御率の個人タイトルもゲット。「幼いときから好きだったゲームが職業になる時代がくるなんて考えたこともなかった」。
日本一や個人タイトルなどの報酬も上乗せされ、同リーグで最高額に近い数百万円を得た大上は「会社員1年目の年収よりも多くて驚いた」。
3年前に始まった同プロリーグをネットで知り、プロテストを受けたが落ちた。パワプロの練習を重ね、翌年のプロテストで合格。1年目は西武ライオンズの代表選手として、試合のある毎週末に鳥取から東京へ通ったが、飛行機やホテルの手配までしてくれる主催社側の対応にプロの世界の本気度を感じた。同時に「遊びではない」という自分自身のプロ意識も強まっていったという。
再びプロテストを受けてホークスの代表選手となった今シーズン、会社勤めもあり、平日の練習は難しくなった。それでもゲーム機と画面を持ち歩き、時間をみつけては技を磨く。週末にはチームメート宅に集まり、連係や戦略を強化した。今は横浜市内在住なのに、試合前は会場のある都内のホテルに自費で前泊する。プロとしての初心を忘れない大切な儀式であり、勝つための験担ぎなのだという。
海外のプロ選手がeスポーツの収入だけで生活できるのは知っているが、日本ではまだ難しい。それでも最近は、eスポーツが報道などでとりあげられ、広がりを感じている。「それだけで食べられるのが本来のプロ」。そうなるように貢献するのが、いまの日本のプロ選手たちの役割だと自覚しているという。