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優秀選手は奨学金も ゲームを教育に組み込むアメリカ、eスポーツ先進国の事情を見た

World Now
放課後、eスポーツをする生徒たち=米バージニア州アーリントン、ランハム裕子撮影

キックオフ。

「右、右!」。主将が指示を出す。

「オレがいく!」。仲間が応じる。

「ナイス!」。監督も鼓舞する。

シュート、ゴール。控えめに、にやり。歓喜の輪は広がらない。目を合わせることもなく、またすぐボールを追いかける。3月25日の放課後、米ワシントンリバティー高(バージニア州)の選手たちは「フィールド」に集った。

校舎の外に広がるグラウンドでの光景、ではない。パソコンが「コ」の字に28台並ぶ視聴覚室だ。チーム3人が、それぞれの画面を見つめる。画面の向こうでは他校の生徒3人がプレーをする。ボールを追いかけるのは、ジャンプやロケットダッシュ、空中飛行ができる車(ロケットカー)だ。生徒はコントローラーを使い、その車を操作する。

放課後、eスポーツをする生徒たち=米バージニア州アーリントン、ランハム裕子撮影

正式な部活動で、学校や州からも認可されている。コーチ代にはアメフト部やテニス部と同様に補助金も出る。監督は副校長のマイルズ・キャリー(34)。2017年、このeスポーツプログラムをつくった。同校は「すべての生徒が部活動に参加を」という目標を掲げ、「ゲームならば」と思い立った。

キャリーが当時を振り返る。「チラシを配ったら50人の生徒が説明会に来た。部活に入っていない子も多かった。チームをつくって、大会を探す手伝いをした。大会で優勝もできた。チームワークやコミュニケーションスキル、イライラへの対処法。伝統的なスポーツで学ぶことを、彼らはeスポーツで学んだ」

部員は9~12年生(日本の中学3年から高校3年)の80人。兼部している生徒もいるが、そのうち20人がこの部だけに入っている。火曜と木曜の放課後に約90分、練習と試合をくり返す。

放課後、eスポーツをする生徒たち=米バージニア州アーリントン、ランハム裕子撮影

この日、生徒3人がプレーしたゲームは「ロケットリーグ」。約6年前にリリースされ、昨年9月には同時プレー人数が100万人超を記録した。バージニア州の高校だけでも130のチームがあり、毎週、技を競っている。

ゲームで放課後を過ごすことを親世代はどう思っているのか。キャリーは「以前より肯定的になっている」と話す。「たとえばバスケでも、放課後に毎日5時間公園でとなると心配するでしょう。それと同じ。練習時間が決められ顧問もつく。単なる時間つぶしではないと理解してもらえるようになってきた」

今年度、チームの主将を務めるのは、11年生のエリック・バウアー(16)。ゲーム用パソコンを自作した昨年1月以降のプレー時間は1200時間という。平均すると、1日2時間半ほどだ。「友だちの家でこのゲームをやって、一気に好きになった。めちゃくちゃかっこいいな、と。ストレス解消にもなります」。バウアーは大学入学に際し、eスポーツで奨学金を得ることをめざす。

放課後、eスポーツをする生徒たち=米バージニア州アーリントン、ランハム裕子撮影

米メディアによると、約200校の大学が、eスポーツ関連で年に合計1500万ドル(約16億2000万円)もの奨学金を学生に支給している。なぜか。いまや伝統的なスポーツと同様、優秀な成績をあげれば学校の名誉にもなるからだ。

ニューヘイブン大(コネティカット州)助教のジェイソン・チョンが解説する。「若者はベストなものが見たい。(米プロバスケットボールNBAで)レブロン・ジェームズのダンクを見たいと思う気持ちと同じ。『フォートナイト』で、だれが最高のプレーを見せるのか、それが知りたい。彼らは肉体的なものかデジタルなものかは区別していない」

3億5000万人以上の登録プレーヤー数をほこる「フォートナイト」はオンラインのシューティングゲームで、19年の世界大会では当時16歳の少年が頂点に立った。試合会場はテニスの全米オープンの開催地で、手にした賞金は史上最高の300万ドルだった。

同大では20年と21年に、助教のチョンをエグゼクティブディレクターとして大学、大学院にそれぞれ「eスポーツ専攻」課程を設けた。市場が広がる中で、関連のビジネスや技術、コンピューター科学を学び、業界のリーダーを育てるねらいがある。

ニューヘイブン大(米コネティカット州)のeスポーツ専用ルーム=同大提供

米国には、世界最大規模の大学スポーツ団体NCAA(全米大学体育協会)があり、約1100校が加盟する。大学スポーツはビジネスと化し、巨額の利益をあげる。だが、注目されるスターでもプレー内容への金銭の支払いは禁じられている。eスポーツの選手は自由に大会に出て、多額の賞金を得られる。チョンは「NCAAも、eスポーツアスリートのあり方に学ぶべきではないか」と話す。

競争が激しくなるにつれ、練習時間も必要になる。負の側面はないのか。「人間は、どんなことにも中毒になりえる。バーチャル空間に入り込み、自分を見失ってしまうこともある。その外側に、話すことができる人、監視してくれる人、中断させてくれる人がいるというサポート態勢が大事だ」

チョンが「今後の課題」と語るのは国境をまたぐガバナンスのあり方だ。現在はゲーム会社が、プレーヤーのネット上の住所にあたるIPアドレスを管理することが多いが、ユーザー情報の漏洩がたびたび報告されている。チョンは「投資機関を魅了して、さらに市場を拡大するには、こうした点を改善する必要がある」と指摘する。