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自衛隊の「最大の敵」とは? 処遇の改善やAI兵器の活用は少子高齢化に打ち勝てるか

World Now 更新日: 公開日:
整列する海上輸送群の隊員。白帽が海上自衛隊だという。背後は輸送艦「にほんばれ」=2025年4月6日午前11時13分、広島県呉市昭和町
整列する海上輸送群の隊員。白帽が海上自衛隊だという。背後は輸送艦「にほんばれ」=2025年4月6日、広島県呉市昭和町、興野優平撮影

自衛隊にも少子高齢化の波が押し寄せています。あの手、この手で自衛官を増やそうとしています。石破首相も自衛官の処遇改善を訴えていますが、なかなか思うようには進んでいないのが実情です。

自衛隊にない仕事ってなんだと思いますか?」「①パイロット ②シェフ ③インフルエンサー」―─。東京メトロで自衛官募集のそんな動画広告を見かけた。答えは「すべてある」。「自衛隊って、多様な働き方ができるんです!」

自衛隊といえば、戦闘機や戦車、護衛艦乗りなど「戦闘」に関わる任務や「災害派遣」の印象が強い。だが、部隊には料理人もいるし、最近はSNSなどで自衛隊の活動を積極的に発信する役割も重視されている。この広告からは、「多様な働き方」をアピールし、自衛官の深刻な人手不足を解消しようと知恵を絞る防衛省・自衛隊の苦悩が伝わってくる。

自衛官の採用状況は年々厳しさを増している。2023年度の自衛官の採用は、募集計画の51%しか確保できず、若者募集の大半を占める任期制の「自衛官候補生」の採用達成率は30%と、3分の1にも満たない。いずれも過去最低を記録。防衛省幹部は、少子化と、それに伴う求人倍率の上昇で、若者の採用が難しくなっていることに加え、日本周辺の安全保障環境の悪化や、集団的自衛権行使の一部容認など日本の防衛政策の転換による「戦闘リスク」が高まっていることも採用難と無関係ではないと見る。

幹部自衛官を含む全体の自衛官も定数割れが続く。これまでも、例えば、40歳だった「3曹」の定年を55歳に引き上げるなど、「曹」から「将」までの定年年齢を段階的に引き上げてきたが、それでも自衛官の定員に対する充足率は9割にとどまる。

自衛官の処遇改善に向けた関係閣僚会議で発言する石破首相(手前から2人目)=2024年12月20日、首相官邸
自衛官の処遇改善に向けた関係閣僚会議で発言する石破首相(手前から2人目)=2024年12月20日、首相官邸、岩下毅撮影

自衛隊の人手不足は昨年9月の自民党総裁選でも議論となった。総裁となった石破茂氏は総裁選で「どんなに立派な船、立派な飛行機、立派な車両を買っても、乗る人がいなければどうする」と自衛官の処遇改善を訴え、政権発足後は「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する関係閣僚会議」を立ち上げた。

ただ、処遇改善策で直ちに人材不足を解消できるわけではない。日本周辺の安全保障環境の悪化で、防衛費は急増し、南西諸島の防衛体制強化、サイバーや宇宙、敵基地攻撃(反撃)能力のための長距離巡航ミサイル「トマホーク」導入などで自衛隊の任務は拡大する一方だ。無人機やAI兵器の導入などで省人化に取り組むものの、防衛省幹部は「先端技術を駆使した装備を使うには、また新たな人材が必要になるのが実態だ」という。

石破氏は2002年の衆院憲法調査会で、徴兵制は「『意に反した奴隷的な苦役』だとは思わない」とし、「徴兵制が憲法違反であるという議論には、どうしても賛成しかねる」と発言し、物議を醸した。ただ、首相就任後の昨年10月には、徴兵制は「平時、有事を問わず、憲法の規定の趣旨からみて許容されるものではない」とする答弁書を閣議決定し、従来の政府見解に変わりがないとした。

防衛力の抜本強化に進む政府だが、担い手をどう確保するか。防衛省幹部は「日本の安全保障にとっての最大の敵は、自衛官の人手不足だ」と漏らす。