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BTSのJINさん 早ければ年内にも入隊  ファンに明かした、言えなかった苦しさ

World Now 更新日: 公開日:
米ホワイトハウスの記者会見室を去るBTSのメンバーたち
米ホワイトハウスの記者会見室を去るBTSのジンさん(左)とj-hopeさん(中)=ワシントン、ランハム裕子撮影、2022年5月31日

本人たちは一貫して「行く」と言っていたが…議論紛糾し沈黙

「あまりに悪く言われるので、早く発表したかったけど我慢しました」

「僕たちの間では(兵役の話は)ヴォルデモードみたいでした」

先立つ10 月29日の朝(日本時間)、JINさんはファン向けの生配信のなかでこう語った。

ヴォルデモードは「ハリー・ポッター」に出てくる最強の敵。その恐怖のために名前を口にしてはいけないということから、兵役の話が最近は一種の「タブー」になっていたということだ。

メンバーはそれまで、「兵役の義務は果たす」と自ら口にしてきた。

BTSの兵役に対する関心は韓国内外で高く、記者会見などでは年齢的に最初に行くことになるJINさんが答えるのが常だった。

記者会見や、テレビ番組で質問されたときには「大韓民国の青年として兵役は当然のことだと考えている」「国からの招集があればいつでも応じる予定です」「メンバーたちともよく話しますが、兵役には皆が応じる予定です」などと話していた。

年齢的にはJINさんの次に兵役に行くことが想定されるSUGAさん(29)は、自作曲の中で「軍には行く時になったら行くから…(中略)黙ってろ」と苛立ちを表していたこともある。

だが今年4月、アメリカラスベガスでのコンサート前での会見で質問されたJINさんは「行く」とは言わず「兵役については会社に一任しています」と答えた。

この言葉に、ネットでは「やはり特例で免除されるのを待っている」「今まで行くといっていたのは噓か」と非難があふれた。

この発言についてJINさんは、「僕も非正規職なので。再契約して仕事を続けないといけないのに、会社と違うことを言うわけにもいかないじゃないですか」とユーモアを交えて説明した。

所属事務所のHYBEは、利益の大部分をBTSに依存してきた。メンバーの入隊は株価にも影響する。可能なら兵役に行かずに済むようにしたかったというのが本音かもしれない。

結局、発表のタイミングは釜山の万博誘致コンサートの2日後。「涙のコンサートにはしたくない」というJINさんの希望が考慮された。これが、入隊前に7人がそろう最後のコンサートになった。

グローバル人気とともに「国益」「国威発揚」…国会で審議

BTSの兵役問題が議論になり始めたのは、2018年ごろからだ。

この年、アメリカビルボードのアルバムチャートで、BTSの二つのアルバムが1位、北米を含む世界ツアーでもチケットを完売させるなど、グローバルな人気が話題になった。

徴兵制がとられている韓国の男性には18歳から28歳までの間に約2年間の兵役義務があるが、その期間や内容が大幅に変わる「特例制度」がある。

オリンピックでのメダリストなどのスポーツ選手や、国際的なコンクールで優勝したクラシック音楽の演奏家、またはバレエなどの分野では「国威発揚」に貢献したとされて適用され、キャリアの中断なく活動を続けられるようにするものだ。

サッカー・プレミアリーグのソン・フンミン選手も、2018年のアジア大会での金メダル獲得で対象となった。

そんななか、メダリスト同様に国威発揚に貢献しているBTSに特例がないのは「不公平ではないか」という声が、政治家などから上がったのだ。

経済効果も指摘された。韓国のあるシンクタンクは「BTSが韓国経済に毎年36億ドルを貢献している」と分析したこともある。彼らが兵役で2年間活動できないのは「国家的損失」であるという論だ。

そんな世論や政治家からの声を背景に、韓国の国会でも審議されるようになった。その結果2020年12月、兵役の「免除」ではなく、30歳まで入隊を先送りできる対象として「大衆文化芸術分野の優秀者」を含める法改正が成立した。

延期できる条件は、文化勲章・褒章を受けた受勲者など。BTSのメンバーたちは2018年に花冠文化勲章を受けていたため適用されたが、KPOPの分野ではほかにおらず、この法改正は「BTS法」とも呼ばれた。

問われた「公平性」 「特例」を全てなくそうという主張も出たが

先送りされた「30歳」のタイムリミットが改めて迫るなか、BTSはDynamaiteなどの英語曲を発表し、韓国人歌手として初めてビルボードのシングルチャートで1位を獲得。グラミー賞にも2年連続でノミネートされるなど勢いは止まらなかった。

韓国音楽コンテンツ協会などは、「大衆音楽や芸能分野が特例の対象にならないのは不公平だ」と主張、これを機にKPOPなどの大衆芸術分野でのルール作りを求めてきた。

しかし、現実的にルールをつくるとなると簡単にはいかなかった。

アメリカなど外国のチャートや音楽賞の受賞を条件にするのはおかしいのではないか、営利目的の活動なのに、特例を認めるべきではないなど異論が噴出した。

また、韓国国防省側はそもそも、少子化で入隊する人数が年々減る中、特例対象の拡大に否定的だった。BTSの兵役についても国防相が「(兵役に就くことが)望ましい」としてきた。

公平性の議論では逆に「どんな仕事や分野であっても、キャリアの中断は重い。公平性を保てというなら、スポーツ選手も含めて特例を原則なくすべきだ」という主張もあった。

結局、国会での議論は進まないまま延期期限が迫り、今回の入隊表明となったのだ。

韓国では、BTSの入隊を機に、これまでの兵役法の改正議論そのものがストップするのでは、という見方が出ている。

KPOPのアーティストなどが特例の対象にならないのは不公平だということは、文化体育観光部も認めていて、引き続き議論を続けるとしているが、現実には、BTSのほかに特例の対象になると世論が認めるほどのアーティストが出ていないためだ。

ファンの思いは? 日韓の近現代史知ろうという呼びかけも

結局、政治家も国防省も気にしていたのは、法改正に不可欠な世論の動向だった。調査では「BTSほどの貢献度なら、特例にしても良いのでは」という声は優勢ではあったものの、圧倒的とは言えなかった。

背景には「兵役逃れ」に対しての厳しい目だ。

入隊前の身体検査などで詐病をするなどする人がいたり、政治家や企業家などの息子たちは、金銭やコネなどを使って不正に徴兵を逃れる人がいたりする。これが「不公平感」に拍車をかけているのだ。

かつてトップスターだった歌手が、韓国籍を放棄しアメリカの市民権を得たことが「兵役逃れ」との疑惑を呼び、激しい批判にさらされた結果、20年以上韓国への入国が拒否されているという事例もある。

このため韓国のARMY(BTSのファン)たちは「特例」の対象になれば、非難の声が高まることを予想し、「政治家は自分の人気のために彼らを利用するな」「行くと言っているのだから、もう放っておいて」という声が多かった。今回の発表を受け、活動休止を寂しがる声と共に、「これでなんだかんだと言われずに済む」とほっとした声も多く見かけた。

一方、日本のARMYたちからは、これをきっかけになぜ彼らが兵役に行かなければならないのかを知ろうという声があがった。

韓国に徴兵制がある最大の理由は、朝鮮戦争が終結しておらず、休戦状態であるためだ。

日本の植民地から解放された朝鮮半島に、日本の撤退と入れ替わりに旧ソ連軍と米軍が進駐。冷戦構造が深まる中で戦争が起きた。

ツイッターでは、#ARMYにおすすめしたい映画と本 というハッシュタグが登場。朝鮮戦争を含め、日韓の近現代史がテーマになった小説や映画、歴史の入門書などを紹介し合っている。

BTSのグループでの活動再開は、2025年が目標だという。