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韓国の「良心的兵役拒否者」、代わりの任務は刑務所で

ニューヨークタイムズ 世界の話題
Lee Seung-ki, a Jehovah's Witness who will work in a prison as an alternative to military service, in Seoul, South Korea on Oct. 14, 2020. A court ruled that conscientious objectors in South Korea must be allowed to serve their country in other ways but the government says they'll still have to do so behind prison walls. (Woohae Cho/The New York Times)
「良心的兵役拒否者」として、新制度の代替服務が認められた新宗教団体・エホバの証人の信徒イ・スンギ=Woohae Cho/©2020 The New York Times

宗教上の信念から軍隊に加わることを拒否した何千人もの「エホバの証人」(訳注=キリスト教系新組織の一つで、兵役、輸血、格闘技などを拒む教義でも知られる)の他の信徒たちと同じく、イ・スンギは刑務所入りすることになった。

だが、これまでのケースと異なり、イは有罪判決を受けた犯罪者として刑務所に送られるわけではない。彼は刑務所の中で(従来の囚人扱いを受ける代わりに)、コックや用務員、医療助手といった仕事に就く代替服務を初めて認められた、良心的兵役拒否者の一人だ。

イと他の63人は10月下旬の月曜日から3年間、刑務所で過ごすが、受刑者とは別々の生活で、数週間の休暇も認められる。信仰のために刑期を務めたこれまでのエホバの証人の信徒とは違って、イらはその後の生涯で、前科がつくわけではない。

代替服務は、厳密に言えばなおも戦争状態にある北朝鮮に対する防衛上、徴兵制が不可欠な国における劇的な政策転換である。兵役は健常な若い男性にとっての尊敬される通過儀礼で、通常は18歳から28歳までの間に21カ月、軍務に服すことが求められる。

韓国は、良心的兵役拒否者をどの国よりも多く投獄してきた。韓国の兵役法は「正当な」理由なしに徴兵を拒否した者には最高3年間の懲役を科している。何十年間にもわたり、毎年何百人もの若者たち――その大半がエホバの証人の信徒――を通常18カ月の刑務所送りにしてきた。彼らは囚人として、イが服務するのとほとんど同じ仕事に従事した。

「違いは、かつての兵役拒否者は囚人服で18カ月間そうした仕事に就いたが、私たちは合法化された良心的兵役拒否者として3年間、その仕事をするのだ」とイは言っていた。「私は、自分の良心に反することなく国に奉仕する機会をついに与えられたことに感謝している」

韓国の憲法裁判所による2018年の画期的な判決は、良心的兵役拒否者の投獄は代替服務の形態がないため違憲であると認定し、政府にそれを設けるよう命じた。2019年12月、議会は刑務所での公務作業と「その他の公益部門」での公務作業を認める法律を可決した。だが、少なくとも今のところ、政府が提供している選択肢は刑務所での仕事だけである。

人権団体は、韓国の代替服務は3年間で世界最長だとして批判的だった。

良心的兵役拒否者は「代替懲罰と大差のない状況と向き合っている」。国際人権NGO「アムネスティ・インターナショナル」の東アジア研究者アーノルド・ファングはそう指摘した。「刑務所で、しかも通常の兵役のほぼ2倍の期間にわたって働かせることは、思想や良心、宗教、あるいは信条の自由という彼らの権利を尊重していない」とファングは言っていた。

それでも、エホバの証人の信徒たちにとって、代替服務はようやく獲得した勝利だ。

2008年の大統領委員会からの報告書(複数)によると、朝鮮戦争後の数十年間、韓国は軍事独裁政権下にあり、徴兵を拒否したエホバの証人の男性信徒は軍の新兵訓練キャンプや営倉に送り込まれ、「裏切り者」として非難を浴びせられ、殴られ、場合によっては殺された。

教会員の一人、キム・クンヒョン(27)は、信仰を捨てない限り刑務所送りになることを子どものころから知っていた。同じくエホバの証人の信徒だった兄は、兵役を拒んだために投獄された。キムが入隊命令に服従しなかった時、彼もまた徴兵逃れの罪で裁判にかけられた。

だが、彼は他の27人とともに法的な異議申し立てを行い、彼の訴訟は2013年に一時停止になった。この時の異議申し立てが憲法裁判所の判決につながったのだ。

「私は、兵役に就く人たちの決定を尊重する」とキムは言い、「でも、宗教上の信念から入隊しないという私の決断も同じように尊重してほしい」と付け加えた。

Kim Keun-hyeong, another conscientious objector, and his wife, Kim Seoyoung, prepare for an online church service in Bucheon, South Korea on Oct. 14, 2020. A court ruled that conscientious objectors in South Korea must be allowed to serve their country in other ways but the government says they
キム・クンヒョン(右)もエホバの証人の信徒で、良心的兵役拒否者の一人だ。妻のキム・ソヨンと一緒に、オンライン礼拝の準備=Woohae Cho/©2020 The New York Times

憲法裁判所の判決後、当局者と議員は高齢者施設や消防署、病院といった場所での仕事などさまざまな形態の公務を検討した。そうした代替服務が十分な期間や厳しさを欠けば、若者たちは倫理的な原則という名目で兵役逃れに走り、110万人を擁する強力な北朝鮮軍に対抗する韓国軍の能力を危うくするだろうと主張する人たちもいた。

刑務所での仕事に就く良心的兵役拒否者には、銃の携帯が必要な警護の仕事や受刑者護送の任務を免除される。ただし、兵士と同じように、兵舎並みの施設で一緒に生活する。

誰を兵役免除の対象にするべきかについての問題は、韓国では長い期間、微妙なテーマだった。

「私たちの国を守ることは神聖な義務だが、誰もが武器を携行しなければならないという意味ではない」。与党のベテラン議員のノ・ウンレは10月、そう述べ、BTS(防弾少年団)のメンバーのようなKポップのスターは兵役免除の対象にすべきだとの考えを打ち出した。

トップアスリートは過去数十年間にわたり、国家の名声を高めたという理由で兵役を免除されてきた。Kポップのファンたちは、世界的なポップスターがそうした特権を認められていないのは不公平だと言っている。

徴兵を管轄する兵務庁は10月、議会への報告書で妥協案を提示した。トップクラスのKポップスターについては、彼らがパフォーマンスの最盛期にさらに何年か活動を続けられるよう徴兵の時期を先延ばしにする案である。

こうした改正は、BTSの最年長メンバーのキム・ソクジンには天恵だろう。彼はこの12月に28歳になるので、来年中には入隊しなければならないからだ。

しかし韓国には、そう多くの兵役免除を容認する余裕はない。国防当局者によると、出生率が何十年間も低迷してきたため、62万人の徴兵部隊を維持するのに十分な若者の確保が間もなくできなくなる(韓国軍は女性の志願兵を受け入れており、その数は現在約1万3千人だが、女性の徴兵については真剣に議論されたことはない)。

韓国では、兵役逃れとみなされる男性に対し依然として強い敵意が向けられる。かつて最も人気があったKポップス歌手の一人、ユ・スンジュン(43)は米国市民になって兵役を逃れたと非難され、2002年、自分の経歴が音をたてて崩れ燃え尽きるのを目の当たりにした。以来、彼は韓国への入国を禁じられている。

先のキム・クンヒョンの場合、憲法裁判所の判決によって自身の苦難に終止符が打たれたわけではなかった。

もともとの訴訟は下級裁判所で再開され、検察は彼が真の良心的兵役拒否者かどうかに焦点を絞った。平和主義の聖書の教えに従って生きてきたという彼の主張を崩すために、彼が銃や暴力が絡むゲームをしたことがあるかどうかをオンラインゲーム会社に問い合わせたりした。

キムが無罪判決を受け、正当な良心的兵役拒否者として認められたのは今年9月になってからだった。最初に入隊命令を拒んでから8年が経っていた。

彼が被った試練の余波は、なおも尾を引いている。

昨年結婚したが、マレーシアへの新婚旅行はパスポートを取得できなかったためキャンセルしなければならなかった。当時まだ裁判が続いていたので、旅券が発給されなかったのだ。

キムは現在、政府の委員会に、代替服務の対象になる良心的兵役拒否者の申請中だ。

彼と妻は、刑務所での彼の代替服務が始まれば何年も離れて暮らすことになるので、その準備をしている。

「3年間の離れ離れの暮らしをどうするか、話し合っている」と妻のキム・ソヨンは言う。彼女もエホバの証人の信徒だが、「彼が自由になったら、一緒に世界中を旅行しようと約束した」と言っていた。(抄訳)

(Choe Sang-Hun)©2020 The New York Times

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