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アメリカで50年以上なかった徴兵制、復活めぐり議会で議論 女性への拡大案に賛否

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
海兵隊員になるための最終関門である54時間にわたる試練に耐えている女性新兵たち
海兵隊員になるための最終関門である54時間にわたる試練に耐えている女性新兵たち=2019年2月20日、サウスカロライナ州パリスアイランド、Lynsey Addario/©The New York Times

米軍は50年以上にわたって徴兵制を実施していないが、米連邦議会では、女性を初めて徴兵の対象に含めることや、招集対象の若者を自動的に登録する仕組みの導入など、徴兵制度の改定を検討している。

こうした提案が上下両院を通過して法律になる可能性は小さいし、いずれもすぐさま徴兵制を再開させるものではない。しかし、制度変更の可能性をめぐって議論が始まっていることは、米議会が徴兵制度について再検討していることを意味している。

背景には、米軍の即応性の問題が表面化したことと、世界で多くのリスクが生じ紛争が起きている中で、国防総省が兵員集めに苦労しているという事情がある。

米下院本会議は2024年6月14日に、8950億ドル(約143兆円)の年次国防政策法案を可決した。法案には、軍人給与の19.5%増額のほか、徴兵登録を自動的に行えるようにする超党派の提案も含まれている。

同時期に上院軍事委員会で可決された別の国防政策法案では、徴兵登録の義務を女性に広げる内容が含まれていた。軍事委員会委員長であるロードアイランド州選出の上院議員ジャック・リード(民主党)は、この男女平等の提案の熱心な唱道者だ。

徴兵に関する現行法では、18歳から25歳のほとんどの男性に連邦政府の選抜徴兵局への登録が義務化され、対象になる若者のデータベースが作成されている。議会と大統領が徴兵制を復活したときに、だれが対象となるのか軍が決定できるようにするプログラムである。ただし、徴兵制はベトナム戦争が行われていた1973年以来発動されていない。

現行法では登録を怠れば犯罪とみなされ、処罰の対象となりうる。

米国の州および海外領土のうち少なくとも46の地域で、男性が運転免許を取得するときか大学へ出願する際に自動的に選抜徴兵局に登録される法律があり、このおかげで登録率は高い。

2023年には、米国全土で1500万人以上の男性が登録されており、これは対象者の約84%にあたる(訳注=今回の改正が実現すれば、選抜徴兵局では連邦政府のデータベースを使って全対象者を自動的に登録できるようになり、従来あった登録漏れの問題が解消できる)。

国防総省によれば、兵役を志願する若者の数は減少しており、この傾向はアフガニスタンとイラクでの戦争以降続いている。最新の報道によれば、米国の成人のうち、実際の戦闘に従事した者の割合は1%以下である。これは、徴兵制の時代の最後である1960年代からかなりの減少だ。当時は、現在をはるかに上回る割合の米国人が戦闘に参加した経験を持っていた。

徴兵制の対象に女性を含めることについては、軍事専門家からなる委員会が2020年に「米国の国家安全保障上の利益である」との提言を議会に対して行った。それ以来、議会では何度も改正の提案が検討されたが、すべて廃案になっている。

2016年以来、米軍において女性はあらゆる任務に就くことが認められており、地上での戦闘行為も含まれている。女性を徴兵の対象にすることについては、ある程度の超党派の支持もある。

共和党でも、アラスカ州選出の上院議員リサ・マカウスキーは州議会議員時代に同趣旨の提案に賛成した。メーン州選出上院議員のスーザン・コリンズも「理にかなっている」と賛成を表明している。共和党の最高幹部であるケンタッキー州選出の上院院内総務ミッチ・マコネルでさえも、徴兵登録を含む軍隊における女性の役割拡大を支持しているのだ。

しかし、女性を徴兵対象に加えるという考えは長年、保守的な共和党員の反対の壁にぶつかってきた。少なくとも共和党の上院議員候補の一人は、この問題を民主党の対抗馬を攻撃するのに利用しようとしている。

先に述べた上院軍事委員会による法案可決直後のことだが、全国でも有数の激戦区のひとつであるネバダ州の上院選挙の候補者で、戦傷軍人である元陸軍大尉のサム・ブラウンが、この問題を取り上げて民主党現職のジャッキー・ローゼンを攻撃した。

ブラウンは、SNSで発信したビデオメッセージの中で、女性を徴兵制の対象に含めることを「馬鹿げている」「容認できない」と非難した。「我々の娘たちが徴兵されることはあってはならない」とブラウンは言うのだが、対抗馬のローゼンだけを非難し、制度変更支持を表明している共和党上院議員のだれについても一言も触れなかった。

徴兵登録に女性を追加する案を、共和党が「軍隊内で暴れ狂っている進歩主義傾向」と批判するものとすぐさま結び付けた共和党右派の議員もいる。ミズーリ州選出上院議員のジョシュ・ホーリーは、これは米軍に押し付けられている新たな「ウォーク」(訳注=偏見や人種差別に対するリベラル派による問題提起)だと呼ぶ。

「このあたりで現実を見つめ直すべきだ」とホーリーはフォックス・ニュースで語った。「女性を徴兵に含めるべきではない。望まない女性に徴兵制を強制してはならないのだ」

徴兵対象者の自動登録制度の方は、これほどの論争は呼んでいない。賛成派の議員は、登録義務の周知に毎年莫大(ばくだい)な予算を使っている選抜徴兵局を合理化し、支出を削減できると主張する。

空軍の退役軍人であるペンシルベニア州選出の下院議員クリシ・フラハン(民主党)はこの提案の先頭に立っている。「現在の煩雑な役所の手続きを削減し、重要な政府機関の効率を高め、納税者のお金を節約できる」。同じく空軍の退役軍人であるネブラスカ州選出の下院議員ドン・ベーコン(共和党)は、自動登録の仕組みについて「画期的だ」と評する。

しかし、議会のこうした最近の動きは十分理解されていない。一部では徴兵制度そのものの復活とさえ誤解されているのである。(抄訳、敬称略)

(Robert Jimison)©2024 The New York Times

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