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ウクライナ侵攻から3年、限界が近い両陣営 停戦への道筋は?世界と日本は何を学んだか

揺れる世界 日本の針路 更新日: 公開日:
対地雷伏撃防護車両に乗って戦闘任務に出るウクライナ海兵隊の兵士=2025年2月10日、ドネツク州ポクロウシク近郊、ロイター
対地雷伏撃防護車両に乗って戦闘任務に出るウクライナ海兵隊の兵士=2025年2月10日、ドネツク州ポクロウシク近郊、ロイター

ロシア軍がウクライナに全面侵攻して2月24日で満3年になります。ウクライナのゼレンスキー大統領は今年中に停戦に持ち込みたい考えを示しています。3年間の戦禍は世界と日本にどのような影響を与えたのでしょうか。陸上自衛隊中部方面総監を務めた山下裕貴千葉科学大客員教授は「日本は直ちに安保3文書を改定すべきだ」と語ります。(牧野愛博)

――3年間の攻防はどのように展開されたのでしょうか。

2022年2月、ロシアによる奇襲攻撃でウクライナへの侵略が始まりました。ウクライナ軍はよく耐えましたが、2023年6月から始めた反転攻勢は戦局を大きく変えるに至りませんでした。

ウクライナ軍の兵力が十分でなかったことや、ロシアが「スロビキン・ライン」と呼ばれる長大な塹壕を構築したことが原因でした。ロシア軍は戦力を再編し、800キロに及ぶ前線を点ではなく面で押しながら、じりじりと前進しています。ウクライナ軍も戦力を再編し、よく防いでいますが、やや押され気味です。

赤色の囲いは、ロシア軍が支配したとみられている地域。黒色の囲いは2022年2月の本格侵攻前からのロシア側支配地域。水色の点線がウクライナ軍が奪還した地域。ザポリージャ州ヴェルボヴェ近郊には、ロシア軍が築いた長大な塹壕、通称「スロビキン・ライン」がある(赤い三角の連なり)=2025年2月13日現在の戦況を示すISW Ukraine Invasion Interactive Web MapよりGLOBE+編集部作成
赤色の囲いは、ロシア軍が支配したとみられている地域。黒色の囲いは2022年2月の本格侵攻前からのロシア側支配地域。水色の点線がウクライナ軍が奪還した地域。ザポリージャ州ヴェルボヴェ近郊には、ロシア軍が築いた長大な塹壕、通称「スロビキン・ライン」がある(赤い三角の連なり)=2025年2月13日現在の戦況を示すISW Ukraine Invasion Interactive Web MapよりGLOBE+編集部作成

――各戦闘正面の状況はどうなっていますか。

ウクライナが2024年8月に越境作戦で侵攻したロシア南東部クルスク州の戦いは、ロシア軍がウクライナ軍の占領地域の60%を奪還し、なお攻撃を加えています。北朝鮮軍兵士約1万2000人が派遣されていますが、目立った戦果は挙げていません。

ウクライナ北部ではハルキウ州の一部にロシアが侵入を試みています。

東部では、ロシア軍がほぼ占領したルハンスク州に続き、ウクライナがなお3分の2程度を支配しているドネツク州に激しい攻撃を加えています。特に、同州中部のチャシウヤールとポクロウシクに対する攻撃は最も激しく、ロシア軍はチャシウヤール市街に突入し、ポクロウシクでは市街地にまで迫っています。両市が陥落すると、北に位置するドネツク州の要衝、クラマトルスクやスラビャンスクが危機に陥る可能性があります。また、ポクロウシクから西に向かうと中部ドニプロペトロウシク州にまで戦線が拡大する恐れがあります。

南部のヘルソン、ザポリージャ両州では大きな動きはありませんが、ウクライナ軍がじりじりと押されています。

ロシア軍は全体的に攻勢をかけていますが、その代わり、1日約1500人にも達する戦死傷者を出す状態が続いています。

――元陸将として3年間の戦闘をどのようにみていましたか。

やはり、防御に回る側は苦戦を強いられます。戦場で主導権を握るためには、攻勢が必要です。現実問題としてウクライナ軍の士気が下がり、脱走兵が相次いでいます。ロシアのクルスク州に侵攻した理由の一つはウクライナ軍の士気を挙げるためでしたが、長続きしていません。その意味で、ロシア軍による奇襲攻撃を許した西側諸国の責任も重いと言えます。大国による安全保障が簡単に崩れる現実を、ロシアによるウクライナ侵攻は見せつけました。

無人偵察ドローンを飛ばすウクライナ軍の独立空挺旅団兵士=2025年2月5日、ドネツク州ポロシウシクの前線近郊、ロイター
無人偵察ドローンを飛ばすウクライナ軍の独立空挺旅団兵士=2025年2月5日、ドネツク州ポロシウシクの前線近郊、ロイター

新しい戦い方としては、ドローン(無人機)の登場が何よりも大きかったと思います。陸上戦闘で、従来の歩兵や砲兵、戦車兵などに加え、ドローン兵は欠かせない戦力になりました。ドローンなくして近代戦闘は成り立ちません。戦闘力は機動力、火力、防護力で決まります。ドローンの場合、防護力はほとんどありませんが、機動力が高く、火力もあります。

ドローンは、ウクライナ戦争において偵察や攻撃用に幅広く使われています。飛行距離が長いドローンはミサイルに劣らない破壊力があります。また、水上型や半潜水型のドローンは黒海でのロシア海軍の活動をほとんど許していません。高価な軍艦に比べ、安価なドローンの登場は、海軍の装備や編成に大きな影響を与えています。

また、電子戦や情報戦の重要性も浮き彫りになりました。ウクライナもロシアも相手の指揮通信網やドローンの操縦電波などを妨害しています。偽情報を流して相手国民の厭戦(えんせん)機運を盛り上げる試みも盛んに行われているようです。

ロシアのドローンがキーウ上空で爆発する様子=2025年2月5日、ウクライナ首都キーウ、ロイター
ロシアのドローンがキーウ上空で爆発する様子=2025年2月5日、ウクライナ首都キーウ、ロイター

――日本はどのような教訓を得たでしょうか。

日本の防衛力を抜本的に見直すため、2022年12月に閣議決定された安保3文書を全面的に改定する必要があります。まず、戦略環境として、ロシアと北朝鮮の接近など国際情勢が大きく変化しています。朝鮮半島有事にロシア軍が介入する可能性が浮上する一方、台湾有事ではロシア軍や北朝鮮軍も同時に行動を起こす複合事態が考えられます。国家安全保障戦略を改定する必要があります。

また、陸海空自衛隊の戦い方を大きく変更せざるを得ません。国家防衛戦略で、軍事科学技術の発展や戦術の見直しが不可欠です。さらに、こうした戦略や戦術の変更を具体的に防衛力整備計画に反映させる必要があります。陸海空自ともにドローンの数や種類を大幅に増やさなければなりません。

――ロシアとウクライナは今年中に停戦に至るでしょうか。

両国ともに限界に近付いているのは間違いありません。ロシアは「特別軍事作戦」という主張を捨てない限り、総動員令を出せません。旧式の装備まで引っ張り出して使っていますが、それも在庫が尽きつつあります。戦車や装甲車の損失量が生産量を上回っているため、北朝鮮による支援があっても限界が近いと思います。ウクライナも相対的に人口が少なく、人的損耗が少なくありません。西側諸国による支援も、トランプ米政権の登場でどこまで続くかわかりません。

握手をするプーチン大統領(右)とトランプ大統領=2018年7月16日、フィンランド・ヘルシンキ、ロイター
握手をするプーチン大統領(右)とトランプ大統領=2018年7月16日、フィンランド・ヘルシンキ、ロイター

あとは政治的な決心が残るだけです。トランプ大統領がプーチン大統領とゼレンスキー大統領にそれぞれ政治的な成果を与えることができれば停戦に持ち込まれる可能性があります。

ただ、停戦しても、いつごろに休戦状態が実現するのかはわかりません。ましてや恒久平和が実現するまでにはまだまだ長い時間がかかるでしょう。