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苦戦するウクライナ軍 弾薬消費はロシアの6分の1?欧米の供与で兵器実験場化の懸念も

揺れる世界 日本の針路 更新日: 公開日:
弾薬を取り扱うウクライナ兵
弾薬を取り扱うウクライナ兵=2022年7月28日、ウクライナ北東部ハリコフ州、ロイター

ロシア軍の侵攻に、ウクライナ軍の苦境が続いている。ウクライナ国営通信は3月29日、ウクライナ軍が使用している弾薬はロシア軍の6分の1に過ぎないとする、シルスキー総司令官のインタビューを伝えた。陸上自衛隊中部方面総監を務めた山下裕貴・千葉科学大客員教授は、ロシア軍が春に大規模な攻勢に出る可能性が高いと予測したうえで、ウクライナ軍に一刻も早く航空戦力や防空兵器を支援する必要があると指摘する。(牧野愛博)

――ウクライナを巡る現在の戦況をどうみていますか。

ウクライナ軍は、弾薬が圧倒的に不足しています。部隊の損耗も大きいようです。ウクライナ軍は「積極防衛」を唱えていますが、実際には防衛に徹せざるを得ない状況です。ロシア軍は人員や装備の補充も進めていて、補充のペースはウクライナ軍を上回っています。ロシア軍が春の攻勢に向けて着々と準備をしているというのが現状です。

――ロシア軍の攻勢はどのような動きになるでしょうか。

プーチン大統領は軍に対してドネツク、ルハンスクのウクライナ東部2州の完全占領を命じています。すでにルハンスク州はほぼ掌握していますが、ドネツク州の3分の1程度が依然、抵抗を続けています。

ロシアは東部2州に加えて、ザポリージャ、ヘルソンの南部2州の「併合」も宣言していますが、南部2州はロシアからの補給線が長く、数も少ないため、戦線を維持するのが簡単ではありません。ロシアはまず、ドネツク州の完全制圧を目指すために、この正面から攻勢に出るでしょう。

――ロシア軍のドネツク州での攻撃経路をどう予測しますか。

おそらく、制圧したアウディーイウカとバフムートを基点にして軍を進めようとするでしょう。

アウディーイウカの次に交通の要衝、ポクロフスクを狙い、さらに北に進んでドネツク州境を目指すと思います。バフムートから進むロシア軍は、コスチャンチニウカ、さらにクラマトルスク、スリャビャンスクを攻撃しようと考えていると思います。

これに対し、ウクライナ軍は今、アウディーイウカから撤退しましたが、近郊の川を防御線にして戦っています。ここからポクロフスクまで広がる丘陵地帯でロシア軍を止める必要があります。また、バフムート正面では、ウクライナ軍は近郊のチャシプヤールに要塞を作り、ロシア軍がコスチャンチニウカに向かうのを阻止しています。

ロシア側の激しい攻撃を受けるウクライナ東部バフムートのドローン映像
ロシア側の激しい攻撃を受けるウクライナ東部バフムートのドローン映像=2023年4月、Adam Tactic Group/Handout via REUTERS

――ウクライナ軍がロシア軍の攻撃を食い止め。攻勢に移るためには何が必要でしょうか。

ドネツク、ルハンスクの東部2州はもともと親ロシア勢力が多く、またロシア国境に接しているためにウクライナ軍の反転攻勢は容易ではありません。むしろ、ザポリージャ、ルハンスクの南部2州で攻勢をかける可能性があります。

現在、ウクライナの戦場は両軍による陣地の取り合いになっており、第1次世界大戦のような消耗戦の様相を見せています。ドローン(無人機)も大量に投入され、兵士の犠牲も増えています。

ウクライナ軍がロシア軍の攻撃を阻止し、攻勢に転移するためには、弾薬に加え、防空兵器が必要です。ロシア軍は最近、戦闘機が搭載した滑空誘導爆弾をウクライナ軍の対空ミサイルの射程外から発射して攻撃しています。迎撃するため、射程70キロ以上の対空兵器が必要になります。

また、攻勢のためには航空優勢の獲得が必要です。西側諸国が支援を表明しているF16戦闘機の一日も早い実戦配備が必要です。いずれにしても最大の支援国である米国の支援が不可欠になります。

――シルスキー総司令官もウクライナ国営通信とのインタビューで、ミサイルなど防空兵器の供与を訴えていました。

今、振り返ると、ウクライナ軍が2022年10月1日にドネツク州の要衝リマンをロシア軍から奪還したときがポイントでした。当時は、「スロビキン・ライン」と言われるロシア軍の防御線はすべて完成していませんでした。あのまま、ウクライナ軍が機動戦の利点を生かして攻勢に出ていれば、ドネツク州を取り戻すことができたのかもしれません。

ゼレンスキー大統領(中央左)に軍事作戦を説明するシルスキー陸軍司令官(中央右)
ゼレンスキー大統領(中央左)に軍事作戦を説明するシルスキー陸軍司令官(中央右)=2023年11月30日、ウクライナ北東部ハルキウ州クピャンスク、ロイター

しかし、西側諸国の支援は進まず、ウクライナ軍が反転攻勢を始めたのは2023年6月でした。西側諸国には「ロシア国内を攻撃したら、戦火がNATO(北大西洋条約機構)域内に及んだり、ロシアの核兵器使用を招いたりするかもしれない」という考えがあったのでしょう。

ウクライナの戦場では、高性能の新兵器が次々に投入されて、「新兵器の実験場」とも化しています。兵器の高性能化により、精度や破壊力が向上し、市民や兵士の犠牲も飛躍的に増加します。

私が現役だった当時、南スーダンを視察しました。そこで国連ミッションの軍関係者が「かつて、この地域での民族紛争で使われていた武器は槍と弓矢くらいだった。欧米が大砲や戦車、機関銃などを供与し、武器が高性能化されたことで、被害が格段に大きくなった」と語っていました。ウクライナでも今、兵器の高性能化によって人的・物的被害が拡大するという同じ悲劇が起きているのです。