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ウクライナ軍、東部でロシアに苦戦 砲弾不足や80年前の武器「水で冷やしながら…」

World Now 更新日: 公開日:
戦闘車両に乗って移動するウクライナ兵ら
戦闘車両に乗って移動するウクライナ兵ら=6月14日、ウクライナ東部ドネツク州、ロイター

ドンバス地方のうちルハンシク州をロシア軍が7月初め、完全掌握したと発表した。プーチン大統領は「ロシア系住民が虐殺されている」と主張、国民へのアピールを狙ってドンバス全域の占領を急ぐ。残るドネツク州の攻防が今後の焦点だ。

「兵士の命を守るため」。ウクライナ軍司令部はルハンシク州撤退の理由をこう説明した。ロシアから激しい砲撃、空爆をあび続けたためだ。

ルハンシク州では主要都市セベロドネツクの戦いが焦点だった。部隊がロシア軍に包囲されかけ、ウクライナ軍は撤退を決めた。その大きな原因が砲弾不足だった。

ルハンシク州の位置=Googleマップより

ウクライナ軍の砲弾不足は1カ月前には表面化していた。軍情報部門トップがアメリカ紙ニューヨーク・タイムズに「ドンバスで1日5千~6千発砲撃しており、砲弾が尽きかけている」と述べた。ロシアの砲撃数はその10倍にのぼった。

数十キロ飛ぶ大砲を豊富に持つロシア軍は「長距離砲戦」で優位に立った。まず遠くの「安全地帯」からドローンを飛ばしウクライナ部隊の位置を特定。長距離砲の砲弾で攻撃したのだ。

ウクライナ側の前線の兵士たちは苦境を次のように語る。

「かつては一発撃たれるごとに撃ち返した。しだいに砲弾節約のためロシアの大砲だけ狙う、というように標的を絞らざるをえなくなった」

ウクライナ東部ハリキウ(ハリコフ)で略奪するロシア兵ら=住民提供

そのため最前線の塹壕の危険が増した。ウクライナの歩兵たちの声をアメリカのメディアNPRが次のように伝えた。

「歩兵はひたすら塹壕に隠れる。手に持つ小銃を使う場面はない。敵が小銃の届かない距離から大砲で雨あられと撃ってくるからだ。タバコを吸って休憩しようとしても1分後に敵の砲撃が再開される」

通信の不備が危機に輪をかける。ニューヨーク・タイムズ(6月28日)によると、ウクライナ軍はロシア軍の妨害などで、部隊間の通信がうまく取れていない。ドンバスに配備された複数の旅団(各約4千人)は、ばらばらに動いている。

そのため、ウクライナ軍のルハンシクでの犠牲者は1日当たり200人にのぼった。前線のウクライナ兵は次のように言う。

「配置についた初日、いきなり100人いた部隊のうち30人が犠牲になった。砲兵に通信できず、砲撃の支援を頼めなかった」

次々と兵士が死ぬ「消耗戦」の様相が強まった。

しかも、ウクライナ軍は自前の兵器が古く、第2次世界大戦時のものさえ使わざるを得ない。ドイツ国営ドイチェ・ヴェレの記者に、ウクライナ兵が語った。

「見てくれ、1944年製の機関銃もある。すぐ過熱するので水で冷やしながら使っている。ロシアの兵器とは比べものにならない」

「1944年製の機関銃を水で冷やしながら使っている」と話すウクライナ兵=ドイツ公共放送「ドイチェ・ヴェレ」のYouTube公式チャンネルより

それでもゼレンスキー政権はルハンシクですぐに自軍を撤退させなかった。主要都市セベロドネツクでの市街地戦でロシア軍に損害を与える作戦をとった。

イギリスの専門家は次のように言う。

「この2カ月、ロシアは何千もの兵士を失った。ウクライナの抵抗は成功したというべきだ」

そのロシア軍は、次に狙うドネツク州北部で砲撃を激化させる。7月5日、主要都市スラビャンスクの中央市場を攻撃、2人が死亡した。事実上の州都クラマトルスクとともに両国の争奪戦が起きる可能性がある。

ウクライナは守り切れるのか。アメリカの軍事専門家マイケル・コフマン氏は6月末、次のようにツイートした。

「ドンバスの軍事バランスは今有利なのはロシアだが、長期的なトレンドでは依然ウクライナが有利だ。ただし、西側の軍事支援が維持されることが条件だ」

数を見ると、西側から届く長距離砲は不足気味だ。最も有名なりゅう弾砲M777について経済紙フィナンシャル・タイムズは「西側から来るのは250門余り。ロシア軍撃破に必要な1000門に届かない」とツイートした。

フィナンシャル・タイムズのツイート

「HIMARS(ハイマース、高機動ロケット砲システム)でロシア軍に反撃する」。ウクライナのゼレンスキー大統領は7月3日、こう述べた。

量はともかく質の面ではウクライナが優位に立ちつつある。とくにHIMARSは射程が約80キロあるアメリカ製ロケット砲で、最近4両がドンバスに投入された。すぐ結果は現れた。ロシア軍の弾薬庫・指揮所への砲撃が増えたのだ。近く追加配備もされる。

イギリスも近く、自力で目標を探して攻撃するドローン兵器を供与する。

ただ西側のウクライナへの「支援疲れ」も起きている。イギリスのタイムズ紙(7月3日)は次のように伝えた。

「兵器供与によりイギリス軍は多くの分野でパワーが低下している。ウクライナが『長距離砲の戦い』で疲弊する中、イギリスとその同盟国は近い将来、自らの戦闘能力を掘り崩すことなくウクライナを支援できなくなる」

長距離攻撃兵器の供与は続くのか。前線のウクライナ兵の悲鳴が収まるかどうかは、そこにかかっている。