「射撃!射撃!」
長い砲を持つ軍用車両「グボズジカ自走りゅう弾砲」の狭い内部に女性ウクライナ兵(24)の声が響いた。タチアナ・チュバルさん。隣の男性兵士が砲弾を装填し、チュバルさんがロシア軍めがけて砲撃する。その様子を撮影した動画をTikTokに投稿したところ、再生回数は100万回を超えた。
チュバルさんは戦いの模様をウクライナメディア「ノーボエ・ブレーミャ」(4月23日)のインタビュー取材で語っている。主なやり取りは次のとおりだ。
――もう、戦闘には参加したのか。
「北部チェルニゴフ州へ派兵されました。ロシア軍の車列がキエフに迫っていました。同じ道路で迎え撃ったのです」
――危険はなかったのか。
「速射の攻撃を5回連続で、と命じられた時です。車長も砲弾装填に加わり、素早く撃って逃げた。敵はすぐ反撃してきて、弾が私たちの数メートル先に落ちました。当たれば、あの世行きでした」
――味方の歩兵に守られていた?
「ロシア軍は斥候兵を出していました。ある時、味方の歩兵が彼らを4キロ先で見つけてくれました。すごい戦いになりました」
――なぜ軍人になったのか。
「外科医になりたかった。でも両親の離婚で経済的に難しくなりました。親戚は反対したけど、自分の居場所はここだと思ったのです。産休明けの2019年、希望して砲兵になりました」
――ウクライナ北部からロシア軍は撤退した。今は休暇中?
「いいえ。子供に会うため少しだけ時間をもらいました。上の子が7歳で小学校1年生。下の子は4歳になります。また敵を撃退するため、どこかへ出動するでしょう」
女性兵士が増えたのは、ロシアが2014年にウクライナ東部ドンバスでの内戦に介入したのがきっかけだ。今は当時の2倍以上になった。ウクライナ外務省によると、将兵の6人に1人以上が女性。準軍事組織も含めるとその数はさらに多い。
これに対し、ロシア軍の女性兵士らは4万人あまりだ。
ウクライナ政府は、国民の士気を高めようと、女性兵士をクローズアップする。国防省は公式サイトで、戦車兵スベトラーナさん(21)の声を次のように紹介した。
「大学の経済学部を出ましたが、自分の力を試したくて入隊しました。戦いは怖くありません。家族に軍人はいませんが、私を応援してくれています」
プーチン大統領は昨年7月に発表した論文「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」の中で、ソ連時代にナチスドイツとの戦いで活躍したウクライナ出身の女性狙撃手リュドミラ・パブリチェンコをたたえ、両民族の「一体性」を強調してみせた。だが、今起きている現実はそれとは真逆の状態で、ロシア兵とウクライナ兵が戦っている。
ちなみにパブリチェンコは今年の本屋大賞の小説『同志少女よ、敵を撃て』にも登場する。主人公の少女らがあこがれる「ソ連女性狙撃兵の象徴であり、最強の女性兵士」という位置づけだ。
BBC(5月6日)によると、ロシア兵の死者は姓名が確認できただけでも2120人にのぼり、ロシア各地の第2次大戦戦勝記念パレードも縮小を余儀なくされた。
タチアナさんは次のように語っている。
「子供たちと会う時間を、これから私は全く持てないと思います」
筆者はこう見る
ロシア軍がウクライナの首都キーウ(キエフ)の攻略に失敗したのは、ウクライナの軍事力を過小評価したのも一因と言われる。ウクライナが予備役や志願兵らを動員したことは、プーチン大統領の想定外だったのではないか。
2020年、ウクライナ政府は「国家安全保障戦略」を改定した。少子化を問題視しており、若い男性の人口減少が女性兵増加の背景ともなっている。
「戦略」は70項目からなり、うち12項目が「ロシアの脅威」について言及する。「ロシアへの国際的な圧力を強め、ロシアの侵略を止める」などとうたう。NATO(北大西洋条約機構)との関係強化も多くの項目で触れている。
プーチン大統領がこれに気を悪くしても不思議ではない。だが、だからといって非ナチス化を掲げてウクライナを侵略することは、どう考えても正当化できない。
戦闘が長引くことで、ロシア軍は兵力のさらなる動員が必要になっている可能性が強い。英国防省によると、ロシアがウクライナに投入した120以上の大隊戦術群のうち、4分の1以上が戦闘できない状態という。
ロシア紙「独立新聞」は4月12日、退役軍人の軍事専門家の話として、「ロシア各地で、軍が志願兵を募っている。ロシアは、彼らが構成する新たな部隊の追加配備も含め、強化策を取ろうとしている」と伝えた。
ウクライナでは、5月末以降も国家総動員令を延長する意向を軍高官が示した。戦争の長期化の可能性が強まっている。