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ウクライナ侵攻、マリウポリの子らに迫る危機 製鉄所に避難、ロシア軍による拉致疑惑

World Now 更新日: 公開日:
ウクライナ南東部マリウポリの製鉄所「アゾフスターリ」の地下で避難生活を送る女性や乳児ら
ウクライナ南東部マリウポリの製鉄所「アゾフスターリ」の地下で避難生活を送る女性や乳児ら=ウクライナ軍部隊が4月18日、SNSに投稿した映像から

ウクライナ軍が最後まで立てこもるマリウポリのアゾフスターリ製鉄所。ロシアのプーチン大統領が4月21日、ショイグ国防相に「掃討作戦」の中止を命じた。製鉄所を完全封鎖し、兵糧責めにする構えだ。

マリウポリの地図=Googleマップより

製鉄所は地下に退避壕が複数あり、民間人が少なくとも千人いるとの情報もある。その一人で、軍医の娘アリサちゃん(4)が50日間隠れていたと、英国紙デイリー・ミラーは伝えた(4月20日)。アリサちゃんが質問に答える動画も掲載しており、同じ動画がマリウポリ市議会などがソーシャルメディアに投稿している。

質問者:「今どこにいるの」

アリサ:「地下のシェルター」

質問者:「ここは好き」

アリサ:「家に帰りたい」

質問者:「誰にあいさつしたい」

アリサ:「スベータおばあちゃん」

アリサちゃんの動画=マリウポリ市議会のテレグラム投稿

ポドリャク・ウクライナ大統領顧問も同日、退避壕に隠れる市民たちの写真をTwitterに投稿、ロシア軍の攻撃を批判した。

「世界の人はオンラインで子供が殺されるのを見るのみで、沈黙を続けている」

ポドリャク氏のTwitter投稿。左上の写真がリリアさんとミーシャさん親子

アゾフスターリ製鉄所を防衛するウクライナ軍部隊が、避難壕の中の動画を公開した。リリアさん(38)とミーシャさん(13)の親子が粗末なベッドの前に立っている。リリアさんは動画で次のように語った。

「日も差さないここで、子供はうつになっています。もはや何も残っておらず、外へ出たい。子供を学校へ行かせたい。子供に成長してほしい。安全に退避できるよう、国連や国際社会が動いてほしいです」

リリヤさん親子の親友の実業家ユリア・ボリムスカヤさん(45)が、避難先のドイツで、筆者のオンライン取材に応じた。

「映像を見て息をのみました。私はリリアとは30年の付き合いです。ともにマリウポリで育ちました」

「最後に話したのは2月末。電話で『戦争が近づいている』と話していました。製鉄所は安全だと思ったのでしょう。でも死と隣り合わせで、希望がない。ミーシャはサッカー好きで、周りを笑わせてばかりいる子でした。なんとか助かってほしい」

製鉄所の中を撮影したとみられる動画。39秒あたりからリリヤさん親子が語る=NIKOLAEVECさんのYouTubeチャンネルより

製鉄所の外は地雷などの危険が残る。4歳の女の子キーラ・チェベルコちゃんは手りゅう弾の爆発で死にかけながら笑顔を絶やさない。ウクライナ・メディアTelegrafによると、キーラちゃんは、家の近くで手りゅう弾のブービートラップを踏んだ。その模様を次のように話した。

「地下に隠れていたの。すごい爆発で、うめられたの。家の近くの地面にあった電気のコードを踏んだ。そしたら、ボンとなって、ママが私の手をとって木の茂みに連れてった。(両手をあげながら)血だらけだった。(おでこを指して)けがした。両手も。(手りゅう弾の)破片が当たった。手術を受けたの」

母親のガリーナさんは次のように語った。

「とにかく五体満足でよかったです。私が一瞬目を離したすきに、娘がトラップを踏んだんです」

マリウポリでは、子供のロシアへの拉致疑惑も問題となっている。ウクライナ検事総長らによると、マリウポリ在住の12歳の少女キーラ・オベディンスカヤさんは拉致された疑いがあるという。

マリウポリから逃げていた3月末、地雷を踏み、足や顔をけがした。親ロシア派が支配するドネツク市の病院に入院した。現在、ロシアへ連れていかれると言われているという。

キーラさん=ウクライナ最高検のテレグラム投稿

ゼレンスキー大統領は4月17日、CNNの取材に「マリウポリからロシアへ、子供約5千人を含む数万人が連行された」と述べた。

行方不明者が増えるにつれ、SNSでは「尋ね人」の情報を求める人が急増している。

Facebook にできた「尋ね人」のグループの一つ「マリウポリ2022 親類、近親者の尋ね人」は、登録者が14万5千人にのぼる。

その一人リュドミーラ・クバンさんは次のように投稿した。

「子供と孫の住んでいた〇〇通りの家は焼けた。連絡が取れない。近くで見かけたり、連絡があったりした人 私の携帯へ」

マリウポリに残るワレンチナ・チタレンコさんは、親戚の7歳と10歳の男の子とその両親を「尋ね人」の掲示板で捜す。オンライン取材に次のように話した。

「一家の名前を書いたペーパーを親ロシア派の『ドネツク人民共和国』からもらいました。彼らは、マリウポリの東側を支配しています。ただ、今どこに住んでいるのか、元気でいるのか、いっさい情報がありません」

大量虐殺が判明した北部ブチャよりひどい、とワレンチナさんは訴える。

「マリウポリは、ほとんどの建物が、ロシアや『ドネツク人民共和国』の砲撃や空爆を受けました。アゾフ海からも軍艦が攻撃しています。崩壊した建物には、子供、女性、老人が遺体のまま取り残されている。それぞれの建物が共同墓地のようになっているのです」

筆者はこう見る

子供の死や苦しみほど辛いことはない。ユニセフ(国連児童基金)によると、ウクライナ全土で、子供の3分の2が自分の家を去らざるを得なかった。

ウクライナのNGO「人権オンブズマン」によると、開戦から4月初めまでに、12万1千人の子供がロシアへ連れ去られた。

ウクライナ検察当局は4月20日、開戦以降にウクライナ全土で死んだ子供は205人、けがは373人と発表した。

SNSや現地報道をみると、その数は2桁以上多いのではないかとも思う。そこに行方不明や拉致された子が加わる。

中でもマリウポリは、街の95%が破壊されたとゼレンスキー大統領は述べる。人口45万人のうち、残るのは約10万人。市内外から膨大な「尋ね人」の投稿がアップされている。

市の陥落でロシアや「ドネツク人民共和国」の占領支配は一気に本格化するだろう。マリウポリの惨劇の実態が明らかになるのはいつのことだろうか。