――アメリカとイギリスが先日、ガスと石油について輸入禁止という追加の経済制裁を発表しました。具体的な内容と、その効果について教えて下さい。
アメリカとイギリスの発表は3月8日でしたが、実はそれに先立ち、カナダも2月28日に発表しています。重要な点として、禁輸と言っても各国で内容は若干異なっています。カナダは当初発表では原油を対象にしていました。その後、3月10日の発効時には精製後のガソリンやディーゼルなども含めた石油製品にも拡大しています。
イギリスも原油と石油製品を対象にしてます。アメリカは最も対象が多く、原油と石油製品、液化天然ガス(LNG)、石炭です。
そしてこの3カ国がなぜ禁輸に踏み切れるかと言うと、いずれも産油ガス国という特徴があります。カナダは世界的な埋蔵量を持っており、その多くをアメリカに輸出しています。アメリカは需要も多いですが、生産も世界有数。イギリスは北海油田がありますね。
――つまり、ロシアからの輸入をストップしても何とか自国でやれそうだから禁輸制裁をした、ということでしょうか。
そういう側面はあるでしょう。少し話はずれますが、ちょっと面白い統計があります。アメリカについてですが、ロシア産の原油と石油製品の輸入量が過去5年ぐらいで上り調子で増えています。
特に石油製品については昨年が過去最高を記録しています。1日あたり47.3万バレル。数字で言われてもつかみづらいかもしれませんが、日本の原油輸入量が日量350万~400万バレルぐらいですから、その10分の1ぐらいに相当します。
ではどうしてロシア産が増えていったのかというと、ロシアからの輸入が増えるのとは対照的に急激に減ったのがベネズエラなんです。アメリカはベネズエラに経済制裁を科し、その代わりに伸びてきたのがロシアだったということです。
でも、産油国はほかにもあるのに、なぜロシアだったのか。ベネズエラとロシアの原油は性状で似ているものがあり、代替しやすかったことがその理由です。
ベネズエラの原油は重質油と呼ばれ、アメリカが輸入を増やしたロシア産も「マズート」と呼ばれるもので、やはり質の重い原油なんです。
――ロシアは禁輸について「困るのは制裁をした側だ」ということを言っています。
大産油国であるアメリカやカナダについて言えば、ロシアが言うように困るかどうかは疑問です。というのも、自国の生産拡大に加え、ベネズエラの制裁を解除していくでしょうし、実際、そういう動きも既に出て来ています。また、中東産油国にも増産を働きかけていくでしょう。
他方、イギリスはロシア産原油と石油製品への依存度が8%もあります。北海油田は減退しつつあり、生産余力でも限界があります。
アメリカとカナダの禁輸が即時だったのに対し、イギリスは年内にロシア産の原油と石油製品の輸入をゼロにすると時間的猶予を設けています。その間に代替供給国を探していくためです。
――なるほど。制裁と言っても3カ国ともしたたかに考えているわけですね。
そうなんです。発動しても自国がすぐに対応できる、何とかできる範囲を見定めて制裁を科していると言えるでしょう。
ただし、これら3カ国によるロシア産エネルギーの禁輸制裁発動の影響は限定的というわけではありません。これらG7の主要国が禁輸を発表したことは、市場に対して、ロシア産エネルギー商品に対するリスクを認識させることにつながります。
自国が制裁を科していない今は輸入できても、近い将来輸入ができなくなる、買い掛けてしまった資金が戻らなくなるという不安をかき立てるには十分な効果を持っています。実際にロシア産原油や石油製品を買い控える動きが見られています。
――ロシアが侵攻の手を緩めない場合には、石油・天然ガスの分野でさらなる追加制裁もあり得そうでしょうか。
その可能性はあるでしょう。ただ、だんだんと制裁範囲を広げれば、代わりの調達先確保の難しさ、価格の上昇といった、制裁する側も「返り血」を浴びていく内容にもなります。各国は慎重に検討せざるを得ないでしょう。
――3カ国以外に同様の追加制裁に追従する国はありそうでしょうか。
まずエネルギー生産国が加わる可能性があるかもしれません。ロシアに制裁を科している国の中では、3カ国のほかにオーストラリアとノルウェーもエネルギー輸出国です。
EU(欧州連合)も3月8日、欧州委員会が「ロシア産の化石燃料に対する依存度を年内で低下させていきましょう」というコミュニケを発表しました。
その柱ではロシア産天然ガスを3分の2削減する内容もうたわれています。ただし、これはガイドラインのようなもので現時点では法的拘束力はありません。
欧州はロシアから大量のガスをパイプラインで輸入しており、その流れをすぐに止めるわけにはいかない事情があります。
それに何を燃料にして発電・熱供給を行うのかというエネルギーミックスも各国ごとに違います。加盟国の全会一致が原則であり、一律で禁輸制裁というわけにはいかないのですね。
――欧州と言えば、まずは一番の経済大国ドイツですよね。ドイツは欧州の中でも比較的ロシアとうまくやっていることもあって判断が難しいと思うのですが、ロシアから直接天然ガスを持ってくるガスパイプライン「ノルドストリーム2」の承認申請を経済制裁として停止しましたね。これはどんなインパクトがあるのでしょうか。
承認申請については、実はドイツは去年の11月に一度停止してるんですね。理由はウクライナ情勢とは関係なく、パイプラインを建設している事業会社「ノルドストリーム2AG」がスイスの会社だったからなんです。
パイプライン事業者はドイツ法人でないと駄目だと監督官庁が主張し始めたために、年が明けても審査はストップしていました。建設自体は去年の9月に完了しているんですが、審査が止まった状態が続いていたんです。
ドイツのショルツ首相がウクライナ侵攻後に経済制裁として「審査を停止する」と発表したときには、業界としては「あれ、止まってたんじゃなかったっけ?」という受け止め方でしたが、重要なことは、前のメルケル政権を踏襲し、このパイプラインを支持してきた現政権も止めざるを得ないという判断をしたことにあります。
また、「ノルドストリーム2」に関連する制裁で極めてインパクトが大きいのは、ドイツではなくてアメリカによる制裁です。
アメリカは、2月23日に事業会社「ノルドストリーム2AG」とその最高経営責任者であるドイツ人マティアス・ワーニッヒ氏をSDN(Specially Designated Nationals)リストに加えました。
SDNの対象にするという措置はアメリカの制裁でも最も厳しいもので、これによって事実上、この会社は身動きが取れなくなりました。というのも、この制裁の怖いところは、リストに載った対象だけでなく、そこと取引する会社などにも同様の制裁が及ぶ可能性があるためです。
SDNに指定された「ノルドストリーム2AG」は、今後ガスを供給するロシアのガスプロム社や需要者であるドイツ企業と契約を結んでタリフ(輸送料)の支払いを受けたり、さらには弁護士事務所に法的業務を委託したりすることさえもできなくなりました。
最近では、「ノルドストリーム2AG」が破産申請をしたのではないかとの報道も出てきています。同社は欧州企業から融資を受けており、その契約義務履行回避や資産整理の可能性がありますが、このアメリカによる制裁発動が大きく影響を与えているかもしれません。破産申請については会社側は否定していますが、真相は今後判明してくるでしょう。
――ただ、「ノルドストリーム2」はまだ稼働してなかったということで、ドイツにとってみれば現状の供給量が減るということではないのですよね?
鋭い質問ですね。おっしゃる通りです。実は、「ノルドストリーム2」に先立ち、「ノルドストリーム」が2011年からすでに稼働していて、ロシア産天然ガスをドイツへ輸入しています。昨年の稼働率は設計容量である550億立方メートル(年間)の実に1.4倍、752億立方メートル(同)を輸送しています。
これはドイツの天然ガス需要量の85%に当たります。さらにドイツはポーランドやウクライナ経由、オランダからも輸入していますので、新たなパイプライン「ノルドストリーム2」がなくとも、自国の需要は満たせるのです。
それでもなぜ「ノルドストリーム2」を進めるのか。その理由の一つが経済性です。ドイツとロシアを直接結ぶ「ノルドストリーム2」は経由国がない、つまり、輸送タリフが安いと言えるでしょう。ドイツにしてみればロシアから直接輸入したいわけですね。
ほかにも関係する要因があります。ます、ドイツは東日本大震災を受けて脱原発路線に方針転換したため、代替エネルギーとして天然ガスが必要だったことです。そして、ロシアとウクライナの間で起きた「ガス紛争」です。
ウクライナはロシア産ガスをヨーロッパに届ける上での大動脈でした。容量で言うと、日本の需要量を超える1420億立方メートル(年間)もあるのです。
2000年代に入り、ロシア側がそれまで格安に提供していたガス料金の値上げをウクライナ側に要求しました。この背景にはウクライナで親欧米政権が成立したことも影響を与えているでしょう。
しかし、2006年には供給契約がまとまらず、遂にロシアが料金未払いを理由にウクライナ向けのガスを止める強硬策に出ました。
ところがウクライナ向けのガスは欧州向けの分と同じパイプラインを通っていました。ウクライナ分の供給が止められても、ウクライナはそれを無視して天然ガスを抜き取ったため、その分、欧州への供給量が減ってしまう「事件」が起きたんですね。
同じことが2009年にも再び起こり、問題となりました。
このウクライナガス供給途絶問題は、純粋にはウクライナのガス料金未払い問題でしたが、この事件をへて、ヨーロッパ(特にドイツ)もロシアも「ウクライナを経由するルートはリスクあり」という認識になり、ウクライナを迂回するルートが浮上していったのです。
ロシアにはウクライナを迂回するルートを構築し、ルートの選択肢を得ることで、ウクライナに対して「言うことを聞かなければ、ウクライナ経由でのガス輸出量を減らす」という形で影響力を強化する戦略もありました。
その一つが2011年に稼働した「ノルドストリーム」でした。ほかにもトルコを経由するパイプライン「トルコストリーム」も2020年に開通しています。天然ガスルートにおけるウクライナ外しが進んだというのがこの10年余りの動きとも言えるでしょう。
――逆に言えば、ドイツをはじめヨーロッパが、ロシア産ガスを制裁でストップするというのは難しそうですね。
そうですね。ドイツとしては、禁輸については難しいとショルツ首相も言っています。他方、ウクライナ侵攻によって、ロシアに対する見方が大きく変わりつつあります。先ほども言いましたが、欧州委員会がコミュニケとはいえ、今後はロシア産ガスの依存度を下げようというガイドラインを発表しています。中長期的に、ドイツを含め、ロシアにとって重要な外貨獲得の市場だった欧州はロシア外しを加速していくでしょう。
短期的にもロシア産ガスへの依存を下げていく動きが進んでいます。国際エネルギー機関(IEA)はその具体的な方策として、10項目を発表し、欧州委員会に提案しています。
例えば、天然ガスは冬の需要が多いので、秋口までに地下貯蔵を満たすことを義務づける、部屋の設定温度を22度に設定する、再生可能エネルギー等代替エネルギーの導入を促進する、ロシア以外の天然ガス調達先を多角化するなどです。
液化天然ガス(LNG)の主要生産国であるカタールは現状、目いっぱい生産していて、追加供給は足元では難しいのですが、このような動きを受けて、カタールでの生産拡張プロジェクト推進や、中南米や東アフリカといった新たなLNGプロジェクト立ち上げ、中央アジア(アゼルバイジャンや将来的にはトルクメニスタン)からの追加のガス調達計画が進んでいく可能性があります。
天然ガスの世界供給に占めるロシア産の割合は17%もあります。代替できる供給国はなく、足元ですぐにロシアを外すわけにはいかない事情があります。従って、依存を減らすといっても徐々に実現していくことになるでしょう。
ドイツ、欧州は今後、ロシア産ガスの依存度を下げざるを得ない状況になります。さらに拍車を掛けたのが、最近のノバク副首相の発言です。3月4日、彼は欧米制裁への対抗措置として、稼働する「ノルドストリーム」経由のガス供給を止める可能性を示唆しました。これには驚愕しましたし、そこまでロシアが制裁によって追い詰められているのかというほど、タブーに触れる発言なのです。
ロシアはソ連時代を通じて一度も政治的理由でエネルギー供給を止めたことはなく、2019年には最初にソ連から天然ガスを輸入したオーストリアと半世紀にわたる安定供給を記念する式典も開催しています。
生産国は常に「信用ある供給者」ということを意識しなければなりません。一度でも「政治的理由で止める」という脅しをしてしまえば、需要者・バイヤーはそんな国からは危なっかしくて調達できず、ほかの供給者を探そうとするからです。他に供給者、ロシアにとっての競争者がいる場合にはなおさらです。
昨年のCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)で、化石燃料を段階的に減らし、二酸化炭素排出量を低減する世界的な流れができています。
その中で、比較的排出量の少ないロシア産ガスは、カーボンニュートラルへの移行期のエネルギーとして、また、新エネルギーである水素の供給ソースとしての役割をしばらく担うはずでした。
しかし、ウクライナ侵攻や今回のノバク副首相の発言は、脱炭素だけでなく、エネルギー安全保障の観点からもロシア産ガスを外していくという「ロシア離れ」に拍車を掛けていくでしょう。
――そもそも、ヨーロッパがロシアの天然ガスにこれだけ依存する状況というのはいつから始まったのでしょうか。
欧州がロシアからガスを輸入するようになったのはソ連時代からですね。1950年代にオーストリアがまず輸入したのが始まりです。
その後、西シベリアでのガス田発見も相次ぎ、欧州の需要増加に合わせて、ソ連は天然ガス輸出を拡大してきました。
ソ連にとってはもちろん重要な外貨獲得の手段でした。他方で、欧州域内でもガス田が見つかり、近隣のノルウェーや北アフリカでもガス田開発と欧州向けパイプラインの建設も進んでいきました。
一時は欧州は天然ガス需要の7割をソ連に依存していましたが、今は3割強まで落ちているのは、これら域内生産の拡大や他産ガス国という競争者の出現によるものです。また、欧州自体も天然ガス需要は2010年に既にピーク・デマンドを迎えています。
――さて、制裁される側のロシアですが、石油・天然ガスの禁輸はどの程度打撃になるのでしょうか。
アメリカ、イギリス、カナダによる制裁はまだ、この3カ国への輸入禁止ということです。また、3カ国には若干差があるとは前に申し上げた通りです。市場で原油を購入する場合、実際に契約を結んでから手元に原油が輸入されるまで、1カ月以上はかかります。
その間にロシア産の原油は禁輸という新たな施策が採られてしまった場合、猶予期間は設定されるのが常ですが、1カ月以上先に輸入する事業者は大損をする可能性、リスクを抱えることになります。
従って制裁を科していない国でも、「現時点ではロシア産原油は危ない」という買い控えが出てきますし、実際、ロシア産原油は買い手が付かずに浮いてしまっているという情報も出てきています。
実際、ウクライナ侵攻が始まったのが、2月24日、3カ国の禁輸措置が3月8日ですので、戦況に変化がなく、制裁が継続していれば、そこから調達期間の1カ月後の3月下旬から4月上旬には、ロシア産原油の買い手が出ていないことが顕在化し、市場が逼迫する状況が高まってくる可能性があります。
――ただ、制裁として禁輸をしたら、石油も天然ガスも価格は上がりますよね。それによる制裁側のダメージとか、市場への影響とかはどうなんでしょうか。
そこで問題になるのは、ではロシアの代わりにどこの国が供給を補てんしてくれるんだろうか、ということです。それは現時点で生産余力を有するサウジアラビアとか中東の産油国ということになってきます。
すでにそういう動きも出始めています。実はOPEC(石油輸出国機構)加盟国とロシアなど非加盟国でつくる「OPECプラス」が2020年4月から協調減産という形で大規模な減産をしてきました。
これは今年12月まで続く予定だったのですが、アラブ首長国連邦が前倒しして増産した方がいいと主張し始めています。
また、アメリカやイギリス、欧州諸国が今後、供給能力のあるサウジアラビアに増産を要請することも十分あり得るでしょう。
――産油国にとって価格が高い方が得ですよね。緊急事態とはいえ、なぜ増産をして価格を下げようとするのでしょうか。
確かに油価が高いと収入は増えるのですが、それは一時的なメリットであり、高い状態が続くと、かえって別のエネルギー源へのシフトを促してしまうことにもなりかねません。
アメリカのシェール革命という、これまで開発が困難、高価と考えられてきた非在来型の原油や天然ガスが開発され、生産され始めたのは2008年前後の高油価と無関係ではありません。
――ちなみに「OPECプラス」の協調減産はなぜ始まったのですか。
元は2016年に始まったのですが、あまりうまく機能せず、価格もなかなか上がりませんでした。
2020年3月には市場シェアを失ってきたサウジアラビアが増産宣言を行い、一時協調減産体制は崩壊しました。サウジアラビア増産を受けて、新型コロナウイルスで需要が低迷し始めた最中、ロシアも増産に踏み切りました。
結果、アメリカの原油WTIがマイナス40ドルという衝撃的な値段をつけてしまい、産油国の間で危機感が高まり、2020年4月に協調減産を再度復活させたのです。
――エネルギーと言えば、ロシアと一緒にプロジェクトを進めてきた欧米企業のBPなどが相次いで撤退方針を表明しましたね。あれもロシアにとってはダメージになるのではないですか。
それは重要なポイントですね。これまで欧米メジャーと呼ばれる石油企業では4社、BPやシェル、ノルウェーのエクイノール、アメリカのエクソンモービルが撤退を表明しました。
まず、これら企業の決定はあくまで自主的に撤退するということで、国による制裁ではないという点を押さえる必要があります。
つまり、ロシアを苦しめるために各社が撤退するわけではなく、企業の評判が悪化し、株価に影響が出る危険性、つまり「レピュテーションリスク」を避けるための自己防衛措置なんです。
そして撤退してロシアが苦しむかというと、実はロシアは苦しまない可能性があります。これら企業が撤退したら、その放棄された権益を誰に与えるかという選択肢を最終的にロシア政府が握ることになる可能性があるからです。
誰が後釜に入るのか。考えられるのは、ウクライナ侵攻に対して異を唱えていない国の企業とかではないでしょうか。
――例えば中国とか?
そうですね。だからこれら企業の撤退はある意味、ロシア側に「カード」を与えることになるとも言えます。
さらに撤退を決断したエネルギー大手は、ロシアの国営企業の株式を保有することによる配当や石油ガス開発プロジェクトを通じて十分な利益を得ており、参入時の支払い対価やコスト回収も全て終わっていると考えられます。
確かに、外資が撤退することで彼らが持つメジャーの石油ガス開発技術が失われるという指摘もありますが、実はロシアが喉から手が出るほど欲しかった技術は、8年前のクリミア併合時に発動された制裁、つまり、大水深、北極海及びシェール層における石油ガス開発技術役務の輸出禁止によって、既に道が閉ざされている状況にあります。
従って、個々のプロジェクトによって違いはあれ、今これらメジャーが撤退してもロシアがすぐに技術的に困るという状況は生まれないでしょう。
――3カ国が禁輸に踏み切った、そして禁輸はしないけどEUはロシア産ガスの依存度を下げる。そうなると、ロシアは代わりの売り先を見つけたいですよね。中国はどうでしょうか。
十分にあり得ますね。中国も産油ガス国で、需要の半分ぐらいを自国産でまかなっています。ただ、残る半分が大きく、天然ガスの分野では、去年は遂に日本を超えて、LNGの輸入量で世界一になりました。
中国は発電においては石炭がメインですが、今後脱炭素を2060年までに達成するためにも、まず、燃料を天然ガスに代えていきたいはずです。そういう意味でも最も近い世界最大の埋蔵量を誇るロシアの天然ガスに関心が高いのは確かです。
ただし、中国はしたたかです。クリミア併合後の2014年5月、経済制裁でロシアが国際的に孤立した時に、中ロは「シベリアの力」というパイプラインで、東シベリアから30年に渡って年間380億立方メートルの天然ガスを輸入するという長期契約を結びました。
この計画自体はロシアでは2007年からあり、需要の伸びが著しい中国に秋風を送ってきましたが、7年にわたって交渉がまとまりませんでした。
そして、2014年の制裁発動で苦しみ始めたロシアと合意に至った裏には、ロシア側からの契約条件での譲歩があったと考えられています。
具体的には中国への天然ガス供給価格です。2019年12月に稼働を開始してから2年がたちますが、実際中国が輸入している天然ガスの中で、「シベリアの力」によるロシア産ガスが最も安い価格となっていることが貿易統計から判明しています。
そして今、新たに「シベリアの力2」というガスパイプラインが検討されているのです。これは西シベリアからモンゴルのウランバートルを経て、北京までガスを送るという計画です。
ロシアとモンゴルはほぼ建設に合意しています。中国は価格の見極めをしているのか、まだ動きは表面化していません。ウクライナ侵攻によって、ロシアが国際的に孤立する中、2014年のように中ロが再び接近するという動きが出てくることが考えられます。
――最後にずばりうかがいます。ロシアにとって石油・天然ガスの経済制裁は、ロシアと制裁する側の欧米、どちらにより大きな打撃がありそうですか。
石油・天然ガスに関する経済制裁では、特に禁輸措置はお互いにダメージのある制裁となります。しかし、長期的に見た場合、先程も述べましたが、ロシアから「供給者としての信頼」を失うような発言が出てきていることを考えると、ロシアへの負の影響の方が大きいと考えます。石油ガスを生産する国はロシアだけでなく、欧米には代替供給源や代替エネルギーも選択肢としてあるからです。