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ウクライナでロシア軍による拉致事件が多発 市長がジャーナリストが次々…狙いは?

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メリトポリ市長が拉致される瞬間とみられる映像。防犯カメラがとらえていたという
メリトポリ市長が拉致される瞬間とみられる映像。防犯カメラがとらえていたという=提供・ロイター/ウクライナ大統領府

アゾフ海近くのメリトポリ市(人口15万人)。2014年からロシアが実効支配するクリミア半島から来たと見られるロシア軍部隊の攻撃を受け、進駐された。

「事件」が起きたのは3月11日。イワン・フェドロフ市長(33)がロシア兵10人に拉致された。市庁舎で勤務中だったところを頭に袋をかぶせられ、連れ去られる姿を防犯カメラがとらえていた。

拉致監禁中、市長には、ゼレンスキー大統領の存在が心の支えになったようだ。市長が3月16日、ロシア人捕虜との交換で解放された時、大統領がスマホで連絡を取った。「君を見放すもんか。声が元気で良かった。本物の男だな。元気で戻ってこいよ」と笑顔で語りかけた。

市長は感謝の言葉を繰り返した。市長はロシア軍が占拠していない地域に執務室を移し、職務を再開した。

ロシア軍がこれまでに占領した主な都市はメリトポリのほか、いずれも南部のヘルソン、ベルジャンスクだ。このすべてで拉致事件が続発している。

ウクライナのネットメディア「リア・メリトポリ」は、3月23日に社主の自宅に軍人らが押し入ったと伝えた。

社主の父親(75)が人質として拉致され、社主はロシア軍から電話で「反ロシア的なことを書くな」と脅された。欧米から批判されたこともあり、2日後、軍は父親を自宅に戻した。

その後メリトポリでは、州議会議員、有力紙「メリトポリ・ベドモスチ」編集長とその記者3人、警察官、市役所の教育長らの行方が分からなくなっているという。

ヘルソン州では、ロシア軍がジャーナリストのオレク・バトゥーリン氏(43)を3月12日から8日間にわたって拘禁した。同氏は27日付のロシア独立系紙ノーバヤ・ガゼータのインタビューで、次のように語った。

「私は路上で、目出し帽の軍人らに襲われ、地面に倒されました。両手を後ろ手に縛られ、地元警察署に連行されました。彼らは、私を柱に縄で縛りつけたうえ、銃で足や背中、腹を殴打。何度も『殺すぞ』と脅し、『反ロシア集会の組織者を教えろ』と言いました。8日目、ロシア人が『我々は助けに来たのに、なぜ反抗するのだ』と言いながら、私を外に出しました」

また、メリトポリ市から約70キロ北のドネプロルドノエ市の市長も3月13日に拉致されたほか、アゾフ海の港湾都市ベルジャンスクでは14日に神父が、23日に国会議員が連れ去られたとの情報がある。

英国紙タイムズは3月22日、ロシア軍がウクライナ人に対して「大テロル」を行うようになってきたとし、次のように伝えた。

「FSB(ロシア連邦保安庁)の内部告発者によると、クレムリン(ロシア大統領府)は、連日抗議集会が開かれているヘルソン市で住民を拉致し、ロシアへ連れ去る『大テロル』を企図している。集会が暴動になった場合、本格的戦闘で抑えるしかなくなる。そこで、きわめて厳しい措置でデモを解散させ、住民がおとなしくなったら個別訪問して拉致し、連れ去る、という措置が示された」

これを裏付けるかのように、ヘルソン中心部で3月21日にあった集会で、警告射撃のほか、閃光弾が次々投げ込まれ、市民が重傷をおった。参加者は四散したが、少なくとも6人が連行されたという。

ウクライナのベレシュク副首相は4月初めの時点で、ロシア軍に拉致された地方自治体の首長は全国で11人にのぼると発表した。首都近郊のキーウ州では、ブチャなどで民間人410人の遺体が見つかり、ロシア軍の関与が疑われている。ブチャの南西約30キロのモティジン村でも、拉致され、行方不明になっていた村長一家3人が遺体で見つかった。BBCやロイター通信によると、手を縛られた他の民間人とともに埋葬されていたという。

同副首相によると、全国で拉致されている民間人は数百人にのぼるという。

筆者はこう見る

「大テロル」とは、1930年代のソ連でKGB(国家保安委員会)が「人民の敵」とみなした活動家や市民を大量に摘発した事案を指す。KGBの要員が自宅や職場に出向き、ドアをノックして連行したことから、人々はノックの音におびえながら暮らしたと言われる。

ウクライナのロシア軍の支配地域でソ連のスターリン時代のような手法が取られているのは、ロシアの「傀儡体制」がうまく機能せず、あせりが生まれているためとみられる。

メリトポリでは市長の拉致事件の翌日、親ロシア派の市議が「市長代行」を名乗り、権力掌握を宣言した。テレビ演説で、ロシアの占領という「新しい現実」への適応を市民に求めた。地元メディアによると現在、税金を市長代行側へ納めるよう町内会長へ働きかけたり、学校でロシア語での教育を強制しようとしたりしているが、うまくいっていない。

ロシアは首都キーウ(キエフ)の陥落作戦が進まない一方、ウクライナ南部では占領地域を次々広げた。そこで住民投票を行い、傀儡の「ヘルソン人民共和国」を樹立したい意向だと伝えられる。2014年にクリミア半島などで取った方法だ。

しかし、拉致を繰り返す現状では、占領軍がウクライナ住民の心をつかめる可能性はゼロに近い。占領政策でのロシアの勝利は遠い。

ただ、ウクライナ軍の情報部門トップは、ロシアのプーチン大統領が「朝鮮半島シナリオ」を狙うかもしれない、と警告する。将来、「38度線」のような停戦ラインが敷かれて「国境」となり、ロシアの支配地域とそれ以外にウクライナが二つに分割されるシナリオだ。

そんなことは認めがたいが、万一そうなった場合、親ロシアの新「人民共和国」は、民主主義とは縁遠い、強圧的な国家になる可能性が高い。今は、拉致や虐殺といった脅しによる「統治」が一刻も早く終わるよう、祈るしかない。