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ウクライナ侵攻でロシアから完全撤退した外資は300社 新ビジネス「担ぎ屋」が横行

World Now 更新日: 公開日:
ソ連(現ロシア)のマクドナルド1号店がオープンしてから3カ月後の様子。長蛇の列ができていた
ソ連(現ロシア)のマクドナルド1号店がオープンしてから3カ月後の様子。長蛇の列ができていた=1990年4月、モスクワ、花井尊撮影

マクドナルドのハンバーガーを食べ、コカ・コーラを飲み、シャネルの香水でおしゃれする――。欧米のライフスタイルを象徴する商品が、ロシアから次々と消えている。ウクライナ侵攻が招いた経済制裁と企業の撤退は、ロシア人の暮らしをどう変えたのか。

ロシアは、外国企業約1千社が事業を全部または一部止め、うち300あまりが完全撤退した(米国エール大学調べ)。なくなった欧米の有名ブランドを、ロシアの企業家たちがロシア風に改名、土着化を図ろうとしている。

「フクースナ・イ・トーチカ」

ハンバーガー・チェーン「マクドナルド」はこう改名された。日本語で「おいしい、これで決まり」という意味だ。マクドナルドはウクライナ戦争に抗議して撤退。ロシアの企業家が840店舗を買い取り、うち最初の15店舗が6月12日、再オープンした。

「フクースナ・イ・トーチカ」の開店準備をする店員
「フクースナ・イ・トーチカ」の開店準備をする店員=6月12日、モスクワ、ロイター

マクドナルドの第1号店はソ連時代の1990年、モスクワにでき、長年「西側の味」の象徴だった。今年5月、モスクワ市長が「原材料は変わらない」と発表もし、新店舗は国民的関心事となった。

「ビック・マックを返せ」。こんなプラカードを掲げ、若者が開店したてのモスクワの店内で、抗議した。「マック」の商標を使えないので、ビック・マックはなくなったという。

テレビで「祖国の製品を大切にしたい」という利用者の声が紹介される一方、SNSでは、メニューが減り、アイスクリームの量も少なく、ジュースの味が薄い、といった批判が書き込まれた。

「子供が悲鳴をあげる」。ロシアの地元経済紙がこう書いた。ウクライナの子供の話ではない。「新しいマクドナルドから、『ハッピー・ミール』が消える。おまけのおもちゃが調達できないから」というのだ。

店名をめぐっても、ウラジオストクのカフェ経営者が「自分のチェーンの名前をパクられた。提訴する」と表明。「食べ物、これで決まり」という自分の店名に似ていると主張する。

また、地元メディアは、「店名が『マック』のように略せず、呼びづらい。100%定着しない」との利用者の声を伝えた。

コカ・コーラに代わる、とされるロシアブランドが「クール・コーラ」。ロシアの飲料メーカーが3月末、発売した。ファンタは「ファンシー」、スプライトは「ストリート」と改名した。地元紙によると、ネットの書き込みでは「草みたいな味」など、新コーラの評判は否定的意見が圧倒的だという。

ロシア政府は製品の国産化や友好国からの輸入増加でしのごうとしている。

「プーチン大統領はロシアの『輸入品の代替』政策がうまくいっていると語った」。ロシアメディア「レンタ・ル」は3月、そんな見出しの記事を掲載。大統領の言葉を次のように伝えた。

「遅れはあっても、ロシアは外国の技術を代替する道を進み続ける」。海外企業がいなくなっても、国産技術でなんとかなるというのだ。

しかし、庶民の本音は別のようだ。ロシア各地にチェーン店を構え、すっかり根付いていた衣料品量販店、ユニクロ。ロシアのSNSの公式サイトで一時閉鎖を発表した(3月10日)。長年の購買者400人の書き込みがあり、その約7割が「残念」「早く戻ってきて」。別れを惜しむものだった。

モスクワにある一時閉店中のカジュアル衣料「ユニクロ」の店舗
一時閉店中のカジュアル衣料「ユニクロ」の店舗=4月10日、モスクワ、中川仁樹撮影

その中に「ロシア製の綿で同じ製品を作れる」という投稿があった。これに対し、次のような反論が相次いだ。

「うそで混乱させないで。ロシアには値段の手ごろな質の良い衣料品を大量生産できる企業はない。ましてやアメリカの高級ブランド品はロシアの手に負えません」

「どうしてユニクロが出てゆくの。政府や与党のせいで人々が苦しまなければならないの」

モスクワ中心部にあるショッピングモール「エブラペイスキー」などモールの多くは人影がまばらになった。モスクワの地元メディアThe Villageは写真を使って、次のように紹介した。

「かつて500店が入居し、1日14万人が訪れていた。しかし、ZARA、Levi's、Nike、スターバックスなどがなくなった」

その陰で、終戦後の日本のような、「担ぎ屋」が盛んになっている。ブランド品を制裁のない第3国で買い付け、ロシアに持ち込み、高値で転売する手法だ。その様子を、経済誌フォーブスロシア版(5月3日)が伝えた。

サンクトペテルブルク在住のオクサーナさんは、隣国ベラルーシへ行き、ブランド品を仕入れた。売買サイトAvitoで買い手を募ると、1200人から応募があった。「もっと買っておくんだった」とオクサーナさんは後悔した。スペインブランドのZARAなどの衣料があっという間に売れ、1万ルーブル(2万4千円)を手にした。Avitoは、ベラルーシやトルコで仕入れたブランド品を転売するロシア人が多い。

ロシア在住のクリスチーナさんはSNSに開設した自らの「店舗」で受けたブランドの注文品をイタリア、ドイツで仕入れる。それをいったん親ロシアの国アルメニアに持ち込み、そこからロシアへ。「この国が欧州からのほとんど唯一の(制裁の)抜け道」という。ロシアがウクライナに侵攻した2月以降、売り上げは倍増した。

一方、ロシアの中古品売買サイトでは、「売り惜しみ」も起きている。ある売買サイト運営者は次のように述べる。

「『シャネルはもう二度と手に入らない』という心理から、売り手が減っています」

その上で、今後の見通しを次のように述べる。

「1年間というレンジでみると、買い手の需要も絶対に減少してゆくでしょう」

理由は、経済環境の悪化だ。ロシアの企業家の86%以上が「経済制裁の影響を受けている」と答えた――。こうした企業家対象の世論調査の結果を、インタファクス通信(5月31日)が伝えた。「ビジネスが安定している」と答えたのはわずか10%。企業家の25%が経営状態を「深刻な落ち込み」、7%が「危機的」と答えている。

危機は女性の生活にも及び始めているようだ。ロシアの小売業専門メディア「ニュー・リテール」は次のように相次いで記事を配信している。

  • 「髪を染める材料のドイツのトップメーカーがロシア撤退。美容業界危機に」(5月28日)
  • 「まつ毛用のマスカラの原料調達が困難に」(6月17日)
  • 「今年3-5月、洗剤の販売量が昨年比で33%減少」(6月1日)
  • 「Lego製品、在庫が尽き、小売店での販売終了」(6月6日)
  • 「ロシアのレストランから外国産の強い酒が消えた」(6月6日)
  • 「輸入のエサなくなり、ロシアでペットショップの新規開店不可能に」(6月7日)
  • 「ハリウッド映画なくなり、7月に映画館の閉館が加速の見通し」(6月8日)
  • 「1-3月、調理済食品(弁当)の売り上げ、昨年比40%減」(6月9日)
  • 「フランスのスポーツ用品店チェーン営業取りやめ」(6月17日)
  • 「ロシア人のオンラインの支払い額 年換算で35%減少へ」(6月20日)

近い将来、ロシア人の懐はさらに強く痛むことになりそうだ。その時、庶民の声はプーチン大統領にまで届くのだろうか。

ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムで発言するロシアのプーチン大統領
ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムで発言するロシアのプーチン大統領= 2021年6月、ロシア大統領府提供

ロシアから撤退した主な企業(エール大学など調べ、順不同)

マクドナルド

スターバックス

コカ・コーラ

ペプシコーラ

ハイネケン

ケロッグ

ネッスル

ダノン

ドミノピザ

Uber

シャネル

プラダ

バーバリー

H&M

Zara

Gucci

ストラディバリウス

資生堂

ユニクロ

スワロフスキー

ローレックス

アディダス

Puma

Nike

フェラーリ

メルセデスベンツ

BMV

フォルクスワーゲン

ロールスロイス

GM

フォード

ルノー

ボルボ

トヨタ

日産

マツダ

三菱自動車

スバル

アマゾン

ネットフリックス

Nintendo

ディズニー

アップル

ノキア

IBM

サムソン

Huawei

ソニー

シャープ

パナソニック

ゼロックス

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