カカオ豆、生産農園を特定
チョコメーカーの明治は昨年、新商品「アグロフォレストリーチョコレート」を売り出した。原料カカオ豆の生産農園を特定したのが特徴だ。
アグロフォレストリー(森をつくる農業)とは、自然の森のように多種の樹木とともに農作物を栽培し、森を再生させながら収穫する農法のことだ。
この新商品のパッケージには「ブラジルトメアスー産限定カカオ豆」とある。トメアスーはアマゾン東部の日系人移住の拠点で、いまも日系人たちがアグロフォレストリーでカカオをつくっている。
明治の菓子開発研究所長、古谷野哲夫が彼らに出会ったのは5年前。日本人の口にあうカカオ豆を探し、20カ国以上の農園を歩き回っていたころだ。勤勉な日系人たちの姿を見て、トメアスー農協と5年間の契約を交わした。
収穫期になると社員が現地に飛び、豆の発酵や乾燥方法を指導する。それに応じてもらう代わりに、市場より高い値段で豆を買う。買い付け量は年100トンほどで、いまはまだ明治が使う総量の1%に満たない。だが、菓子開発本部長の荒森幾雄は「環境を守っていく企業姿勢を示すと同時に、いい豆を安定的に仕入れることにつながる」という。
持続可能性、認証制度も
欧米市場を中心に、農業のサステイナビリティー(持続可能性)が重要視されている。地球環境や農民の生活向上に配慮することで持続的に生産していく、という考え方だ。
1992年の地球サミットで「持続可能な開発」がうたわれたこともあって、消費者が注目するようになった。コーヒーやバナナなど数多くの農作物にかかわる課題で、カカオも例外ではない。
持続可能性を担保する手段も増えてきた。環境NGOの認証や、「アグロフォレストリーチョコレート」のように企業が独自に特定の農家と取引するトレーサビリティー(生産履歴管理)の確保などだ。
こうした手段を使い、より持続可能なチョコをめざす流れが強まっている。
世界で最もカカオ豆の磨砕量が多いオランダでは2年前、政府と業界が「2025年までに国内で消費するカカオはすべてサステイナブル認証を得たものにする」との覚書を交わした。米国のマースも2009年、「2020年までに、第三者認証を得た持続可能な豆だけを購入する」と宣言した。
また、大手商社オラムは一昨年、ガーナ・カカオ評議委員会の許可を得て、生産農家を特定できるカカオ豆を扱い始めた。登録した農民に農法を指導して品質を管理し、1トンあたり30ドルを農民の取り分として上乗せして買い取る。
持続可能な豆は、いまはまだ世界の流通量の数%にすぎない。ただ、今後は増えていくとみられている。
持続可能な農産物は、地球環境や消費者、生産者、企業みんなにメリットをもたらす。ただ、それを担保する認証制度については冷めた見方もある。
チョコレート研究家のクロエ・ドゥートルルーセルは認証制度について、「消費者の良心を利用したマーケティングツールのように思える」と語る。メーカーが認証を取るのは、その方が売れるからにすぎないというわけだ。
ガーナのカカオ産業に詳しい東京農業大教授の高根務は「認証によって高い価格で豆が買われることは、農民の生活をよくするうえでは好ましい」としながらも、「認証機関の扱う豆が急激に増えると、認証そのものの質の低下につながるおそれがある」と指摘している。