玄関の前で肩を寄せ合って笑顔を見せる3人の男性と、白いドレスを身にまとい、男性に抱きかかえられる赤ちゃん。4人は、ともに暮らす「親子」だ。
1組目の家族:恋愛関係の3人が養父に
ベン・ローラムさん(38)
ミッチ・ローラムさん(37)
ベンジャミン・ローラムさん(35)
ティーガン・ローラムさん(1)
アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルス郊外。小高い住宅地の道を進むと、「WELCOME!」と書かれた水色の小さな看板を見つけた。すぐ先に、壁一面が同じ水色で塗られた2階建ての家が現れた。
庭のプールが見渡せるダイニングでは、もうすぐ1歳半になるティーガンさんの朝食の時間だった。
ティーガンさんがおかわりをせがむと、ベンさんがブロッコリー入りのスクランブルエッグを作り始めた。器に入れ、スプーンでかきまぜて冷ます。「好物のたまご料理だよ。熱いから気をつけて」と差し出すと、ティーガンさんはゆっくり口に運んだ。
「おいしい?」。そう聞かれたティーガンさんは、うなずく。その姿を見て、3人は顔を見合わせてほほえんだ。ティーガンさんが食べ終えると、1人が食器を下げ、もう1人がスタイを外して抱き上げ、さらに1人が口を拭いた。スムーズな連携だった。
ティーガンさんを7時に起こし、オムツを替え、パジャマから着替えて食事を用意する。毎朝のお世話は交代制だ。夜は誰かが絵本を読みながら寝かしつけ、週末は公園や海に連れて行く。家事は3人で分担している。
3人は、互いに恋愛関係にある「スラプル(3人カップルの意味)」だ。子どもが好きで育てたいと思っていたミッチさんとベンさんの関係に2019年、ベンジャミンさんが加わると、思いは強くなった。「私たちは一緒に暮らし、子どもを育てて家族になりたかった」とミッチさんは言う。
だが、2年経っても養子縁組の相手は見つからなかった。3人は弁護士に相談。ホームページを作って呼びかけると、希望者が見つかった。
出産の連絡を受け、かけつけた病院でティーガンさんを抱き上げたものの、生みの親が養子縁組の書類にサインするまで不安だった。数日後、彼女が署名する場所に現れたとき、緊張で全身が汗がびっしょりになったのをミッチさんは覚えている。
カリフォルニア州では、3人カップルの結婚は認められていない。婚姻関係にあるのはミッチさんとベンジャミンさんで、ティーガンさんは2人の養子だ。
一方、アメリカのいくつかの州では、法律で3人が平等に親権を持つことが認められていて、カリフォルニアもその一つ。今、ベンさんが3人目の養父になる手続きを進めている。
ティーガンさんを迎えるまでの費用は、あっせん料や弁護士への謝礼などで計5万5000ドル(約800万円)かかった。3人は、さらに代理出産で子どもを2人持つことを望んでいる。
3人は2022年、家族の絆を深めようと、法手続きを経て、それぞれの姓の頭文字をとった「ローラム」という姓を名乗ることにした。
「男3人」の子育てには、SNSで攻撃されてもきた。それでも、ティーガンさんに愛情を注ぎ、成長する姿に喜びを感じているという3人は「この思いは本物だ」と口をそろえる。
「もし、娘の成長の過程で女性が必要なときが来たら、助けてくれる女性の親族や友人がたくさんいる。私たちの関係は未来への道で、自分たちで作っていく」とベンさんは言う。
2組目の家族:異性カップルと実の子と養父
カリフォルニア州には、異性同士の「3人親」の家族もいる。
デビッド・ジェイさん(41)
ジーク・ハウスファザーさん(40)
エイブリー・ケントさん(38)
オクタビア・タビ・ケントさん(6)
オークランドに住むデビッドさんは、異性同士の夫婦ジークさんとエイブリーさん、2人の実の娘、オクタビアさんと一緒に暮らしている。デビッドさんは、オクタビアさんの養父で、3人目の親権者だ。
デビッドさんは、父方と母方で全部で50人ほどのいとこがいる環境で育った。自身も大家族を夢見たが、他者に性的欲求を抱かない「エイセクシュアル」で、養子縁組は、独身男性には敷居が高いこともわかっていた。「プラトニックな関係のパートナーと一緒に子育てしたいと、周りに言い続けていた」という。
結婚前だった2人と2010年に知り合い、意気投合。2人が結婚すると、子育てに関わって欲しいと伝えられた。3人は、夜泣きの対応や夜中のおむつ替えまで、どのように子育てをしていくか、オクタビアさんが生まれる前に、細かなことまで話し合いを重ねた。
エイブリーさんは「デメリットを感じたことはない。手がたくさんあれば、ゆとりができるから」と話す。デビッドさんは「とにかくよく話し合っている。問題が起きたらすぐに」。
大事にしているのは、週1回、土日のどちらかで行うファミリーミーティングだ。それぞれの仕事の状況や必要な買い物などを確認し、育児や家事の分担を決める。目の前のパソコンのモニターにスケジュール表を映し出し、「送迎」「風呂」「朝食」など、オクタビアさんに関わることを紫色で追加していく。役割分担は平等だ。
デビッドさんは「親権があると安心感が違う。衝突が起きても乗り越えようという共通認識をもてるから」と話す。
近所には女性2人と男性1人の3人親家族やLGBTQ+の家族もいる。オクタビアさんは、3人の親がいることを「生まれた時から一緒だから、当たり前のこと。家族の形はたくさんあって、私の家族はそのうちの一つです」と言う。「でも、日本から会いに来たってことは、珍しいからだよね」とも加えた。
オクタビアさんはデビッドさんをダダ、ジークさんをダディと呼ぶ。同じ男の親でも、デビッドさんとは自然の中で過ごすことが多く、ジークさんとは自転車に乗ったり、ボードゲームをして遊んだりして過ごす。デビッドさんは「娘にとって2人は違う存在なんだ」と言う。
エイブリーさんは12月に、2人目を出産する予定だ。デビッドさんは、この子とも養子縁組をするつもりだ。
「私のような人間でも、親になれる方法がある。関わり方はいろいろあっていい。大切なのは、誰もがそれぞれに合った形で、子育てへのかかわり方を選べるようになることだ」