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孫のために育児休暇 自分の子は「やむを得ず」だったけど 新しい仕組みづくりじわり

World Now 更新日: 公開日:
孫休暇をとった阿部さんと孫=本人提供

小さな初孫は、CDラジカセに手を伸ばし、目を離せない。ミルクの温度にも心を砕かないといけない。でも、一対一で向き合って世話をして、「なついてくれるようになった」。

宮城県職員厚生課長の阿部進さん(59)はそう言って目を細めた。話してくれたのは、昨夏に初孫が生まれ、今春に取った「孫休暇」のときの様子だ。

孫休暇は、県が今年1月、都道府県で初めて導入した制度。地方公務員の定年は今年から段階的に引き上げられ、2031年には65歳になる。そんななかで、祖父母となった現役の職員が、孫の育児に参加できるようにする狙いだ。

県人事課が職員の要望を受け、東邦銀行などの制度を参考に作った。出産のための入院日から産後2週間までは「出産」休暇として2日取れる。産後1年未満で、ほかに誰も孫をみられない場合や父母が生まれた孫の兄弟をみる必要がある場合は、祖父母が「育児」休暇として5日まで取れる。

1月から8月までに男女13人が延べ22回取得した。阿部さんは、3月と4月に育児休暇を2回取り、自宅で8カ月になった孫の面倒をみた。

阿部さんは、自分の子どもが小さかったころ、看護師の妻(60)が三交代勤務で夜勤があったことから、週2回は夜通しで長男と長女の面倒をみていた。おむつ替えなどはできる自信もあり、特別休暇をとろうと思えた。

孫休暇をとった阿部さん=本人提供

だが、比較的、家事には関わっていた自分でも「育児の中心は女性だ」との意識が強く、当時はやむを得ずやっているという思いだったという。漁師町の気仙沼市出身で、「『男は海』という保守的な風土で育って、染まっていた」。働きだした1980年代には、周囲も含めて、それが当たり前だった。

ただ、今回、孫休暇を取って、「泣かれるとストレスが高まるし、育児は大変だ。母親1人に任せるべきものではない」と実感したという。

「子どもは社会の宝で、周囲も含めて育てるべきだ。職場の上の世代が孫休暇を取得することで、『みんなで子育てする』意識を浸透できれば」。孫休暇は今、福島県郡山市、大分市などほかの自治体にも広がり始めている。

近代以降に生まれた「子育ては女性」という意識

日本の総務省の2021年の調査では、6歳未満の子どもを持つ世帯で、家事・育児などにあてる時間は妻は7時間28分で、夫は1時間54分。経済協力開発機構(OECD)が20年時点で各国を比べたところ、家事・育児にかける時間の男女差が最も大きかったのは、16年時点の同調査に基づき、女性が男性の5.5倍も時間をかけていた日本だった。日本では突出して、子育てを女性に頼っている。

「女性が子育ての主な担い手というのは、高度成長期に夫がサラリーマン、妻が専業主婦、という核家族、いわゆる『近代家族』が生まれた中で培われた認識だ」と東洋大学の西野理子教授(家族社会学)は指摘する。

江戸時代は父親も育児をしていたが、明治時代に家制度が確立し、夫婦の役割分担が生まれたという。「世帯の稼ぎ手は1人」を念頭に、配偶者を優遇する税金制度などが「子育ては女性」という社会規範を補強した。

東洋大の西野理子教授は全国規模の家族調査などに携わってきた

ただ、実態は変化している。1990年代以降のデフレ経済や、少子高齢化も背景に働き手に女性が加わり、80年に35%程度だった共働き世帯は、2022年には70%を超えた。結婚しない人も、離婚も増えている。

西野教授は「家族は、社会や時代とともに常に変化するもの。いまはポスト近代で、近代家族からは変化している。みんなで育てる仕組みづくりは必要だ」と話す。