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家事の分担が家族の関係をつくる

LifeStyle
photo:Kodera Hiroyuki

■リスト化で解決? 男女分担バトル

女性の家事負担を減らすには、外注や機械化に加え、夫婦で分担するという方法もある。だが言うはやすし。なにしろ経済協力開発機構(OECD)の2014年統計によると、日本の男性が家事や子育てなどに費やす時間は1日1時間2分。対して女性は4時間59分と、男性の分担割合は先進国で最低レベルだ。

男が女なみに家事をやる日など来るのだろうか。このやるせないバトルに、一筋の光明が見えているらしい。その名も「家事リスト」。やるべき家事を洗い出し、「見える化」を進めるのだという。たったそれだけで何が変わるのか。

長野県松本市のイラストレーター山本香織(39)は、家事リストをつくるワークショップを主宰する。浴室の排水口の掃除は週2回、トイレの手洗いの掃除は週1回とリストアップし、終わったら印をつける。「あれもやっていない、これもやっていない、とマイナス思考に陥りがちなのが家事ですが、次に何をすべきかが明白になるのでストレスが減る。我が家にどんな家事があって、誰がやったかが一目瞭然なので、分担にも役立つんです」

リスト作りの経験をブログにつづる東京都文京区の会社員、富樫多恵(49)は「男の人は家事と聞いても、掃除や洗濯、炊事、食器洗いくらいしか思いつかない。悪気はなく、本当に気づいていないんです」と指摘する。「新入社員には、会社にはこういう仕事があって、毎日ルーチンでやるのはこれとこれ。君はそのうちこれをやってね、と教えますよね。家事リストを作るのはそれと同じこと。自発的な行動を期待できるのはその後です」。はあー、たしかに。男の真価が問われるのは、我が家の家事に何があるのかを共有してからというわけか。

■家事を可視化する

事務用品大手のナカバヤシは今年2月、40代前半の男性社員の発案で「家事シェアノート」を発売した。「家事を可視化し、分担について話し合うきっかけにして欲しい」というねらいだ。

さっそくノートを買ってみて驚いた。家族それぞれの掃除や炊事の経験値や所要時間を点数化し、誰がどれだけ働いたかを競争する仕組みだ。夫婦会議の議事録を残す欄まである。「楽しみながらやってほしい」と広報の西浦弘史郎は前向きだ。

でも。でも。リスト化とか、点数化とか、競争とか、議事録とか、なんか会社みたいだ。そんなことしなくていいのが、家なんじゃなかったっけなあ……。

家事についての随筆がある文筆家で、主夫業もこなす荻原魚雷(46)にそんな話をすると、「完璧に分担できるという発想がそもそも幻想に近いのでは?」と言われた。皿を洗うスポンジと、流しを磨くスポンジは同じなのか別なのか。ガス台にくっついた油はどの道具で拭き取るのか──。家事の主導権を握った側が作る細かなルールに、もう一方はどうしても従わざるをえないからだという。

「よその家で料理や掃除をしようとしても、どこに何があるかわからないから戸惑いますよね。それと同じ気分を、多くの男性は自分の家で味わっているのではないでしょうか」
(田玉恵美)
(文中敬称略)

■自立につながる家庭科授業

近年、家事をしない生徒が増えてきているという Photo: Sako Masanori

1人の人間として自立するために家事を身につけよう。この思いを生徒に伝えるために、大阪府立八尾北高校の南野忠晴(56)は1994年、英語教員から家庭科教員に転じた。高校での家庭科が、男女共に必修となった年だ。

南野は毎年、1年生を対象に「自立度チェック」というアンケートをとる。自分の部屋を掃除しているか。服を洗濯しているか。食事を作っているか。何が自分でできて、何を親に頼っているのか。それに気づかせた上で、生徒にこう呼びかける。「自分のことを他の誰かに任せていたら、その人のご機嫌が斜めになったら生活の快適さが失われる。自分の人生を他人に振り回されたくなければ、自立を身につけた方がええよ」

採用試験を受け直してまで家庭科に転じたのは、落ち着きがなかったり、イライラしたりしている生徒の様子が気になったからだ。彼らと接するうちに、まずは生活を整えることが大事だと考えた。

実際、家事をしない生徒が増えていると嘆く。調理実習をすれば「包丁を握るのは、中学校の調理実習以来」という生徒が目立つ。食洗機や乾燥機など便利な家電の登場で、子どもを家事に巻き込まなくても生活が回るようになったと、南野は分析する。

家事から解放された子どもたちは、その時間を塾やアルバイトにあて、「疲れた、疲れた」とこぼす。「家事は自分でコントロールできる世界。料理をし、部屋を片づけるのは、現実の手応えを感じられる。家事をすることで心が落ち着くと思うんです」

中学や高校での家庭科が男女共修となってから20余年。30代前半より若い「共修世代」が家庭を持ち始め、家事への向き合い方も変わってきたと、南野は感じている。

そんな実感を裏付けるデータがある。花王が今年、25~34歳の「共修世代」と40?59歳の「別修世代」の既婚男性800人を対象に行ったインターネット調査では、リビング掃除やキッチン掃除の分担率は、別修世代がそれぞれ49%、39%だったのに対し、共修世代は69%、61%と高かった。

「子育てを楽しむイクメンが増えたのも、『共修世代』からやないですか?」

(左古将規)
(文中敬称略)

■家政婦は家事をどう変える

香港は、7世帯に1世帯が外国人家政婦を雇う「家政婦大国」だ。1973年に受け入れが始まり、女性が結婚や出産後も働く社会を、支えてきた。家政婦の利用が浸透したことで、家庭は、社会は、どう変わったのか。

郊外の高層マンションに住むリー・ウィントン(41)は、夫(41)と長男(9)、次男(6)、三男(1)、それにフィリピン人の住み込み家政婦(33)と6人で暮らす。

9年ほど前に中古で購入したマンションは55平米。リビングとキッチン、ユニットバスのほかは、夫婦の寝室と子ども部屋、そしてかろうじてベッドが置ける広さの家政婦用の寝室があるだけだ。

家政婦に支払うのは月4000香港ドル(約6万円)。エンジニアの夫の月収は8万香港ドル(約120万円)で余裕があるとは言え、小さくない出費だ。

雇い始めたのは次男が生まれる直前だった。リーは専業主婦だが「家事に追われたら子どもに目が行き届かなくなる。子育てに集中したい」と考えた。買い物が来るようになりやらなくなった。

子どもが生まれ、家事と育児のプレッシャーに押しつぶされそうになり家政婦を雇ったが、「家事をしない」という負の連鎖が続くことを心配する。

看護師のマー・カーイー(55)も出産後、家政婦を雇った。だが子どもへの影響を考え、家政婦に頼るのをやめた。

■家政婦依存はリスクも

photo:Kodera Hiroyuki

3年前、再び雇い始めたのは、家事を任せてきた同居の母(74)に認知症の兆候が見えたためだ。「最初は、母がヤキモチを焼かないように、家政婦の料理に『おいしい』と言わないよう気を使いました」。家政婦を雇い、自分は働きやすくなった。でも母の楽しみと生きがいを奪ってしまったかもしれないと感じている。

家政婦に家事を肩代わりしてもらうことで、香港では女性の社会進出が進んだ。女性の労働人口は1986年の99万から2014年には189万に増え、労働人口に占める女性の割合も37%から49%に増えた。33万人いる家政婦の9割以上はフィリピン人とインドネシア人が占める。

家政婦を雇うのは裕福な家に限らない。約80人に面接調査をした香港中文大学の兼任准教授、合田美穂によると、共働きで世帯月収が1万香港ドル(約15万円)でも、家政婦を雇うことは珍しくないという。「妻が働き月5000香港ドルを得られるなら、家政婦に4000香港ドルを払ってもお釣りがくる」と合田は話す。

一方、政府が子育てや介護を民間に丸投げすることには、リスクもある。

日本の幼稚園や保育所にあたる就学前の施設が香港には900以上あるが、0~1歳児を受け入れるのは27に過ぎない。高齢者がデイサービスや訪問介護に利用できる介護保険制度もない。香港の社会保障給付費は対GDP比14%と、日本の23%に比べかなり低い。

家政婦も常に安定して雇えるとは限らない。10年にフィリピンで起きたバスジャック事件では香港人客8人が死亡。謝罪や補償を巡り両政府が紛糾し、家政婦の受け入れ制限も議論された。今年2月には香港で、女性がインドネシア人家政婦を虐待したとして有罪に。インドネシア政府は17年に家政婦送り出しをやめる方針を示した。「個人も、社会も、家政婦にのみ依存するのはリスクが大きい」と合田は指摘する。
(左古将規)
(文中敬称略)

■家事は自分のため 家事評論家・吉沢久子

昔と比べれば、今は天国ですよ。戦争中は洗濯だって全部手で、冷たい水でゆすいでましたもんね。今はほとんど機械がやってくれますでしょ。

その代わり、ものを考えなくなっちゃいましたね。家事って、頭が鍛えられるんですよ。買い物一つにしても、予算があったり、家族それぞれに好きな食べ物があったりとかしますよね。おうちにあるものとどう組み合わせるのか、とか。

私はいくら便利になっても、自分でご飯を炊いてますし、お煮物もしてます。それが、私がぼけていない一つの理由じゃないかと思うんです。

夫は明治生まれの暴君でしたから、家事はまったくしませんでした。なんで私だけが、と思っていましたよ。夫が亡くなって一人暮らしになり、半年くらい、ほとんど料理をしませんでした。それまで自分のために料理をしたことがなかったので、面倒くさくなっちゃって。

でも、外でご飯を食べたときに、突き出しで柿の白あえが出てきましてね。すっごくおいしくって。よし、と思って自分で作って食べたら、やっぱりおいしくてね。それからですよ。家事は自分のためにするもんだと。ふっと気持ちが変わりました。(構成・左古将規)

よしざわ・ひさこ 1918年生まれ。97歳の今も執筆を続ける。近著に『100歳になっても! これからもっと幸せなひとり暮らし』(KADOKAWA)。

■外注化と家族仲 張家楽・香港教育学院助教授

家事の外注が進み、女性が外で働けるようになったことで、香港の社会は大きく変わった。働いて得る収入と、家政婦に支払うお金を比べれば、収入の方がずっと大きく、物質的に豊かになれた。妻の負担を減らすことでご機嫌を取ろうと、家政婦を雇う夫もいる。だが、夫婦の仲の良さについて既婚者974人に行った面接調査の結果を分析すると、家政婦を雇うことによるプラスの影響はなかった。なぜか。

家政婦に指示を出し、与えられた業務ができているかどうか確認するのは、一般的に女性の役割だ。一方で、家事の負担が軽くなるため、子育てをより完璧にこなすことが求められる。仕事に力を入れれば責任も重くなり、長時間労働につながる。女性の負担は増えるのに、夫婦の会話は減りがちで、不満はたまるばかりだ。

より良い夫婦関係をつくるには、単に家事を外注するのではなく、お互いの負担を思いやり、分担することが大切だろう。
(構成・左古将規)
(文中敬称略)

チュン・カーロク 香港中文大学で博士号(社会学)を取得。シンガポール国立大学の研究員を経て現職。専門は家族社会学。

■冬の夜の「ペヤング」 田玉恵美(GLOBE記者)

人の家に行ったとき、ものすごく片付いていたり、おしゃれだったりすると、「ステキだね~」とか言いつつ、心のどこかで「チッ」と舌打ちしてしまう。なんか気詰まりなのだ。安全ピンとか小銭とかが転がっている家の方がなぜかホッとできる。

実家の両親は共働きで、家の中が整頓されていた記憶はほとんどない。料理も適当。家族で夕飯にカップラーメンを食べたことは、子ども時代の幸福な記憶のひとつだ。それでも私、一応大人になれました。

なので、家事は適当でもいいかなと思っているのだが、モノは試しと、同僚から紹介されたフィリピン人のラニーさんに家の掃除をお願いしてみた。「水回りと床をよろしく」と頼むと「Yes,ma’am(はい、奥様)」。

イヤミな金持ちのオバさんになったみたいで居心地が悪いが、2時間後に仰天。これがあの私の部屋なのか? この床の輝きはなんだ? うちにあった洗剤と道具でここまで違う。これで3000円。忙しい人に人気なのがよくわかる。

私がバアさんになるころ、外注や機械化はもっと進んで「家事がなくなる日」が近づくかもしれない。でも、待てよ。冷えこむ冬の夜中に突然ペヤングが食べたくなったとき、買いに出るのは確かに面倒くさい。かといって、今すぐ配達して、と外注するか? やっぱり、ダンナが要るな。

取材にあたった記者

田玉恵美(ただま・えみ) 
1977年生まれ。好きな家事はもやしのヒゲとり。時間と気力があれば。

静物写真

小寺浩之(こでら・ひろゆき)
1965年生まれ。雑誌編集者を経て静物写真の世界へ。日本写真家協会会員。