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北朝鮮のジェンダー事情、どうなっている? 家庭不和と離婚増の危機

北朝鮮インテリジェンス
公演を観覧する金正恩総書記(中央右)と李雪主氏(中央左)=2021年2月17日の労働新聞のホームページから

NKDBは昨年5月から9月にかけ、北朝鮮両江道恵山市から韓国に逃れた脱北者の男女各30人と面接した。NKDBの宋韓那(ソン・ハンナ)国際協力局長は「恵山市は中国との国境に近く、北朝鮮で最も外部の情報が入る場所。金正恩朝鮮労働党総書記が一番心配している場所でもあるのです」と語る。

北朝鮮憲法は第77条で「女性は男性と同じ社会的地位と権利を持つ」と規定している。2001年2月には女子差別撤廃条約(CEDAW)にも加入している。

一方で、北朝鮮当局は依然、世帯主が、国営の企業所や政府機関などに公務員として勤務することを義務づけている。家父長制度の残る北朝鮮は、特殊な事例を除いて世帯主は男性と相場が決まっている。

1990年半ばに大量の餓死者を出した「苦難の行軍」以降、このシステムは軍事部門などの一部を除いて崩壊した。世帯主である男性が働く党組織や国営企業を通じて受け取っていた配給が、ほぼなくなったからだ。公務員の平均的な月給は3千~4千ウォン程度。コメ1キロの値段にも満たない。食べていくため、世帯主ではない女性が市場などで働き、家計を支えている。

■家計も家事も のしかかる負担

60人の調査では、「妻が家計を支えている」と答えた人が28人(47%)にのぼった。現代でも経営が成り立っている貿易会社や運送業、市民からの賄賂が期待できる党や軍などに勤務していない限り、男性が生計を支えることは難しいという。

一方、炊事や掃除、洗濯などの家事の分担はどうなっているのか。60人の調査で「すべて妻がやる」と答えた人が41人(68%)、「主に妻」と答えた人が8人(13%)にのぼった。回答者の女性からは「遅くまで働いて、私が夜11時に帰宅したときも、夫はご飯を作るでもなく、酒を飲んでいた」「北朝鮮では、家事は女がやるものだと決められていた」という声が上がった。

育児の負担も女性にのしかかる。41人(68%)が「主に妻がやった」と答えた。夫婦で役割分担したり、両親が助けてくれたりするケースもあるが、「主に夫」と答えたのは、2人しかいなかった。調査では、女性が働かざるを得ず、鍵をかけた家に幼児を残していく場合もあった。男性が自宅にいても、育児に無関心で、幼児が転んでケガをしたケースもあった。

宋局長は「北朝鮮女性は、男性をヘバラギ(ヒマワリ)と呼びます。ヒマワリのように黙っているだけで、ひたすら女性(太陽)ばかりを見ているからです」と話す。

北朝鮮人権情報センターの宋韓那(ソン・ハンナ)国際協力局長=本人提供

女性に負担が集中する現状について、北朝鮮の女性たちには、あきらめと不満が同居している。

あきらめの原因は、北朝鮮に残る封建的な考えと、当局の強権的な政治だ。面接した脱北女性30人全員が「家事と育児は女性の仕事だ」と答えた。脱北女性らは「それが社会の流れ」「北朝鮮には依然、封建的な思想が残っているから」などと語る。

社会主義計画経済を維持したい北朝鮮当局が、仕事の有無に関係なく、国営企業に出社しない男性を処罰している事情もある。「夫が家事をしない理由は、私を手伝うのがイヤなのではなく、国営企業に行かなければ労働鍛錬隊に送られるから」「北朝鮮社会では仕方がないこと」などと答えた脱北女性もいた。

6月20、21の両日、平壌で開かれた朝鮮社会主義女性同盟第7回大会=労働新聞ホームページから

宋局長によれば、北朝鮮は国際社会に「朝鮮社会主義女性同盟を通じ、女性の人権教育を行っている」と説明しているという。

だが、脱北した北朝鮮女性たちは「女性同盟で人権教育を受けた記憶はない。農村への勤労動員や義援金のノルマを命じるだけの組織だ」と証言しているという。金正恩氏は今年6月、女性同盟の全国大会に送った書簡のなかで「祖国の前途を担う世代を育てる母としての責任と役割を果たす」よう求めたという。

宋局長は「女性の人権問題について、女性だけ教育しても意味がありません。北朝鮮からは男性を教育しているという報告は一切ありません」と語る。

■金正恩氏の妻に関心

北朝鮮では最近、金正恩朝鮮労働党総書記の実妹、金与正氏や玄松月党副部長、崔善姫第1外務次官ら、女性の活躍も目立つ。しかし宋局長は「彼女たちは特別です。北朝鮮の女性たちは、正恩氏に近いから権力を持っているのだと理解しています」と話す。

むしろ、脱北した北朝鮮女性らは金正恩氏の妻、李雪主氏に強い関心を抱いているという。女性たちは、李雪主氏のように権力者の妻になり、お化粧をして、素敵な服を着て、良い暮らしを送りたいと訴える。宋局長は「女性が自立するというところまで、北朝鮮女性たちの意識が追いついていないのです」と話す。

2019年6月21日、金正恩(中央奥)・李雪主(右)夫妻が、習近平中国国家主席と彭麗媛夫人のために宿舎の錦繍山迎賓館で昼食会を催した=労働新聞ホームページから

一方、日常生活の負担は、確実に不満に変わりつつある。調査した脱北者60人全員が「今後、北朝鮮では離婚が増える」と予想する。

NKDBの報告書も、経済活動と家事の負担が増えていくにもかかわらず、家父長的な雰囲気が残り、女性の地位が認められないことが不満につながっていると分析する。

報告書は、北朝鮮では男性が政府の政策に守られ、家庭での権威の喪失や家父長制度の変化に抵抗しているのに対し、女性はより早く家父長制度から脱したい気持ちを持っていると指摘。夫婦の間であつれきが生まれる原因になっていると説明する。

韓国の情報機関、国家情報院によれば、北朝鮮は最近、新型コロナウイルスの防疫対策から、市場活動が縮小している。思想統制も厳しくなり、女性を含めた市民を政治集会や勤労動員に駆り出している。女性の立場からみれば、家計が苦しくなっているにもかかわらず、負担ばかりが増えている状況だ。宋局長は「どの国でも、夫婦が一緒にいる時間が増えて、ケンカが増えています。北朝鮮でも同じ問題が起きているでしょう。特に、権力から遠い貧しい家庭ほど、さらに苦しい状況に追い込まれているようです」と話す。

金正恩氏は12月で、権力継承10年を迎える。宋局長は、正恩氏が女性の人権問題で過去10年間で取り組んだ成果について「金正恩体制になり、障害者や女性、子どもに対する関心が高まっているのは事実です」と語る。同時に「女性が市場で働く際、取り締まりを避けるために性的な暴行を受けるなど、新たな問題も起きています。女性の人権が改善されているとは言えない状況です」と話す。そして、「家庭は社会で最も小さな単位です。家庭の不和が増えれば、社会が不安定になり、最後は崩壊するでしょう」と語った。