山を登ると、巨大なすり鉢状のくぼみが視界いっぱいに飛び込んできた。底ではタイヤの直径が4メートルある大型ダンプが荷台からこぼれ落ちそうなほどの鉱石を積み、せわしなく坂道を駆け上がっていた。
東京から1万3000キロ離れたアフリカ南部ザンビア。北西州にあるセンチネル銅鉱山では、カナダの鉱山開発大手ファースト・クァンタム・ミネラルズ(FQM)が2014年から採掘を続けている。年間採掘量は約6000万トンで、世界6位の規模を誇る。
8月10日、現地を訪れた経済産業省や独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、さらに商社・メーカー10社の担当者らによる日本の官民視察団に同行した。
日本は精錬によって得られる高純度の銅の生産量こそ世界4位(米地質調査所調べ)だが、原料となる銅鉱石は国外からの輸入に頼る。輸入先はチリ、インドネシア、豪州、ペルー、カナダの5カ国で95%を占めており、現時点でザンビアや隣のコンゴ民主共和国(旧ザイール)にまたがるアフリカの一大銅産地「カッパーベルト」に進出している日本企業はない。
「10年後に『いよいよアフリカ』では遅い」
経産省が視察ツアーを主導したねらいはなにか。有馬伸明・鉱物資源課長はこう言い切る。「今後、銅を含む鉱物の需要は確実に高まる。10年後に『いよいよアフリカ』となってからでは遅い。今から日本企業とアフリカ資源国をつないでおく必要がある」
センチネル銅鉱山では、露天掘りで採掘した鉱石を巨大コンベヤーで運んで破砕した後、攪拌(かくはん)しながら鉱物を取り出す。工程の多くは電化され、その電力は隣接するダムの水力発電でまかなっている。FQM現地法人のゼネラルマネジャー、ジュニア・カイザーさんは「我々には環境破壊を最小限にとどめる責任がある」と強調した。
リスクとる中国企業 現地には不満も
日本企業がカッパーベルトでの開発に乗り出す可能性はあるのだろうか。
参加した企業担当者からは「施設や労働者の質が高くポテンシャルを感じる」と評価の声が出る一方、採算性への懸念も多かった。センチネル銅鉱山は27億ドル(約3900億円)の投資に対し、鉱山寿命が20年と長くない。「銅価格が上がればハイリターンだが、リスクも高い」と大手商社幹部は漏らす。
アフリカの場合、さらにクーデターや内戦などのカントリーリスクもつきまとう。丸紅のヨハネスブルク支店に駐在する南原康さんはこう指摘する。「今は政情が安定していても将来は分からない。投資する以上は長期の事業になることが望ましいが、見極めが難しい」
こうした不安定さを生かして資源外交を進めてきたのが中国だ。部族対立や人権問題が起きても内政不干渉の立場を貫き、国有企業がリスクを承知で鉱山権益の買収や開発投資を続けている。特に銅やコバルトを豊富に有するコンゴ民主共和国との関係は深く、今年5月には両国関係を全面的戦略協力パートナーシップに引き上げた。
日本は西村康稔経産相が8月にコンゴ民主共和国やザンビアなど6カ国を歴訪。日本の経産相が初訪問する国がほとんどで、資源外交の意図を鮮明に打ち出した。
中国に比べ周回遅れは否めないが、むしろ好機ととらえる向きもあるようだ。
5月、コンゴ民主共和国が中国との鉱山開発合弁事業について、出資比率を32%から70%へ引き上げる計画があることをロイター通信が報じた。自国にもたらされる利益が少なすぎることへの不満が要因とみられる。
「中国企業は現地住民を雇用せず、経済波及効果も小さいと評判が悪い」(外務省幹部)。西村経産相がザンビアの担当大臣と交わした共同声明にも、中国の名指しこそ避けたが、鉱業分野の協力で「特定国への過度な依存を避ける」ことがうたわれた。パートナーの多角化を目指す資源国側の動きに呼応するものだ。
もちろん日本がアフリカで鉱山開発に乗り出すのであれば、相応の経済的貢献が求められることになる。
「日本の技術や資本に期待」
西村経産相と会談したザンビアのヒチレマ大統領は「わが国の鉱物を必要とする国は日本を含めてたくさんあるが、我々にも要件がある。素材(鉱石)のまま輸出せず、自国で加工して付加価値を高めることだ。日本の技術や資本に期待している」と注文を忘れなかった。
「重要鉱物の獲得競争は激しさを増すが、アフリカは私たちのニューフロンティアになり得る」。会談後の記者会見で改めて訴えた西村経産相に日本がなすべき取り組みを聞くと、こう続けた。
「単なる投資ではなく、人材育成や技術移転といった日本ならではの支援が必要だ。ウィンウィンの関係構築の先に、鉱物資源の確保がある」