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電気自動車は本当にエコか 電気からバッテリーまで、あらゆる面からチェックした

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
While experts broadly agree that plug-in vehicles are a more climate-friendly option than traditional vehicles, they can still have their own environmental impacts, depending on how they're charged up and manufactured. (The New York Times)
©2021 The New York Times

世界中の政府や自動車メーカーが、石油消費を減らし気候変動問題に対処するカギになるテクノロジーとして、電気自動車の推進に取り組んでいる。ゼネラル・モーターズ(GM)は、2035年までに新しいガソリン車と小型トラックの販売を停止し、電池駆動車への方向転換を目指すと言っている。ボルボは最近、さらに早い進展をめざし、2030年までに全車種を電動化する意向を明らかにした。

だが、電動の自動車やトラックが主流になるにつれ、それらは根強い疑問に直面している。「宣伝されているほど、本当に環境に優しいのか?」と。

専門家たちはプラグイン車両が従来のものより気候に悪影響を及ぼさない選択肢である点には、おおむね同意している。ただ、充電や製造のありようによっては、環境に影響を与える可能性は依然としてある。以下は、最大の懸案に対するいくつかの手引きであり、どのように対処される可能性があるかについてだ。

■肝心なのは「電気がどうつくられるか」

ざっくり言えば、今日販売されている電気自動車の大半は、ガソリンを燃料とするほとんどの自動車より地球温暖化につながる二酸化炭素の排出量が非常に少ない傾向がある。ただし、それは、そうしたプラグイン車両を充電するためにどれだけの石炭が燃やされるかにかかっている。電気自動車が真に排出量ゼロになるには電力グリッド(供給網)をもっともっとクリーンにする必要がある。

各種車両の気候への影響を比べる方法の一つは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者による双方向性のオンラインツールを活用することだ。研究者たちは、自動車を製造するために、従来の車両はどれだけガソリンを燃やすか、電気自動車を充電する電気はどこから来るのか――。そういった関連するすべての要素を取り込もうとしている。

電気自動車が米国の平均的な電力グリッドから得られる電力を使うと仮定すると、ほとんどの場合、従来の車両と比べてはるかに環境に優しい。米国の平均的な電力グリッドは、化石燃料を使う発電所からのものと、再生可能エネルギーによって発電されたものが混在しているのが一般的だ。電気自動車はバッテリーを使うので、(発電に伴う)排出量がより多くなるが、電気モーターは化石燃料を燃焼する従来の内燃エンジンと比べ、より効率的である。

たとえば、電動車のシボレー・ボルト(Chevrolet Bolt EV)は二酸化炭素の排出量が、走行可能期間を通じて平均1マイル(約1.6キロ)ごとに189グラムになると見込まれる。これに対し、新しいガソリン燃料車のトヨタ・カムリだと、1マイル当たりの同排出量は385グラムと見積もられている。新しいフォードF-150ピックアップトラックは、さらに燃費効率が低く、1マイルで636グラムを排出する。

しかし、それはあくまでも平均だ。一方、ボルトが米中西部で現在見られるような石炭を大量に使うグリッドで充電される場合、トヨタ・プリウスのような最新のハイブリッド車と比べて、実際には気候に少し悪い影響をおよぼす可能性がある。プリウスはガソリンを使用するが、走行距離を伸ばすためにバッテリーを使う(しかし、石炭で生み出された動力を使ってもなお、ボルトはカムリやF-150よりもましだろう)。

「石炭は重要な要素になる傾向がある」。カーネギーメロン大学の工学教授ジェレミー・ミカレックはそう指摘する。「ピッツバーグで自動車を所有して夜間に充電し、その電気が近くの石炭火力発電所からもたらされる場合、充電に使われる電気をつくるためにより多くの石炭を燃やすことになれば、電気自動車を持つメリットは、気候変動の問題上、大きくはないし、より大気汚染につながる可能性さえある」と言うのだ。

電気自動車にとっての朗報は、大半の国が電力グリッドのクリーン度向上を推進していることだ。米国では、公益事業者がここ10年間で数百もの石炭火力発電所を閉鎖し、低排出の天然ガス、風力、太陽光発電の組み合わせに移行した。その結果、研究者は、電気自動車も総じてよりクリーンになっていることを明らかにした。さらにクリーンになる可能性がある。

「電気自動車が気候変動に対する魅力的な解決策にみえる理由は、電力グリッドをゼロカーボン(温暖化排出ガスゼロ)にすることができれば、自動車の排出量が大幅に減るからだ」とMITでエネルギーを研究する准教授ジェシカ・トランシックは言う。「ガソリンを燃やす最高のハイブリッド車でさえ常に排出量の基準値があり、それを下回ることはできない」

■バッテリーの原材料に問題は

ほかの多くのバッテリーと同様に、大半の電気自動車の動力源になっているリチウムイオン電池の製造は、コバルトやリチウム、希土類など深刻な環境問題や人権問題につながる原材料に依存してきた。とりわけ、コバルトには問題がある。

コバルトを採掘すると、危険な廃石やスラグが生じて周囲に浸出する可能性がある。研究によると、近隣のコミュニティー、特に子どもたちがコバルトやその他の金属に高度にさらされることがわかっている。原鉱から金属を抽出するには、製錬という過程を経る必要がある。これは硫黄酸化物など有害な大気汚染物質を放出する可能性がある。

世界のコバルト供給量の70%は(アフリカの)コンゴ民主共和国で採掘される。そこは、かなりの部分が「零細な採掘業者」が関わる規制のない鉱山で、多くの子どもを含む労働者が手道具だけで地中から金属を掘り出しており、健康や安全が大きな危険にさらされていると人権擁護団体は警告している。

世界のリチウムはオーストラリアで採掘されるか、アルゼンチンやボリビア、チリのアンデス地域にある塩原から採られる。これは、大量の地下水を使って塩水をくみ出すことで、農業や牧畜を営む先住民たちが利用できる水を減らしてしまう。バッテリー製造にこれだけの水が必要なら、電気自動車の製造には従来の内燃エンジンよりも約50%多くの水を消費することになる。中国に集中している希土類の埋蔵物には、放射性物質を含む水や粉じんが放出される可能性がある。

自動車メーカーやその他のメーカーは、まずコバルトに焦点を当て、サプライチェーンから「零細採掘業者」によるコバルトを排除することを約束し、コバルトを減らすか、まったく使わないバッテリーを開発する方針にも言及している。しかし、その技術はまだ開発中であり、零細の鉱山が依然として広く操業しているということは、約束が「現実的ではない」ことを意味する。これは、アフリカの鉱山業界と協働している非営利組織Pactのマイケル・ドーディンの指摘である。

ドーディンは、鉱山と協力して環境上の負荷を減らし、鉱山労働者が安全な状態で働けるようにする必要があると言う。企業が責任をもって行動するなら、電気自動車の普及はコンゴ民主共和国のような国にとって大きなチャンスになる、と彼は言っている。そうしなければ、「環境に負荷をかけ、とても多くの鉱山労働者の命を危険にさらす」。

■リサイクルの可能性

初期の電気自動車が寿命に達し始めたいま、使用済みバッテリーが山積みになるのを防ぐことが課題として浮上している。

現在の電気自動車のほとんどはリチウムイオン電池を使っており、かつて一般的だった鉛酸蓄電池と比べ、同じスペースにより多くのエネルギーを蓄えることが可能だ。しかし、米国では鉛酸蓄電池の99%がリサイクルされているが、リチウムイオン電池の推定リサイクル率は5%程度だ。専門家は、使用済みバッテリーには回収して再利用できる貴重な金属などの物資が含まれていると指摘する。その方法によっては、バッテリーのリサイクルは大量の水を消費したり、大気汚染物質を排出したりする可能性がある。

「リサイクルされるリチウム電池の比率は非常に低いけれど、時の経過と技術革新が進めば比率は上がる」。コネティカット大学の化学生体分子工学部の教授ラデンカ・マリクは、そう話した。(抄訳)

(Hiroko Tabuchi and Brad Plumer)©2021 The New York Times

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