グリーンランド、凍らぬ海の下に眠る宝 進む資源開発、迫る中国の影
今年1月、米学術誌に「グリーンランドの氷がこれまでよりはるかに速いスピードで解けている」との論文が掲載されたが、島では氷河が解けることで地下資源の開発が進み、これまでになかった資金が回り始めている。(石井徹、写真も)
「鉱物に金属、宝石……。島には様々な地下資源が眠っています。私たちは、レアアースの採掘を計画しているんです」。鉱物資源開発会社「グリーンランドミネラルズ」の現地責任者ヨハネス・キェッドは自信ありげに話した。会社は2007年の創業以来、島の南端近くの鉱山で資源調査や試掘を続け、4年後の本格操業を目指している。
グリーンランドは島のあちこちで鉱物資源開発が進む「自然資源の最後のフロンティア」。なかでも最北端の亜鉛鉱山は世界で6番目の生産量が期待される。自治政府の鉱物資源相エリック・イエンセンは「温暖化で氷河が後退して氷が薄くなったおかげで、鉱物資源の開発がしやすくなったのは確かだ」と認める。
18世紀から200年以上にわたってデンマークから植民地支配を受けてきたグリーンランド。1979年に自治政府が発足し、自治権を拡大してきたものの、外交や安全保障などの権限はいまもデンマークが握る。先住民族が9割を占める島民の独立への思いは強く、議会にはすでに反対派はいない。ネックになってきたのは、独立することでデンマークからの補助金がなくなることだ。
そこに、温暖化という追い風が吹いた。
鉱物資源が主要産業に急成長しただけでなく、輸出の9割を占める水産業も好調に。17年のタラ漁獲高は13年の2倍以上だった。最近では、マグロが揚がったというニュースが現地の人を驚かせた。
冬場は海氷の上を犬ぞりで移動してアザラシを狩り、オヒョウを釣る生活は、氷が薄くなり、冬場も船で漁をするようになって大きく変わったという。水産大臣も務めた元漁師のハンス・イバーセン(78)は「海が温かくなったおかげで、南の魚種が北上して捕れるようになった」と話す。
世界遺産の氷山が浮かぶディスコ湾が冬も凍らなくなったことで、観光客数も伸びている。
沿岸の街イルリサットには季節を問わず、遊覧船で氷山観光をする人たちが世界中から集まるようになった。
財源が増えるなかで、10年前には自治政府予算の3分の2を占めていた補助金の割合は3分の1にまで減り、経済的な自立が見えてきた。一方で、一時は島中が沸き立った石油資源開発は、石油価格の変動のなかで頓挫。地下資源開発も波が大きく、独立に向けた期待と不安が入り交じる。
そんな島で、にわかに存在感を見せているのが「一帯一路」構想の延長で北極海開発を目指す中国だ。中国資本が島の主要産業に相次いで出資。「グリーンランドミネラルズ」の筆頭株主も中国企業だ。さらに今、島内の空港整備計画をめぐってデンマークと米国を巻き込む騒動が起きている。
広大な島では、都市間を行き来する飛行機は「日常の足」。だが、島内のほとんどの空港は滑走路が短く、40席足らずのプロペラ機しか飛べない。経済成長で需要も増えるなか、中心都市ヌークやイルリサットなど3カ所にジェット機も就航できる滑走路をつくる計画が持ち上がった。総工費36億デンマーククローネ(約600億円)は、島にとっては巨額だ。
そこに中国が出てきた。入札に参加する企業の候補6社に中国のインフラ大手「中国交通建設」が残ると、デンマーク政府は急遽1億ドル余りを自ら出資すると言い出した。島内に米空軍基地を抱えることから安全保障面で問題視し、米国の警戒にも配慮したとみられる。この受け入れをめぐって政権与党は分裂し、議会は混乱。政府が最終的に受け入れを決めたため、今回は中国と距離を置く形で落ち着きそうだ。
それでも、財務大臣のヴィットス・クヤゥキッチョックは、したたかだ。「中国の脅威や安全保障上の問題については理解している。でも、私たちには投資が必要で、お金に色がついているわけでもない。ほかの国とも話しているし、バランスは取っているよ」
温暖化が進む北極圏で繰り広げられる「パワーゲーム」と、その波に乗って悲願の独立を成し遂げようとする人たち。その一方で、専門家が「グリーンランドの氷がすべて失われると、世界の海面は約7メートル上昇する」と指摘するように、海抜の低いバングラデシュや太平洋の島々の人たちの将来は、この島の氷がどうなるかにかかっている。
【合わせて読む】「26兆ドルの利益」夢か現実か 拡大続ける環境マネー