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SDGsの時代 お金の流れが変わり、企業は選別される

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気候変動問題などに取り組む企業に資金を振り向ける新しい投資の中心地・ロンドン photo: Kajiwara Mizuho
気候変動問題などに取り組む企業に資金を振り向ける新しい投資の中心地・ロンドン photo: Kajiwara Mizuho

シティーがESG重視を宣言、世界にインパクト

世界の課題の一体的な解決を目指すSDGsの目標達成には、莫大な資金が必要だ。国連の試算では毎年約2兆5000億ドルが不足している。一方で、SDGsは新たに12兆ドルの市場を生み出すとも言われる。投資マネーの流れを変えようと動き出しているのが、世界金融の中心の一つ、ロンドンだ。

環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)という三つの単語の頭文字をとった「ESG投資」。最近よく聞くようになった言葉だ。

特に、気候変動対策やそのための再生可能エネルギー、省エネなどの分野に取り組んでいる企業に選択的に投資し、問題の解決が利潤にもつながるようにする、という動きが急だ。すでに世界の機関投資家の3分の1以上がESG投資を採り入れ、その額は推計20兆ドルに達している(国際団体GSIA試算)。

気候変動問題でさまざまなアイデアを生み出して国際ルールに影響を与えてきた欧州。ESG投資も、金融センターとして世界経済の中枢を担うイギリスがその潮流を牽引している。

国連の主導で設立され、投資判断にESGへの配慮を促す「責任投資原則(PRI)」本部はロンドンにある。世界1800の組織が署名しており、運用資産は世界の機関投資家による運用資産総額の半分近くにあたるという。日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も15年に署名した。

「投資家が発想を転換すべき時がきている。企業の取り組みが自分の投資ポートフォリオにどう影響するかを考えるのではなく、自分の投資が企業を通じてどう社会にインパクトを与えるかを考えるのだ」と投資・報告部門ディレクターのクリス・ドウマはいう。

ロンドン証券取引所も今年、「ESG報告書ガイダンス」をまとめ、傘下のイタリア証券取引所も含む上場企業計2700社に送った。シティーがESG重視を宣言したことは、世界に大きなインパクトを与えた。

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ガイダンス発表が注目を集めたロンドン証券取引所 photo: Kajiwara Mizuho

ガイダンスの基本は、環境をはじめとする課題に対して、それぞれの企業がどんなリスクを抱え、どんな対策を打っているかの情報を開示せよということだ。ガイダンス作成に参加したダン・カールソンは「情報開示がなければ、『逆にチャンスを逃すぞ』というメッセージを込めた。サステナビリティー投資分野で世界のリーダーを目指している」と背景を説明する。

実際、サステナビリティーの視点からの企業選別は起きている。15年に、9000億ドル規模の運用資産を持つノルウェーの政府年金基金が石炭関連株式の売却を決めるなど、ESG投資で「排除」される企業が出て賛否の議論を巻き起こしている。

「ビジネスの基盤となる社会が持続不可能になっている」

企業の財務情報は、いまも投資の意思決定に欠かせない重要な判断材料だ。しかし「企業報告に大変革が起きている真っ最中だ」と言うのは、ロンドンに本部を置く国際NGO、IIRC(国際統合報告評議会)のチーフ・ストラテジー・オフィサー、ジョナサン・ラブレー。気候変動や人権への取り組みや、取締役の男女構成比などといった非財務情報の公開は投資家の長期的な判断に欠かせないと訴え、報告書の新しいモデルを4年前に開発した。EU(欧州連合)は今事業年度から、従業員500人以上の上場企業などに非財務情報開示を義務づけた。対象は6000社にのぼる。ラブレーは、財務・非財務の情報を統合した統合報告(IR)が「あと2、3年で欧州の主流になる」と言い切る。

情報開示を誤れば、投資を誤る

今年6月には、各国の中央銀行総裁や金融監督当局者でつくる金融安定理事会(FSB)が国際的な金融安定の観点から気候変動問題に関わる情報の開示を企業に促した。ESG投資の流れは決定的になりつつあるように見える。ただ、数値化の難しい非財務情報をどう評価するかは難しい問題だ。「報告書を出すことだけでなく、作成過程でそれぞれの企業が真剣に議論し、意識を高めていくコミュニケーションのプロセスがさらに重要だ」とラブレーは言う。

世界の動きについて、損保ジャパン日本興亜CSR室シニアアドバイザーで明治大学経営学部特任准教授の関正雄は「気候変動がもたらす機会とリスクの財務上の影響を企業が情報開示しないと、間違った投資による資本の誤配分が生じ、金融市場が大混乱するかもしれない。そうした危機感が共有されつつある」と語る。そしてSDGsに積極的な企業が増えていることについて「裏を返せば、それだけビジネスの基盤となる社会が持続不可能になっているからだ」と指摘する。

ESG投資に乗り出したGPIF、その狙いは

世界最大の公的年金基金であるGPIFが今年、新たな指数のもとESG投資に乗り出した。高橋則広理事長に背景や狙いを聞いた。

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GPIFの高橋則広理事長 Photo:Nagashima kazuhiro

ESG投資はこれから、世界の投資の前提となっていきます。将来の世代が幸せになるにはお金だけではないということ。GPIFは株を直接持てないので、新たな指数の選定と公表を通じて、企業がESGの考慮に向かうよう後押しをしています。指数は三つあり、うち一つは女性の活躍に特に配慮したものです。

約145兆円の運用資産のうち国内株の3%にあたる1兆円規模。今後1割に高めていこうと話していますが、目標を決めて消化していくようなことはしません。投資の効果を見極めながら、増やしていきたいです。ESG指数は評価の手法も公表しており、企業がみれば、どこをどう改善すればよいかがわかる仕組みになっています。

日本のESGに対する評価が低いのは、情報開示の内容や量が不十分なことが大きな原因で、実態は評価ほど悪くないと思います。(評価の低い企業を排除する)ネガティブスクリーニングの方が実は簡単ですが、公開されている評価方法を意識しながら企業に動いてもらう方が、日本市場の底上げという点ではいいのではないかと考えます。

成長すればOKの時代は変わった

極論すれば、いままでは企業のやり方は問わず、成長すればOKでした。これからは、ESGの要素も含めて企業を評価していく。ESG評価の高い企業は、株価下落のリスクが比較的小さいという研究もあります。もちろん、短期利益の追求も必要です。問題は、長期の利益を稼ぐために短期利益が多少下がってもよいというバランス感覚がある決断を、経営者ができるかどうかです。

SDGsがお金の回し方で進むよう、携わっていきたい。こうした取り組みは、人間の利得欲に訴える方が長続きします。環境に配慮したら稼げた、さらに進めたらまた稼げた、という流れのほうがサステナブルですし、そこに投資のチャンスがあると考えています。

孫やひ孫の世代に財産を残すことも大事ですが、孫たちが暮らす社会は本当に幸せか。GPIFはお金は残したけれど、その結果、世の中はぼろぼろだったとは言われたくありません。(構成・北郷美由紀)

たかはし・のりひろ 1957年生まれ。農林中央金庫専務理事、JA三井リース社長を経て2016年4月から現職。政府のSDGs推進円卓会議にも加わっている。

(敬称略)

SDGsとは>

SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)は、環境や人権、開発、平和など国連がこれまでそれぞれ取り組んできた課題をすべて合流させて作られた。

2015年9月、加盟193カ国が全会一致で「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択。そこにSDGsの17分野の目標と、具体的な行動の目安となる169のターゲットが書き込まれた。

基本となる理念は「誰も置き去りにしない」。目標策定には各国政府の代表だけでなく、専門家や市民社会も加わった。SDGsの新しさは、さまざまな課題が実は根っこで互いにつながっているととらえる点だ。解決に向け、多様なアイデアやアプローチが可能だ。

ただ、大きな目標はあるものの、達成への方策が決まっているわけではない。資金の確保も進まなければ「絵に描いた餅」で終わる懸念はある。