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未来をあきらめない SDGsへの国谷裕子さんの視点

World Now
朝日新聞GLOBEのSDGs特集で特別編集長として編集会議の議論をリードする国谷さん photo:Takehana Tetsuro

危機感を出発点に

「我々は、地球を破壊から守ることを決意する」。20159月、この強いメッセージが発せられた。国連の全加盟国によって採択された「持続可能な開発目標(SDGs)アジェンダ2030」だ。同じ年の12月、今世紀末までの気温上昇を産業革命前と比べ2度未満に抑えることを目指す「パリ協定」も締結された。この二つの世界的な合意は今後の企業のあり方や私たちの暮らしのあり方など、あらゆる分野で変革を迫る。2015年は将来、人類にとって最も重要な年として記憶されることになるかも知れない。

SDGsとパリ協定の背景には、今のままでは地球も社会も経済も立ちゆかなくなるという強い危機感がある。ありとあらゆる資源を使い、大量生産と大量消費、そして温室効果ガスの大量排出を含む大量廃棄を続けることで豊かさを求めてきた人類は、いまや地球を作り替えるほどの力を持つようになってしまった。その力は、地球が持つ再生能力を破壊しつつある。次々に発せられる地球からの悲鳴が「地球には限界がある」という、忘れかけていた事実を私たちに気づかせたのだ。

アメリカ海洋大気局が発表する地球の陸と海面の平均温度は、このところ毎月のように20世紀平均と比べて0.8度あまり高い。猛暑も、巨大なハリケーンも、豪雨も、地球からの警告と見られている。16年には2400万人以上が自然災害によって住んでいた場所からの移動を余儀なくされた。加速度的に進む土壌の劣化、淡水の不足、海洋の酸性化、生物多様性の喪失。国連副事務総長のアミーナ・モハメッドは2年前、こう私に語った。「地球は私たち人間なしでも存続できますが、私たちは地球なしでは存続できません。先に消えるのは私たちなのです」

さらに世界がグローバル化するなか、経済成長の恩恵を受けられない人々が増えて格差が広がった。社会の分断が進み、これまで築かれてきた社会制度や経済制度への信頼が揺らいで世界は不安定化している。これに対して、SDGsは「誰も置き去りにしない」と宣言する。

30年にどのような世界を迎えようとしているのか。17分野の目標と169のターゲットからなる野心的な羅針盤を手にして、いま私たちは岐路に立つ。「我々は、地球を救う機会を持つ最後の世代になるかもしれない」(アジェンダ2030

採択から2年、まだSDGsの大きなうねりは起きていない。しかし、いま世界では、SDGsの視点で現実を見つめ、変革へ向けた新たなチャレンジが始まっている。

誰も置き去りにしないために

今年9月、衝撃的なデータが発表された。世界の飢餓人口は2005年以降、開発や支援によって減少していたが、昨年の飢餓人口は前年と比べて3800万人以上も増え、8億人を超えたのだ。長引く地域紛争と気候変動が絡み合って引き起こしているとみられている。これまでの手法が通用しなくなっていることを示す。SDGsは、こうした複合的な要因を持つ課題について、互いに関連する複数の目標に同時に挑むことで、その解決を目指す。

「誰も置き去りにしない」を掲げたSDGs。あまりにも理想主義的だとの声も聞こえてくる。しかしこの宣言は、これまでの取り組みが、終わってみれば一時的な対処策に過ぎず、多くの人々を取り残してきたという痛切な認識と反省から生まれている。

SDGsに向けた実践は、痛みを伴う。国連副事務総長のアミーナ・モハメッドは言う。「持っているものを手放せと言われたら、誰でも惜しくなるものです。それでも私たちは繁栄を分かち合うすべを見つけなくてはいけない。自分の生活が誰かに害を与えていないかを常に考えるべきなのです」

世界が共通の目標に向けて動くことに伴う痛みやあつれき。そして達成目標と現実のあまりに大きいギャップ。この困難をどう乗り越えるか。それは、このままでは地球そのものが立ちゆかなくなるとのリアルな認識をどこまで共有できるかにかかっている。

この9月、世界経済フォーラムは初めてSDGsをテーマにした会合を国連総会に合わせてニューヨークで開いた。主催者は冒頭、「これは議論のための会議ではない。SDGsにむけて一つでも多く実践可能な取り組みを探し、それを発展させていくことを目指したい」と発言した。会合に集まっていた政府首脳、グローバル企業の経営者、労働組合のリーダー、金融関係者や様々な研究分野の専門家、それに若いイノベーターたちに共通していたのは、問われているのは実行することだという責任感だったように思う。日本との温度差はあまりに大きいと感じた。

どうすれば気候変動への革新的な対策を加速できるか。人口が集中し続ける都市は持続可能か。技術革新の時代に、経済成長と「誰も置き去りにしない」をどう両立させるのか。SDGs達成に向けた官民連携の重要性、必要な資金をどう呼び込むのか、目標に向けた進捗をどう測るか──会合での話題は多岐にわたった。そして、キーワードのように繰り返し語られていた「社会的対話」「コラボレーション」「再結合」という言葉が印象に残る。

SDGsは、異なる分野の人びとがそれぞれの知恵を持ち寄って協力し合うことを促す仕掛けになっている。2030年に世界を担っている若い世代にこそ、この動きに参加してほしい。最も必要なのは、思い切った発想と挑戦的なイノベーションだからだ。そこから生まれるであろう新しい社会、持続可能な世界。SDGsのそれぞれの目標が、世界の希望としていま提示されている。未来をあきらめないために。

(特別編集長として、朝日新聞GLOBE 2017115日発行号「未来をあきらめない SDGsで見える世界」に執筆)

くにや・ひろこ キャスター。大阪府生まれ。米ブラウン大学卒業。1987年からキャスターとしてNHKBS「ワールドニュース」「世界を読む」などを担当。93年から20163月まではNHK総合「クローズアップ現代」のキャスター。16年に放送ウーマン賞、11年に日本記者クラブ賞、16年に放送批評懇談会のギャラクシー賞特別賞を受賞。171月から朝日新聞のキャンペーン「2030 SDGsで変える」のナビゲーターを務めている。東京芸術大学理事、国連食糧農業機関(FAO)親善大使。

SDGsとは>

SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)は、環境や人権、開発、平和など国連がこれまでそれぞれ取り組んできた課題をすべて合流させて作られた。

20159月、加盟193カ国が全会一致で「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択。そこにSDGs17分野の目標と、具体的な行動の目安となる169のターゲットが書き込まれた。

基本となる理念は「誰も置き去りにしない」。目標策定には各国政府の代表だけでなく、専門家や市民社会も加わった。SDGsの新しさは、さまざまな課題が実は根っこで互いにつながっているととらえる点だ。解決に向け、多様なアイデアやアプローチが可能だ。

ただ、大きな目標はあるものの、達成への方策が決まっているわけではない。資金の確保も進まなければ「絵に描いた餅」で終わる懸念はある。