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猛暑・酷暑の夏 ヨーロッパの「異常」が普通になる日

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
猛暑で1輪を残して、すっかり枯れてしまったひまわり=2018年8月6日、スイス、REUTERS/Arnd Wiegmann TPX IMAGES OF THE DAY

この夏、北ヨーロッパの人たちは、聖書に記されている悪疫の現代版に襲われたかのような感覚を覚えた。スイスでは牛が渇きで死に、スウェーデンでは火事が広がって木々を焼き、オーストリアでは雄大なダッハシュタイン氷河が溶けだした。

ロンドンでは商店から扇風機やエアコンが消えつつある。グリーンランドでは氷山が割れ、その大きな塊が海岸沿いの集落をのみこむほどのツナミを引き起こしかねない。スウェーデンの最高峰ケブネカイセは最近、氷河の先端が溶けてしまい、もはや最高峰ではなくなった。

南ヨーロッパはもっと暑い。8月の初め、スペインとポルトガルでは気温が40度から43度超に達した。

地球の最北地帯では気温が極端に上昇しており、英オックスフォード大学とワールド・ウェザー・アトリビューション(WWA)のネットワークに所属する研究者たちの調査によると、その一帯の温暖化は地球全体の平均より速いペースで進行している。

研究者たちが北ヨーロッパにある7カ所の気象観測所から集めたデータを分析した結果、今年の夏は北極圏に近づけば近づくほど高温記録が更新されている。ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの多くの市や町で記録的な暑さに見舞われ、北極圏の町でも気温が32度近くまで上昇した。

北ヨーロッパや西ヨーロッパでは例年より暑いだけでなく、気候がいつもより不安定だ。フランスのいくつかの地域では、豪雨や激しい雷雨と干ばつが交互に襲った。オランダでは、海面上昇ではなく干ばつが堤防に打撃を与えている。淡水不足で海水を押し戻せないからだ。

オックスフォード大学の研究の中間報告によると、ヨーロッパの地域によっては今夏、熱波に襲われる公算が倍増していることが判明した。

「過去、こうした熱波に見舞われるケースは10年に1回の割合だったが、今ではほぼ2年ごとになった」とフランソワ・マリー・ブリオンは指摘する。気候学者で、フランス国立科学研究センター系列の調査機関である「気候環境科学研究所(LSCE)」の副所長は、「これこそが気候変動の兆候だ。熱波の程度は必ずしもより甚大ではなくても、熱波に襲われる頻度が高くなってきている」と言う。

ヨーロッパ全体で少なくとも7万人が暑さのために死亡した2003年の夏のような気候は異常とみなされてきたのだが、2060年以降はそれが「夏の常態」となるだろう。そう指摘するのは、2007年にノーベル賞を受賞した「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の元副議長ジャン・ジュゼルだ。

地球温暖化の勢いを劇的に減速させる措置が取られない限り、時折襲う熱波がヨーロッパの気温を48度超まで押し上げる可能性があると彼はみている。

「まさに異次元の世界に突入することになる」とジュゼルは言い、「それはフランスなど西ヨーロッパの国々が経験したことのない世界だ」と付け加えた。

ダッハシュタイン氷河のケースはよりひどい兆候の一つである。その氷河は「肉眼で確認できるほど速いペースで溶けだしている」。気象学者のクラウス・レイングルーバーは、そうジャーナリストたちに話した。

気候変動は、経済破綻をもたらすなどヨーロッパの暮らしを変えてしまう可能性を秘めていることが徐々に理解されつつある。

「ヨーロッパでは毎年、全人口の約5%が異常気象に直面してきた。熱波や洪水、干ばつなどだ。だが、温暖化に歯止めがかからなければ、今世紀の後半には3人のうち2人が異常気象と向き合うことになろう」。ジュゼルは、専門誌「ランセット・プラネタリー・ヘルス(The Lancet Planetary Health)」に載った最新研究を引用しながら、そう語った。

空港の閉鎖や飛行機の運航の遅れは、これまでだったら通常は冬季の暴風が原因だった。ところが、ドイツ北部の都市ハノーバーの空港は今年の夏、約34度の熱気で50年前につくられた滑走路が歪み、旅客は何時間も足止めにされた。ドイツ北部一帯は干ばつに見舞われ、樹木、とりわけ若木がダメージを被った。

アイルランドもそうだったが、スイス東部やオーストリア西部のアルプス地方は深刻な水不足に見舞われ、乳牛の飼料にする牧草が十分に育たたなかった。このため農場経営者たちは冬用に備蓄していた飼料にも手をつけざるを得なかったから、今年の末には家畜の飼料不足に直面するだろう。

フランスの場合、これまでのところ、高温記録の更新までには至っていない。しかし、この国もヨーロッパの全体的な流れから外れているわけではない。海水面の上昇もそうした現象の一つだが、気候科学の専門家ブリオンはこの問題が過小評価されることを懸念する。
「海水面は現在、年に3ミリずつか、3ミリから4ミリの間で上昇している。たいしたことではないと思うかもしれないが、違う。これはもう元に戻ることはないのだから」

ブリオンは、こうも言っている。

「(気候変動の抑制で、2015年に結ばれた多国間合意の)パリ協定が守られ、気温を工業化時代以前の段階よりも2度高いだけのレベルに抑えられたとしても、海水面は今後も何百年にもわたって上がり続ける。すでに死滅を運命づけられた沿岸の都市も出てきている」(抄訳)

(Alissa J. Rubin)©2018 The New York Times

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