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中国が関心示す「氷のシルクロード」北極の未来、専門家はこうみる

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豊富な天然資源が眠る北極海。地球温暖化で海氷が減り、極東と欧州を結ぶ航路としても注目されている。今年に入り、中国が北極政策をまとめた初の白書を発表。「氷のシルクロード」への積極的な関与を打ち出した。こうした動きを、北極の専門家はどうみるか。米アラスカ大学フェアバンクス校元特別教授ローソン・ブリガムさんに聞いた。

——地球温暖化で海氷が減った北極地域に対して、世界的な関心が高まっています。

北極海の海氷面積は毎年23月に最大になりますが、米海洋大気局(NOAA)の発表では、昨年は1979年の観測開始以来、冬季で最小の1442万平方キロを3月に記録しました。9月の年間最小面積は8番目に小さい464万平方キロでした。北極の現象は地球全体に起きることの前兆であり、日本の今冬の寒さは北極の温暖化が原因の一つだとみる専門家もいます。氷が減って「開かれた」北極海は、将来的に航路として使えるという考え方があります。極東と欧州を船で結ぶ場合、北極海航路を通れば、南回りよりずっと航行距離は短くなります。

——天然資源はどうですか。

北極海は資源の宝庫です。海底に石油・天然ガスのほか、金、プラチナ、マンガン、ニッケルなど膨大な資源が眠っているとみられ、沿岸国を中心に採掘可能な開発場所として注目されています。沿岸には5カ国(米国、カナダ、デンマーク、ノルウェー、ロシア)ありますが、領有権は定まっていません。南極の領有権争いは59年の南極条約で凍結されましたが、北極については沿岸国の主張が対立したままです。

——北極問題を話し合う国際的な枠組みは?

日本、中国、韓国などもオブザーバー参加する「北極評議会」があります。持続可能な開発と環境保護を両立させるため、沿岸5カ国のほかに北極圏内のフィンランド、アイスランド、スウェーデンを加えた8カ国と先住民団体が話し合う高レベルの政府間協議体として、96年に設置されました。オブザーバーには仏独英など欧州の国々が多いですが、日本は中韓やインド、シンガポールなどと一緒に2013年にオブザーバー申請が認められた新しいメンバーです。閣僚会議は1年おきに、政府高官の会合は半年ごとに開かれます。評議会の下には、専門家による六つの作業部会もあります。

——中国政府が今年1月、北極政策をまとめた初の白書を発表しました。

地域が抱える課題も含めて幅広く網羅した、包括的な内容です。北極圏内8カ国の主権を尊重するとした上で、「相互利益」のために他国との協力を促しています。全体を通じて科学研究や調査に重点が置かれていますが、軍事や安全保障には触れておらず、白書は地域の平和と安定に貢献するものだと強調しています。

——白書では、中国が推進する「一帯一路(シルクロード経済圏構想)」に絡めて北極海航路を「氷のシルクロード」としていますね。

ロシアなどと協力した北極海航路の整備も盛り込まれ、ロシアも歓迎しています。一帯一路は、中国と欧州間のユーラシアに陸橋を造ったり、インド洋の航路を開発したりする構想ですが、現存の大陸横断の鉄道ルートやインド洋・太平洋の年間を通じた航路とのすみ分けなどには触れていません。北極圏内の国々は国益を抱えていることなどから、「氷のシルクロード」が将来的に北極圏の航路として構成概念に適用されることはないと思われます。

——日本にできること、果たすべき役割はありますか。

日本には国際的に高レベルな科学者や技術者が多く、北極圏や気象問題に関する国際海事機関(IMO)や世界気象機関(WMO)、国際水路機関(IHO)で重要な貢献をしています。北極評議会でもオブザーバー国として、作業部会での役割が期待されています。

ローソン・ブリガム Lawson Brigham

ローソン・ブリガム Lawson Brigham

1948年生まれ。北極政策の研究家。米沿岸警備隊を退官後、米北極研究委員会のアラスカ事務所長や、北極評議会の作業部会で議長などを務めた。

(聞き手・論説委員 郷富佐子)