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「都市鉱山」に眠る大量の金 「日本は資源国になれる」

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三菱マテリアル直島製錬所で鋳込まれたばかりの金
三菱マテリアル直島製錬所で鋳込まれたばかりの金=2012年2月、香川県直島町、宮地ゆう撮影

細く伸ばされた金がまるで糸のように芯に巻きつけられている。直径25ミクロン。髪の毛の3分の1の細さだ。伸ばしていくと、長さは5キロにもなる。「ボンディングワイヤです。切れないように作るのは大変なんですよ」

貴金属を扱うTANAKAホールディングスの原範明が製品を手に説明してくれた。

半導体チップの電極と基盤をつなぐのに使われる。世界での消費量は、長さにして毎月、地球19周分という。スマートフォンなど小型で高機能の電子製品をつくるには、少ない部品数に、たくさんの半導体を積まなくてはならない。そこで、チップ内で立体的に配線する技術が進んできた。

「配線が複雑になればなるほど、スペースを取らない細い配線が求められる」。直径10ミクロンの金製のワイヤもすでに商品化にこぎつけたという。

世界の金需要の12%は、こうした電子部品や義歯などに使われる「工業用」だ。柔らかくて加工しやすく、電流を流しやすいうえにさびにくいといった特性が、素材として重宝されてきた。肉眼では見えないナノ(10億分の1)メートル大の金の超微粒子に着目した研究も盛んになっている。

「関連論文は世界で年間1000本くらい出ている。10年前の5倍。金のナノテク研究はゴールドラッシュだ」。首都大学東京大学院教授の春田正毅はこう話す。春田は、金が超微粒子になると化学反応の進行を助ける触媒として働くことを見つけた。悪臭物質の分解などに使えるという。

金は、赤や黄、緑の光を反射するために金色に見えるが、光の波長より小さい粒子になると色が変わる。直径が20ナノだと、緑の波長の光を吸収して鮮やかな赤に。50~100ナノだと紫に、10ナノ以下では黄に近くなる。この原理を用いた塗料や化粧品の開発も進む。

金の微粒子の表面にわずかな物質がくっついただけで色が変わる特性を「センサー」に見立て、糖尿病や妊娠検査、インフルエンザウイルスの検査キットとしても使われている。用途が拡大する金は、天然鉱石だけに頼っていては供給が追いつかなくなる恐れがある。しかも、金の値上がりは産業界にとってコスト高になるだけに、金に代わる新材料の開発や、金のリサイクル技術に対する関心が高まっている。

三菱マテリアルの直島製錬所では、捨てられた電化製品から取り出した部品などが、敷地内に山積みされていた。そのサンプルを手に取ると、大手ゲームメーカーのマークがあるICチップなどが含まれている。廃棄物に含まれる金属資源は、近年「都市鉱山」と呼ばれている。1988年に東北大学教授の南条道夫が唱えたとされる。

物質・材料研究機構の元素戦略調査分析統括グループ長、原田幸明は「日本は『都市鉱山』で資源国になりうる」と指摘する。

原田らの試算によると、廃棄物に加えて、たんすや金庫に眠っている指輪などの宝飾品や金塊、使用中の製品に含まれる金などを含めれば、日本が持っている金は約6800トン。鉱山での金埋蔵量は、世界首位のオーストラリアで7300トンだから、ほぼそれに匹敵する。

原田は「工業製品だけでも、まだ回収ロスがかなりある」と話す。金に詳しいアナリストの豊島逸夫も「国と企業が資源としてきちんと認識しないまま、廃棄物といっしょに海外に流出させてしまっている」と懸念する。

人類がこれまでに積み上げてきた金の総量は16万7000トンと計算されている。いまの時価で換算すると約730兆円分だが、体積としては競泳用の50メートルプールで3杯半にすぎない。そのために「富士山二つ分もの鉱石を掘ってきた」といわれる。

携帯電話に含まれる金は、1トンあたり約200グラムとされ、天然鉱石に含まれる金の約40倍にもなる。

回収の難しさや、有害物質の処理にかかるコストといった壁もあるが、こうした課題を世界に先駆けて克服できれば、都市鉱山への注目はさらに高まるかもしれない。(文中敬称略)(都留悦史)