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銅が足りなくなる?争奪戦は始まっていた 休眠銅山を再び掘るカナダのスタートアップ

World Now 更新日: 公開日:
「ドレ・カッパー・マイニング」がカナダ・シブーガモで再開発している銅採掘工場
「ドレ・カッパー・マイニング」がカナダ・シブーガモで再開発している銅採掘工場=同社提供

「人類が初めて使った金属」と呼ばれるほど身近な銅を確保しようと、多くの国や企業が躍起になっている。価格も世界的に高騰し、脱炭素社会の実現に向けた取り組みへの影響も懸念されている。カナダでは、一度閉じた鉱山を再開発する動きも始まっている。

豊かな森林と美しい湖に囲まれた小さな街を、車で後にした。舗装された広い道路から細い砂利道を30分ほど走ると、ところどころさび付いてはいるが、大きな工場が現れた。

さらに進むと、湖のほとりにぽっかりと巨大な穴が口を開けていた。のぞき込んでも奥までは見えないが、アリの巣のように深くまで延びているという。

「ここをもう一度掘るんだ。銅山で働けばマクドナルドの給料の3倍にはなる。とてもうれしいね」

「ドレ・カッパー・マイニング」社が開発を再開した銅山にある水のたまった大穴。過去の銅採掘で掘られ、約100メートルの深さだという
「ドレ・カッパー・マイニング」社が開発を再開した銅山にある水のたまった大穴。過去の銅採掘で掘られ、約100メートルの深さだという=2023年7月18日、カナダ・シブーガモ、市野塊撮影

カナダ北部にあるケベック州シブーガモ。銅採掘をするスタートアップ企業「ドレ・カッパー・マイニング」の現地責任者、ジャン・タンガイさんが一帯を案内しながら、そう話してくれた。

あたりを見渡すと地下をドリルで掘った跡が無数にあり、銅鉱石がいたるところに転がっていた。ここは約50年間、別の会社が採掘していた場所。2008年に閉山したが、2017年にドレ社が買い取り、再開発に取り組んでいる。

「ドレ・カッパー・マイニング」の銅鉱山に落ちていた鉱石。以前の運営会社が掘り出し、鉱山にうち捨てられていた
「ドレ・カッパー・マイニング」の銅鉱山に落ちていた鉱石。以前の運営会社が掘り出し、鉱山にうち捨てられていた=2023年7月18日、カナダ・シブーガモ、市野塊撮影

エルネスト・マスト社長は「カナダやアメリカでは、過去の鉱山を再開発しようとするプロジェクトが他にもある」と説明。同社は2026年に年間2万3000トンの銅生産を目指すといい、日本を含む世界中に輸出するつもりだ。「私たちの銅は世界に届けられ、グリーンな社会への転換に貢献するだろう」と成功への自信をのぞかせる。

背景にあるのは、脱炭素社会実現への取り組みだ。各国が普及を進める再生可能エネルギーや電気自動車などの技術に、電気を通しやすく、さびにくく丈夫で、加工がしやすい銅が大量に使われているためだ。

そもそもスマートフォンやパソコンなどに用いられる基板には、銅が用いられている。それらの普及で銅の需要は高まり続けてきた。

2030年には供給不足?

世界の銅関連企業が参加する国際銅協会(本部・米ワシントン)によると現在、世界で使用されている銅は毎年2500万トンほど。それが2050年には5000万トン必要になるという。そこに脱炭素に向けた需要を合わせると、計5700万トンにまで増えるという。市場調査会社S&Pグローバルの報告書は、現在の銅の産出量のペースでは、2030年ごろから需要に追いつかなくなると指摘する。

銅の価格も高騰している。1980~2000年代前半までは1トンあたり1500~2500ドル程度を行き来していたが、中国の急速な経済発展とIT化による需要の高まりなどがあり上昇。そこに脱炭素社会に向けた需要も重なり、2020年以降は6000~9000ドルほどと2~6倍になった。

銅価格の推移グラフ

日本銅センターの中山宏明事務局長は「新たな鉱山を開発するには時間がかかる。先進国はすでに社会にある銅をリサイクルできるが、これから発展して電化する途上国には新たな銅を持ってくるしかない。不足感は2050年ごろに最も大きくなる」と説明する。

こうした事情が各国に銅の確保を急がせている。

米国は7月末に「重要鉱物」リストを公表。コバルトやリチウムなどの希少金属(レアメタル)に加え、手に入りやすいはずの銅も、資源確保のための資金援助の対象に含めた。

また、日本の主要な銅輸入先の一つでもあるインドネシアでは、将来的に銅を鉱石のまま輸出することを禁じ、国内で不要な部分を取り除く精鉱を実施したものしか輸出できなくなることを示唆した。銅に関連する国内産業への投資を促進するためとされる。

政府も鉱山開発を後押し

カナダのドレ社も銅にビジネスチャンスを見いだした一社だ。

カナダで銅採掘に取り組む「ドレ・カッパー・マイニング」のエルネスト・マスト社長
カナダで銅採掘に取り組む「ドレ・カッパー・マイニング」のエルネスト・マスト社長=2023年7月20日、カナダ・トロント、市野塊撮影

眠っていたシブーガモの鉱山を設備や道路など丸ごと買い取ったのは、銅価格の高騰で採算が取れるようになったとの判断から。カナダ政府が銅採掘にかかる費用を税制で優遇したり、採掘許可の迅速化を進めたりしていることも後押しした。

再開発では、複数の場所から採掘したサンプルを使って、地下の鉱物の状況を3Dでマッピング。パソコンのモニターを使い、様々な角度から地下の鉱脈を見られるようにした。こうした最新の探査技術を用い、過去に掘られた穴より数百メートル深い、地下1500メートル付近に新たな鉱脈を確認。ディーゼルではなく電動のトラックを使うことで、坑内の換気作業を減らすなどし、低コストで効率良く、これまで以上に深く掘れるようになったという。

銅の需要の高まりに対し、世界がとるべき道はなにか。英シンクタンク「E3G」の上級政策顧問、マリア・パスツコバは、①銅採掘量の増加②銅のリサイクル量の倍増③銅の供給元を一部の国・地域に集中させすぎない④エネルギー効率を倍増させ、エネルギー機器そのものの需要を減らす、の四つが必要だと指摘。「持続可能で信頼できる銅の供給を確保することは、クリーンエネルギーへの移行を維持し、不必要なコスト高騰を防ぐためにも重要だ」と話す。