米国との境にあるオンタリオ湖。カナダ側に浮かぶ広さ約120平方キロメートルのウルフ島には、周囲を畑に囲まれるように高さ約80メートルの白い風力発電設備がいくつも並ぶ。
運営するトランスアルタによると、島には86基の風力発電施設があり、約7万5000世帯をまかなう電気を生み出せるという。
同社の広報担当、ケイシー・ワガーは「地域社会、企業、産業にクリーンエネルギーをもたらすことができる」と誇る。
「1.5度」の目標、脱炭素への転換が急務
9月6日、世界気象機関と欧州連合の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」が、今年6~8月の世界の平均気温が観測史上最も高くなったと発表した。8月は海面の平均水温も過去最高だった。南極の海氷の面積はこの時期としては記録的に小さく、平年を12%下回っているという。
国連のグテーレス事務総長はこの日、声明で「私たちの気候は、地球のあらゆる場所で起きている異常気象に私たちが対応できる速度を超えて、崩壊しつつある」と指摘。「最悪の混乱を避けることはできる。ただし、一刻の猶予もない」と訴えた。
国際社会は温暖化対策の国際ルール「パリ協定」のもと、気温上昇を産業革命前に比べて1.5度に抑えようとしている。国際エネルギー機関(IEA)は、達成のためには、2050年に世界の電力の9割を二酸化炭素(CO₂)が出ない電源に置き換える必要があると報告している。
そのための取り組みが、化石燃料を燃やさずに自然の力で発電できる再生可能エネルギーへの転換だ。英シンクタンク「エンバー」は、2022年に世界の電力の12%が太陽光と風力発電だったと報告。化石燃料由来の電力は2022年をピークとし、翌年から減少に転じると試算している。
エンバーの上級電力アナリスト、マルゴザータ・ウィアトロスモティカ氏は、再エネの主力として太陽光と風力が今後も伸びるとし、「想定されているよりも成長率はもっと高くなるだろう」と話す。
その再エネの普及に銅が不可欠だ。
1メガワット規模の発電をする設備に必要な銅は、太陽光で2.45~7トン。陸上風力では5.4トンだが、洋上風力だと15.3トンに及ぶとされる。
また、IEAは世界のCO₂排出量のうち、2割が運輸由来だとも指摘。「1.5度」の目標達成には、2030年までに世界の新車販売の6割を電気自動車(EV)にし、2035年までにガソリンなどで走るエンジン車の新車販売を停止する必要があるとしている。
EV1台に用いられる銅は、モーターやバッテリー、配線など80~90キログラムで、エンジン車の4倍ほど。さらにEV用の急速充電器も1台に8キロの銅を使う。充電時間を短縮するために出力を上げると、1基あたりの使用量がさらに増えていく見込みだ。
三菱自動車で、世界初の量産EV「アイミーブ」の開発担当などと務めた、日本電動化研究所の和田憲一郎代表取締役は「コバルトやニッケルなどの希少金属とともに、銅も需要が高まっていく」と話す。
欧州連合(EU)は2035年にエンジン車の新車販売禁止すると打ち出している。米国のカリフォルニア州も同年までにすべての新車販売をEVや燃料電池車にする目標を掲げている。和田さんは、こうした地域では、銅需要の高まりが一足早く訪れるとみる。
一方、日本も2035年にすべての新車販売を「電動車」にするという目標を掲げているが、ここにはエンジンを使うハイブリッド車も含んでいる。和田さんは「今の目標では、日本がEVに本腰を入れるのは、海外より後になる」と指摘。「その時点では銅などの材料が世界で不足し、高く買わなければいけなくなる。それが車の価格にも反映されれば、海外メーカーに太刀打ちできなくなってしまう」と危機感を募らせる。
「2030年までに再エネ3倍に」
地球温暖化の影響は深刻さを増し、今年7月には世界の平均気温は観測史上最高を記録した。海水の膨張や溶けた氷河が海に流れこむことによる海面上昇の被害や、豪雨といった災害も増えている。
今年11~12月に国連の気候変動会議(COP28)が開かれる。議長を務めるアラブ首長国連邦の産業・先端技術相、スルタン・ジャベルは7月にベルギーで「2030年までに再エネを3倍にすることで合意すべきだ」と発言。焦点の一つになってきた。議論によっては銅需要はさらに高まると予想される。