世界ではいま、エネルギーをめぐり急激な変化が起きています。再生可能エネルギーへの転換が進めば、世界の地政学的な要因が根本から変わるでしょう。
これまでの100年は化石燃料の時代でした。化石燃料は中東など一部の地域に偏在していて、これまではこうした国が豊かになり、大国はいかに安くエネルギーを調達するかという点でこれらの国と関係を築きました。多くの争いや地域の緊張もエネルギーが原因でした。エネルギーを確保するため同盟関係を結び、軍事力が支えてきました。ホルムズ海峡やマラッカ海峡など戦略的に重要な「チョークポイント」があり、石油輸送をどこかの国に止められるかもしれないことが、地政学的にもインパクトを持ちました。
21世紀のいま、再エネの時代に入ろうとしています。風力や太陽光はどの国にもあり、化石燃料の輸入に頼らなくてもかなりの部分を自給できるようになります。石油や天然ガスをめぐって覇権を争う時代は終わり、これからは(再エネをめぐる)イノベーションと技術開発の時代です。
再エネによる発電コストが下がり、アラブ首長国連邦(UAE)では太陽光発電の売電単価が化石燃料の6分の1程度にまでなりました。(産油国の)サウジアラビアも巨大な太陽光発電設備を導入し、将来は欧州への電力供給を考えています。これからは情報技術(IT)を使って国をまたいで電力を供給するグリッドシステムへのサイバー攻撃などが新たな脅威になり得ます。
中国は、再エネや電気自動車(EV)、蓄電技術、グリッドシステムといった、将来の競争に有利になる分野に先を見越して投資しています。サイバーセキュリティーが国のエネルギーシステムを守るのに欠かせなくなりますが、中国は次世代通信技術「5G」や人工知能の分野でも実質的に優位に立っています。
中国は太陽光パネルの製造で独占的な地位を占め、各国に供給しています。ただ、よりコストの安いマレーシアやベトナムなどに製造拠点が移り始めており、太陽電池の供給が将来の地政学的なリスクにはならないかもしれません。
一方、日本は少し変わった状況にあります。風力のタービン技術や太陽光の先端技術もあり、再エネを活用できる明るい未来もあります。ですが、政治的な勢力や電力会社が変化を阻んでいるように見えます。それを乗り越え、再エネへの転換を方向づける政策の枠組みを示す必要があります。
日本には、洋上風力に大きな潜在力があります。最大の問題はコストが極端に高いことですが、浮体式の風力発電の開発を進められれば、大きな力を発揮できると思います。日照時間も英国やドイツより長く、太陽光発電を確実に進めていくことが必要です。また日本は地熱に大きな可能性があります。社会で議論して有効に活用していかなければなりません。
Adnam Amin 1957年、ケニア生まれ。約100カ国・地域が加盟するIRENA初代事務局長を2019年まで8年間務めた。現在はハーバード大ケネディ行政大学院の上級研究員。19年、「中国が再エネへの転換によって世界の超大国になるのか」と題した文章を公表した。