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「もっと再エネを」声高まるドイツで風力発電が伸び悩み 現地で見えたその理由

World Now
「風力発電は人々の犠牲の上には成り立たない」と書かれた看板=2021年4月26日、ドイツ北部ノイエンドルフザクセンバンデ、野島淳撮影

北海とバルト海に挟まれるドイツ北部シュレスビヒホルシュタイン州は安定した風に恵まれ、ドイツの中でも風力発電の設置が多い地域だ。この州にある人口800人余りの小さな町ノルトルフに来年夏、最新鋭の陸上風力発電所が稼働する。古い風車に置き換えることで、より効率的に発電する計画が各地で進む。

2030年までに総発電量の65%を再生可能エネルギーで賄う計画を立てているドイツは、20年の時点ですでに約半分を再エネが占める。中でも太陽光とともに主力になるのが風力だ。総発電量に占める風力の割合は20年時点で約26%で、石炭の約25%を上回り、最も多い供給源に成長した。3万基以上の風車が陸上と洋上で稼働している。

東京電力福島第一原発事故で、ドイツ政府は脱原発にかじを切り、風力発電に力を入れた。最近、38年までに石炭火力を段階的に廃止する方針も決めた。さらに再エネを増やすため、政府は30年までに陸上風力の設備容量を3割増やして71ギガワットに、洋上風力を約2.5倍にして20ギガワットにする目標を掲げる。

だがここ数年、設置数の伸びが急に落ち込んでいる。陸上は18年からの3年間で、約4ギガワットの増加にとどまった。要因の一つに、住民や動物保護団体などによる設置反対で、地方自治体の建設許可が滞っていることがある。

最新鋭の風車が立つ予定のノルトルフから北西に約5キロ。約500人が住むノイエンドルフザクセンバンデで、ユッタ・ライヒャルトは長年、建設反対を訴えてきた。自宅から半径15キロに約300基の風車が立っているという。取り囲むように立つ風車を指さし、ライヒャルトは言った。「動物の生息地を破壊し、多くの鳥が風車に巻き込まれて死ぬ。生物の多様性にひかれてここに来たのに。心が痛い」。何より、自身の健康も「風車で破壊されている」と訴える。

ユッタ・ライヒャルトの自宅近くで回る風車=2021年4月26日、ドイツ北部ノイエンドルフザクセンバンデ、野島淳撮影

ライヒャルトと夫のマルコ・ベルナルディは1994年、自前でビオトープをつくろうとハンブルクからこの地に移った。だがその後、自宅から数百メートルのところに3基の風車が立ち、鳥が立ち寄らなくなった。自身も眠りが浅くなり、耳鳴りや吐き気などを経験した。

風車の回転で起きる低周波などが健康被害につながっているとの研究を見つけ、06年から裁判を起こした。5年がかりで裁判に勝ち、自宅近くの風車は撤去された。全国で同じような経験をする人たちとも連携し建設反対の運動を続けている。

住民の反発を受け、ドイツの各州はここ数年、居住地から数百メートル~1キロ離さないと風車は建設できないという規則を設けている。ライヒャルトの自宅から今最も近い風車までは約2.5キロ。それでも、「今も振動を感じる。低周波は長い時間をかけて体に影響を及ぼし、苦しんでいる。政府が気候変動に対応するというのなら、風車より次世代型の原発の方がまだいい」。

風力発電の建設に反対を続けるユッタ・ライヒャルト(左)と夫のマルコ・ベルナルディ=2021年4月26日、ドイツ北部ノイエンドルフザクセンバンデ、野島淳撮影

一方で、風車による健康被害の根拠に疑いを投げかける発表もあった。ドイツ連邦地球科学天然資源研究所(BGR)は4月末、風車から出る低周波を「過大評価していた」と発表。BGRの研究は風車による健康被害の根拠の一つだった。経済エネルギー相のアルトマイヤーは「誤った数字が長年にわたり流布したことを大変申し訳なく思う」と謝罪。「低周波の影響を心配してきた人が安心してくれることを願う」と語った。

政府も住民の理解を得ようと今年1月に再生可能エネルギー法を改正し、風力発電事業者が売電収入の一定割合を設置する地元自治体に支払い、近隣住民に割引で電力供給する仕組みを入れた。ドイツ風力エネルギー協会代表のウォルフラム・アクストヘルムは「このテーマは非常に感情的になる」と指摘する。建設に納得しない人は健康被害だけでなく、景観や生物保護など、風車のあらゆる負の側面を指摘するという。「感情的にならず、新しいエネルギーインフラを各地域でどのように作り上げるか、もっと議論しなければならない」

ドイツ風力エネルギー協会代表のウォルフラム・アクストヘルム=2021年4月29日、ベルリン、野島淳撮影

陸上では居住地との距離の確保が必要で、適地がいくらでもあるわけではない。洋上も自然保護区や航路を避ける必要がある。アクストヘルムは「今後も十分な場所を確保し続けられるか、気候変動対策と自然保護の対立をどう解消できるのかが大きな課題だ」と話す。

「もっと再エネを」との掛け声は強まるばかりだ。ドイツ連邦憲法裁は4月末、温室効果ガスの削減目標を定めた気候保護法は「一部違憲」との判断を示した。50年の実質排出ゼロを達成するには31年以降、さらに厳しい排出削減が必要で、特に未来の世代の自由を大きく制限するにもかかわらず、現行法では31年以降の具体的な排出削減策が十分規定されていないという趣旨だ。

鳥の体が風車の羽根で切り刻まれる絵で、風力発電に反対を訴える看板=2021年4月26日、ノイエンドルフザクセンバンデ、野島淳撮影

批判された政府・与党からも、憲法裁の判断を「画期的」と受け止める声が上がる。政府はCO₂削減量を30年に55%から65%に、カーボンニュートラルの目標を5年前倒しし、45年とする方針だ。さらに、気候変動への世論の関心の強さを背景に急速に支持率を上げている野党緑の党は、9月の総選挙後の政権奪取をにらみ、勢いづく。ハベック共同党首は「30年までにCO₂排出55%減の現行目標を70%減にする。太陽光、陸上・洋上風力もいままでより2倍のペースで拡大する」といった考えを示した。気候変動対策先進国としての陶酔感すらただようドイツ。高くなるばかりの目標の達成には、具体的な施策の実現がかぎになる。