1. HOME
  2. 特集
  3. 絶滅しない経済学
  4. ESG投資、気候変動だけじゃない 生物多様性への取り組みも評価される時代へ

ESG投資、気候変動だけじゃない 生物多様性への取り組みも評価される時代へ

World Now
Workers tap rubber trees in the rubber plantation area in the Talang Kemang plantation, Banyuasin Regency, South Sumatra, December 21, 2019. The Indonesian government targets rubber production in 2019 to reach 3.81 million tons, up 3.5 percent from last year's achievement of 3.68 million tons. (Photo by Sigit Prasetya/INA Photo Agency/Sipa USA)(Sipa via AP Images)
ゴム農園で作業する人=2019年12月、インドネシア・南スマトラ、AP

「今年、日本が国際競争力を維持できるかの分岐点を迎えている」。WWFジャパン事務局長の東梅貞義さん(55)はそう指摘する。

気候変動問題は国際政治の中心課題となり、2015年に地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」ができた。金融面では「ESG(環境・社会・ガバナンス)投資」が拡大し、気候変動対策に積極的か否かで資金調達に影響したり株価が上下したりするようになった。東梅さんは「高いレベルでの政治合意とともに、企業・金融の役割が大きい。気候変動が10年余りかけて進めた動きを、生物多様性は2~3年に凝縮して進む」とみる。

90カ国以上の首脳が「30年までに生物多様性の減少を反転させる」と宣言。欧州を中心に、生物多様性保全の取り組みを投融資の評価や情報開示に盛り込む金融機関や企業が増えている。世界経済フォーラムの今年のリポートによると、企業トップらに聞いた「発生した場合のビジネスへのインパクト」の1位は「気候変動対策の失敗」、2位は「生物多様性の減少」だった。東梅さんは「世界のビジネスリーダーにとって、生物多様性は環境の話ではなくビジネスに直結する課題だ」と強調する。

WWFジャパンの東梅貞義事務局長=星野眞三雄撮影

どの国の自然資本をどれぐらい使って製品をつくったりサービスを提供したりしているのか。そうした原料の調達状況などの開示が求められつつある。

ブリヂストンは「持続可能な天然ゴム調達への取り組み」として、「森林破壊の防止」や「生物多様性への配慮」を打ち出している。東南アジアなどでは、タイヤに必要な天然ゴムの木を植えるために熱帯雨林を伐採することが問題視されているからだ。天然ゴムの生産と消費は拡大傾向で、森林伐採による生物多様性の減少が懸念されている。

Gサステナビリティ部門長の稲継明宏さん(48)は「森林破壊の地域から天然ゴムを仕入れていないか、たどって開示してほしいと金融機関などから求められる機会が増えた」と話す。「これまでESG投資といえば、気候変動が主なテーマだったが、この1、2年で生物多様性への関心が高まっている」と感じている。

ブリヂストンのGサステナビリティ部門長、稲継明宏氏=星野眞三雄撮影

仏ミシュランと並び世界トップ企業のブリヂストンだけに、ESG関連の面談の申し込みは欧州の投資家からが6~7割を占めるという。多くて年に1件程度だったが、昨年は十数件にのぼり、今年に入るとさらに増えて「最近は月3~4件ある」。ドイツの自動車メーカーなど情報開示が進む欧州企業が取引先なこともあり、稲継さんは「競合企業に後れをとれば、グローバル競争力の低下に直結する」という。

日本の金融機関も対応を始めている。

欧米を中心とした大手金融機関が昨年9月に立ち上げた「Finance for Biodiversity Pledge(生物多様性のためのファイナンス協定)」。日本からは唯一、りそなアセットマネジメントが今年5月に参加している。

同社執行役員責任投資部長の松原稔さん(54)は「森林保全や生物多様性の重要性は増している。金融を通して将来世代の豊かさや幸せも提供していくことが、私たちの責任だ」と説明する。熱帯雨林の伐採につながるパーム油の調達先の見直しを投資先企業に求めるなど、「解決策を探っている」。

りそなアセットマネジメント責任投資部長の松原稔氏=星野眞三雄撮影

温室効果ガスの排出削減量や再生可能エネルギーの導入量など、気候変動対策は効果が数値として見えやすいが、生物多様性は対象や影響が多岐にわたるため、評価が難しい。りそなアセットマネジメントは、生物多様性の保全に取り組むプロジェクトに融資した結果を、1ヘクタールあたりの土地改善や森林再生として金銭評価する「インパクト評価」を昨年度から始めた。

今年6月、金融機関や企業がビジネスの自然への依存度や自然に与える影響、自然関連のリスクを評価し、情報開示を求める国際的な枠組み「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」が設立された。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の自然資本版といえ、気候変動対策を加速させたTCFDと同様の役割を期待されている。

TNFDの非公式作業部会には三井住友信託銀行グループの資産運用会社が参加。同行チーフ・サステナビリティ・オフィサーの金井司さん(60)は、日本における自然資本金融の先駆けの一人だ。

12年にリオデジャネイロであった「国連持続可能な開発会議」で「自然資本宣言」に日本で唯一、同行が署名した。「企業経営がよってたつのが、生きものやそれを育む水や空気、土地などの自然資本。だが、この10年は気候変動が中心で、自然資本は停滞した」

三井住友信託銀行チーフ・サステナビリティ・オフィサーの金井司氏

自然資本への影響が大きい企業への融資契約に、悪影響の抑制や好影響の拡大目標を織り込む「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」を19年に始めた。金井さんは「最近、自然保護プロジェクトに投資する1000億円単位のファンドが欧州を中心に立ち上がっている。お金が回る仕組みができつつあるということで、世界の変化を実感する。TCFDが情報開示によって企業と投資家の行動を変えたが、わずか数年で一気に進んだ。国際的な動きが始まると速い」と話す。

自然資本を経営レベルでとらえ、自然の供給能力の中で企業活動をしていなければ、金融市場から「ノー」を突きつけられる。そんな時代が到来しようとしている。