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アメリカ中間選挙、上院辛勝の民主党が歓喜する理由 次期大統領選の有力候補は【前編】

これだけは知っておこう世界のニュース 更新日: 公開日:

中川 今回は、前編でアメリカの中間選挙の結果、後編で今後のアメリカの外交政策をテーマにパックンと対談したいと思います。

11月8日に投開票が行われたアメリカの中間選挙について、前回のコラムで、パックンは、上院は民主党が、下院は共和党が勝利して「ねじれ議会」になると予測しました。

物価高やインフレもあって、選挙直前の1カ月間は民主党に逆風が吹いて、下院で民主党が大幅に議席を減らすという見方が大勢でしたが、結果は1117日時点で、上院(定数100)が5049で、決選投票を行うことになったジョージア州を考慮しても民主党勢力が多数派を確実にし、下院(定数435)は、213220で共和党が過半数を取り、4年ぶりに下院を奪還しました。

民主党は、事前の予測が良くなかった中で上院の多数派を維持したということで、喜ぶ気持ちは分からなくないですが、ちょっと喜びすぎじゃないかっていう気がしなくもないですね。

演説集会で選挙の健闘をたたえ合うバイデン米大統領(右)とハリス副大統領=2022年11月10日、ワシントン、朝日新聞社

私は、政治は事前予測からどれだけ積み上がったかよりも、結果がすべてじゃないかなと思っています。そうすると、結果はやっぱり下院を奪われたということになります。

たしかに、南北戦争以来、39回の中間選挙のうち、現職大統領の与党は下院で36負けています。でも、だからと言って、今回の上院での薄氷の勝利を民主党の「大勝利」と呼ぶのは過大評価だし、バイデン大統領がこの結果を自身への信任と捉えて、自信を深め、そのまま2年後も自分で勝てると考えることになれば、2年後はまた予想外の結果になるかもしれません。

いずれにせよ、下院で共和党に敗北した以上、バイデン大統領は、これからの2年間、絶えずトランプ氏の目を意識しながら政策、パフォーマンスをせざるを得なくなります。

おのずと強硬路線になりそうですね。

現職大統領の政党が「大幅に負ける」中間選挙の常

パックン アメリカでは、新しい大統領が当選してから2年後に行われる中間選挙では、大統領が所属している政党が基本的に、下院で50前後の議席は減らすものなんです

トランプ大統領は40議席、オバマ大統領は63議席、クリントン大統領は52議席、ブッシュ大統領のときは9.11以降の対テロ戦争の最中だったので例外的に増やしましたけど、それでも2期目の2006年の中間選挙で30議席減らしました。基本的に「与党が大幅に負ける」というのが、毎回のトレンドなんですよ。

でも今回は、バイデン大統領の民主党が減らす議席は11月29日時点で、結果が判明していない残り2州で全部負けたとしても9議席しか減らさないことになります。

だから民主党から見れば、「大勝利」です。中川さんがおっしゃったインフレもひどい。コロナもまだ終わってない。現在のバイデン大統領の支持率が40%ぐらいですよ。トランプ大統領時代は支持率が40%の時の中間選挙で41議席を減らしています。

ご指摘のとおり、下院を野党・共和党に譲ったことは、どう見ても勝ったわけではない。でも、たとえば、帰りが遅くなるとか、パーティーに着くのが遅くなるって、「30分くらい遅れそう」と言っておいて、10分遅れで着いたら「早いじゃん!」と喜ばれますよね?それと一緒なんです。

上院での与党・民主党「薄氷の勝利」が持つ三つの意義

パックン 一方、上院の多数派を維持した民主党としてはストレートに喜んでもいいと思いますよ。なぜこれが大事なのかというと、三つの意義があります。

まず上下両院で共和党が過半数になってしまったら、民主党に対する嫌がらせの法案がどんどん通るんですよ。そうすると、バイデン大統領が否決権を行使せざるを得なくなり、クレディビリティー(信頼性)を失っていく。

二つ目は、判事の承認。承認は上院の仕事なんですが、今回、共和党が上院で勝利していたら、バイデン大統領が指名する判事が一人も承認されないかもしれません。オバマ大統領の時代(2014年以降、共和党が上下両院で過半数)も徹底的に抵抗しました。その結果、共和党の大統領が誕生した時には空席が非常に多くて、それを埋めるために共和党側の判事を大勢承認して司法府に送り込んだため、判決が保守的になったんです。一番分かりやすいのは最高裁なんですけど、連邦裁も非常に大きな力を持っています。

三つ目の意義というのは、下院でバイデン大統領に対する捜査がこれから多数始まります。弾劾(だんがい)訴追は多分、決定まではしないと思うんですが、決定した場合は下院議員が検察のような役割、上院議員が裁判員の役割を果たすことになるんです。下院はおそらくバイデン大統領の次男のビジネスをめぐる疑惑などを取り上げると思いますが、何かの疑惑で弾劾しても、民主党が主導権を握る上院でそれをブロックするはずです。

ですから、下院の暴走をある程度、抑制することができるわけです。

下院の中でも、民主党との差が10議席弱しか変わらない場合、数人の共和党議員が嫌がったら立法できなくなるんですよ。中道派の選挙区から選ばれている下院議員は自分の再選も考えて極端すぎる法律には賛成しないから、より冷静な立法作業になる見込みがあります。

しかし逆に、極端な議員も協力しないと何もできなくなるので、共和党のマッカーシー院内総務(次期下院議長)はもしかしたら、その極端な議員の言いなりになってしまうんじゃないかという心配もあります。共和党が議席をもっと確保していたら、余裕のある采配ができたかもしれません。

トランプ氏再出馬の姿勢、選挙に与えた影響は?

中川 今回の選挙直前、トランプ氏が1115日に重大発言すると言ったことが、逆にトランプ氏を毛嫌いする特に民主党の若い世代、いわゆるZ世代の支持を掘り起こし、投票所に向かわせたとも言われます。だからトランプ氏がもし15日に重大発言というのを選挙前に言わなければ、もうちょっと違ったかもしれないとの見方もあります。

パックン 僕はそこまでトランプ氏の出馬宣言(予告)が影響を与えたとは思っていないですよ。

中川 また、バイデン大統領は、この選挙は、「民主主義が勝利するか」どうかの戦いだと打ち出していましたが、この作戦はどうだったのでしょうか?結構、Z世代に響きましたか。

パックン これは、大きかったですよ。民主党の善戦、共和党の苦戦につながったのは間違いないです。

最高裁の人工中絶判決を受けての国民的な反発も、人工中絶の権利を我々民主党が守るぞ、と大きな声で言ったのも、大きかったです。

もう一つは、ほとんどの選挙区に、前回の大統領選挙を認めない、いわゆる選挙否定派の候補が出ていて、全体では300人近くの候補がいたのですが、彼らが選挙前にも、大きな声で「前回の選挙はうそ。我々の選挙制度は崩壊している」と。今回の選挙でも、「負けを認めない」みたいなことを言う候補もいました。

アメリカ国民からすれば、「いやいや、ちょっと待ってよ。それは行き過ぎだぜ」と、保守的な人には、大きな反発を呼んだと思うんですよね。

だから中道派で、一部の共和党員も民主党に票を入れてくれたんです。いつもの中間選挙なら、野党(共和党)が多く投票に行って、現職大統領を評価するんですが、今回はトランプ氏本人とトランプ氏が推す極端すぎる否定派を評価することになりました。

トランプ氏は今も動いているし、2年後に復活する展開を恐れて民主党に入れた人が多いでしょう。その点は、中川さんのご指摘のとおりです。

中川 逆に言うと、せめてトランプ氏が選挙期間中だけでも、隠居生活をしていれば、批判はバイデン大統領に向かっていたかもしれないということですね。

パックン バイデン大統領にスポットを当てた方が共和党にとっては絶対いいですよ。バイデン大統領は、この間のカンボジアのASEANサミットで、カンボジアのことを「コロンビア」と2回も呼び間違えてるんですよ。高齢者がやりがちな可愛らしいミスですよね。

僕も、相方のマックンと、息子のライ君とをよく間違えるんですけど。そういうところにスポットを当てて「ぼけ老人説」を広めれば、共和党を支持する票がもっと増えたと思います。でも実際は、そこにスポットが行けないぐらい、トランプ氏が目立ってたんですよね。

オバマ氏は退任後は反トランプ運動とかにそんなに参加してなかったじゃないですか。それが基本ですよ。前大統領が目立つもんじゃないんです。

共和党、民主党の2024年大統領選の有力候補は?

中川 とにもかくにも、2年後の大統領選挙に向けて、共和党ではトランプ氏が先んじて、正式に立候補を表明しました。

今回の中間選挙では、フロリダ州のデサンティス知事が20ポイント近くの大差で再選され、共和党予備選でトランプ氏を脅かす候補として注目されています。

その他、ペンス前副大統領も立候補の可能性があります。

共和党のデサンティス・フロリダ州知事(左)とペンス前副大統領=朝日新聞社

パックン デサンティス氏は、トランプ氏への有力な対抗馬だと思います。

直近の公認賭け屋のオッズもデサンティス氏の方の倍率が低い、つまり本候補になる確率が高いと出ています。賭け事をしてる人は結構ガチですから、この結果は侮れませんね。

でも僕は今日、予備選があったとしたら、まだトランプ氏が勝つと思いますよ。

なぜなら、デサンティス氏はフロリダでの人気は証明しましたが、全国での人気は未知数です。大統領予備選のための選挙活動を始めると、あちこちの州に行って、いろんな人から突拍子もないことを聞かれたりします。そういう時に、とっさの返事ができるのか、どこかのダイナー(食堂)に入ってまずい料理を食べても笑顔を見せられるか、大統領になるための資質を厳しく見られます。

予備選は、北西部のアイオワ州と北東部ニューハンプシャー州から始まりますが、寒い冬に行われます。だから熱狂的なファンしか集会に来ないんです。

トランプ氏は全国区、集会には何万人も来ます。デサンティス氏はまだまだ地方区で集客力は未知数です。だからトランプ氏は、本選挙では弱いかもしれませんが、熱狂的なファンの力で予備選挙ではまだまだ強いと思います。

トランプ前大統領=朝日新聞社

彼の極端な手法でも、残念ながら今のアメリカの民主主義制度で最後まで残る傾向にあるんですよ。トランプ氏のメッセージは何も新しくないですよ、6年前は「Make America Great Again」(MAGA)。2年前は「Make America Great Again Again」(MAGAA)、今回は更にAgainです。

中川 そうか、だから「MAGAAA」ですね。

パックン 意味が分かんないです。最近「Make America Great and Glorious Again」と、単語を加えているけれど、何も変わっていません。同じメッセージで前回の大統領選挙に負けているんじゃないですか。それをもう1回打ち出して勝てると思うのはおかしいと思うんですけど、でも彼の支持者はそれでも集まる。彼の集会に入ろうと朝から晩まで並ぶのです。

トランプ前大統領の演説会場で並ぶ人たち=2022年11月5日、米ペンシルベニア州ラトローブ、朝日新聞社

共和党予備選でデサンティス氏がトランプ氏を破るシナリオ

中川 逆に、デサンティス氏が予備選に勝利するシナリオはどう描けますか。トランプ色はどのようにすれば排除できるのでしょうか。

パックン デサンティス氏が、予備選挙に勝つシナリオで一番分かりやすいのは、トランプ氏が、機密文書持ち出し疑惑の裁判で負けて、収監されることです。

そうなれば、物理的に選挙を戦えなくなります。でもあの裁判は時間がかかるし、実刑を伴う判決が出る可能性は低い。でも、裁判でこれから証言台に立って、黙秘権を繰り返し使ってしまったら、それもみっともない。もしくはうそをついたら、そこでまた偽証の罪にも問われます。

逆に、トランプ氏からすると、裁判はバイデン政権による司法省の政治的利用だと言って反発して、それを武器にまた自分の支持者を熱狂させることはできるかもしれません。

でも、共和党内の中道派の皆さんは、予備選に行って、もうさすがに犯罪者は立候補させてはならないとしてデサンティス氏に票を入れる可能性はあります。

二つ目のシナリオは、デサンスティス氏の選挙活動がうまいことが証明されることです。来年のこの時期から加速する予備選に向けての選挙運動で、全州あちこち回って集会の経験も積んで、トランプ氏のけなしもかわす技術もあることを見せつければストレートに勝てるかもしれない。

あとは、トランプ氏の更なる失態ですね。本選挙で民主党候補相手にトランプ氏が勝つ可能性は低いと僕は思いますので、予備選挙でなんとかデサンティス氏が勝つしか、共和党再生の道はないと思います。

民主党の2024年大統領選候補は誰?

支持者らに向け演説するバイデン米大統領=2022年11月10日、ワシントン、朝日新聞社

中川 バイデン大統領が、今回の中間選挙で信任されたと思ってこのまま突っ込んでいくと、本番の大統領選は厳しいんじゃないかと思います。

その場合、民主党の新たな候補はハリス副大統領、ブティジェッジ運輸長官、ミシガン州のホイットマー知事あたりでしょうか。

パックン バイデン大統領は、大統領として成績が悪くないですよ。銃規制法案、インフラ法案、経済対策法案を通して、環境対策も頑張っている。本当に僕も予想していなかったぐらいです。

でも、支持率が低いし、だったら次世代に譲るべきじゃないかという社説とか、アメリカのメディアではよく見ますし、民主党内からもそのような意見が多いです。

じゃあ、その候補は誰なのか?まあ、僕が誰になるか予測をするなら、中川さんのあげられた中で、ブティジェッジ運輸長官が1番、ハリス副大統領が2番、ホイットマー州知事が3番かなあ。ハリス副大統領は優秀なんですけど、人当たり方があまりうまくないんので、毛嫌いしている人が多いんです。 

民主党のバイデン元副大統領の応援演説に駆けつけたミシガン州のホイットマー知事=2020年3月9日、ミシガン州デトロイト、朝日新聞社

中川 集会では誰が一番強いと思いますか。

パックン ブティジェッジ氏ですね。彼は同性愛者であって、LGBTコミュニティーの間での人気は半端ないっていうのもあるんですよね。でも、現段階で、トランプ氏みたいに何万人が集まる集会は、無理です。

選挙集会で演説するブティジェッジ氏=2020年2月10日、ニューハンプシャー州ミルフォード、朝日新聞社

民主党では、オバマ元大統領、ヒラリー・クリントン元国務長官、左派のバーニー・サンダース氏とかはまだ集まると思うんですよ。

でも、僕の推しは、ミシガン州知事で女性のホイットマー氏ですね、今回、スイングステート(激戦州)での州知事選で勝ちましたし、それこそ中道的というか、冷静な、バランスの取れた政策が多くて、人当たりが良いんです。

バイデン大統領は、あまり早く出馬しないと言ってしまうと、レイムダックにもなるから、今は宣言しないのは正解だと思うんですけど、来年のこのあたりで、次世代に譲りますという可能性は十分あると思います。 

中川 今この時点で、バイデン対トランプという、2年前と同じ顔ぶれで、2年後の決戦になるっていう確率はどうですか?ズバリ、結構高いのではないでしょうか。

パックン トランプ氏が共和党の本候補になる確率はまだ6割、バイデンも6割だから、6割の6割は36%と僕は見ています 

中川 でもさすがにアメリカ国民も、2年前の再現は嫌うんじゃないですか。

パックン バイデン大統領にしてみれば、相手がトランプなら、2年前同様、俺が勝てるというのがアピールポイントでしょうね。あるいは義務感で出るかもしれません。共和党候補の行方が民主党にも大きく左右されそうですね。

(注)この対談は11月18日にオンラインで実施しました。中間選挙結果はできるだけ最新のものを記載しています。対談写真は岡田晃奈撮影。