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アメリカ中間選挙、共和党「勝利」ならウクライナ、ロシア政策に変化?専門家の分析

揺れる世界 日本の針路 更新日: 公開日:
中間選挙の投票所を訪れ、投票用紙に記入する有権者
中間選挙の投票所を訪れ、投票用紙に記入する有権者=11月8日、メリーランド州シルバースプリング、ランハム裕子撮影

アメリカの中間選挙が11月8日(現地時間)に投票され、開票作業も始まった。下院(定数435)の全議席と上院(定数100)の3分の1が改選の対象で、野党共和党は、物価高対策に苦しむバイデン政権への批判を強め、上下両院での過半数獲得をうかがう。4千万人を超える有権者が期日前投票に参加し、関心の高さをうかがわせる。中間選挙の結果はアメリカをどのように変化させるのか。アメリカのランド研究所のジェフリー・ホーナン上級政治研究員に聞いた。(牧野愛博)

――今回の中間選挙は、アメリカの内政にどのような影響を与えるでしょうか。

「私たちの生涯で最も重要な選挙だ」というのが、今のアメリカでの多数意見です。こうした意見は、過去の選挙の際によく見られましたが、今回の中間選挙では、この意見が本当にそうだと思う根拠がいくつもあります。

選挙前には、(今年6月、女性の人工妊娠中絶権を認めた1973年判決を破棄したことで、各州の権限に人工中絶の可否が委ねられた)妊娠中絶に関する最高裁判所の判決や、(ペロシ下院議長の自宅が今月、男に襲撃されてペロシ氏の夫が重傷を負うなどした)選ばれた公職者に対する政治的な暴力の脅威、(2021年1月、トランプ前大統領の落選に抗議した人々による)アメリカ連邦議会議事堂での暴動をめぐる調査など、争点となる大きな出来事がありました。

アメリカ連邦最高裁前に集まった人工中絶反対派や賛成派の人たち
アメリカ連邦最高裁前に集まった人工中絶反対派や賛成派の人たち=2021年12月、ワシントン、ランハム裕子撮影

また、州知事選や連邦議会選挙などで、(バイデン大統領の当選を認めない)立候補者たちが相次いだことは、多くの人々が投票する動機になっています。今回の中間選挙で誰が当選するかによって、それぞれの問題に影響を与えることになるでしょう。

中間選挙の投開票日の前日、選挙集会で演説するバイデン米大統領
中間選挙の投開票日の前日、選挙集会で演説するバイデン米大統領=11月7日、メリーランド州ブーイ、ランハム裕子撮影

中間選挙の結果がどうであれ、かなりの割合のアメリカ国民が怒り、潜在的におびえています。選挙が政治的な分裂を更に深め、反対派も同意できる穏健な中間政策を見いだすことが困難になるのではないかと懸念しています。

単に意見が一致しない人々を「敵」扱いする周囲の人々の会話を耳にすることは、アメリカ人として悲しいし、恐ろしいことです。この選挙は私たちを国家としてまとめることにはならないでしょう。

――中間選挙は、ロシアや中国などに対する米国外交にどのような影響を与えるでしょうか。

一般的に、アメリカには対中国政策についてのコンセンサスがあります。アメリカの対中政策が変わるとは思いません。

アメリカの対中政策はトランプ政権時代にますます厳しくなり、バイデン政権も継承しています。共和党主導の議会になってもアメリカの対中政策を柔軟にさせる可能性は低いです。

ウクライナに関して、共和党のマッカーシー下院院内総務は「ウクライナ支援を白紙小切手では出さない」と語りました。これは、アメリカがウクライナ支援を停止するという意味ではありません。戦争が長引けば長引くほど、アメリカ議会の承認による精査が必要になり、より多くの時間がかかるかもしれないということです。

一番、予測が難しいのが対ロシア政策です。共和党は伝統的にロシアに対して無条件に厳しい政策を取ってきましたが、トランプ政権はそのアプローチをひっくり返し、ロシアと公然と関与しているようにすら見えました。

トランプ前大統領(左)とフロリダ州で会談した共和党のマッカーシー下院院内総務
トランプ前大統領(左)とフロリダ州で会談した共和党のマッカーシー下院院内総務=マッカーシー氏のFacebookから

共和党にはトランプ政権のアプローチに賛成するメンバーもいますが、共和党全体の代表的なアプローチとまでは言えません。ただ、トランプ氏が次期大統領選への立候補を発表した場合、共和党主導の議会がロシアと対立しないアプローチをとったとしても、私は驚かないでしょう。

もしアメリカの世論がロシアにタカ派的な論調をとり続け、ロシアが(ウクライナ侵攻で)敗北の危機に瀕しているように見える場合には、共和党は原点に戻って、ロシアへの圧力を維持する可能性があります。

しかし、今の時点では予測できません。トランプ氏が大統領選への立候補を発表するかどうか、ロシアのプーチン大統領が敗北する可能性がどの程度あるように見えるかによって、大きく変わってくるでしょう。

ロシアのプーチン大統領=2022年5月16日、ロシア大統領府提供

――日米関係はどうなるでしょうか。

これは最も答えやすい質問です。日米関係はあまり変わらないと思うからです。アメリカの同盟国に対し、より多くを求めるアメリカ人は常にいますが、日本がインド太平洋地域とアメリカの戦略で果たす役割の重要性については、民主党と共和党双方にコンセンサスがあります。

中国が域内諸国や地域におけるアメリカの立場を脅かす挑発的な行動を続け、北朝鮮が近隣諸国に対する暴力行為を続ける限り、日本はアメリカにとって最も重要な国であり、アメリカは地域の同盟国に依存し続けるでしょう。

日米関係の大まかな輪郭は、中間選挙の影響を比較的受けないはずです。ただ、共和党が勢力を拡大させた場合に、日本により多くの要求をしても、私は驚きません。

――アメリカ国内にはなぜ、トランプ氏再選待望論が根強いのですが?

アメリカ市民の大多数は、トランプ氏がホワイトハウスに戻ることを望んでいるとは思いません。フロリダ州のデサンティス知事のように、トランプ氏に挑戦する共和党候補者の話もたくさんあります。

中間選挙の投開票日の前日、オハイオ州デイトンで演説するトランプ前大統領
中間選挙の投開票日の前日、オハイオ州デイトンで演説するトランプ前大統領=11月7日、柴田悠貴撮影

とはいえ、トランプ氏がコアグループの人々の間で人気があり続ける理由の一つは、多くの市民が自分たちの生活について感じる怒りに声を与えているからです。「トランプ氏だけが、私たちに害を及ぼす問題を解決できる」という信念が、トランプ氏を信じるコアグループにはあります。

トランプに挑戦しようとしている潜在的な共和党候補者たちが、予備選挙でトランプ氏に勝利するチャンスはあると思います。彼らも、市民の怒りに耳を傾けているし、トランプ氏が持っている「負の荷物(negative baggage)」を持っていないからです。