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国際会議か国会か?閣僚が国会日程に縛られないアメリカの三権分立と首脳外交【前編】

これだけは知っておこう世界のニュース 更新日: 公開日:

いま海外で起きていること、世界で話題になっていること。ビジネスパーソンとして知っておいた方がいいけれど、なかなか毎日ウォッチすることは難しい…。そんな世界のニュースを、コメディアンやコメンテーターなどマルチに活躍しているパトリック・ハーラン(パックン)さんと、元外交官(現在、三菱総合研究所主席研究員)の中川浩一さんが、「これだけは知っておこう」と厳選して対談形式でわかりやすくお伝えします。

最終回の前半は、閣僚が国会日程に拘束される日本と拘束されないアメリカの違いについて、また首脳外交の意義について話し合います。(以下、敬称略)

中川 20216月から始まったこの対談連載も区切りの20回目となり、今回が最終回となります。

私とパックンで目まぐるしく起こる世界の重要な出来事を、毎月、読者の皆さんに分かりやすく、かつオリジナリティーを出してお伝えしてきたつもりです。

最終回の今回は、前編は原点に返り、外交をいかに国民に伝えるか、そしてその仲介者たるメディアの役割について触れて、後編は、やはり今も世界を揺るがすロシアのウクライナ侵略について、今後の見通しを話したいと思います。

312両日にインドで主要20カ国・地域(G20)外相会合が開催されました。インドが今年はG20の議長国、そして日本はG7の議長国ということのみならず、インドが今や、「グローバルサウス」と呼ばれる新興国・途上国の代表的存在となる中で、日本にとっても非常に大切な国ですが、林外務大臣は、国会の参議院予算委員会に出席しなければならないという理由で欠席を余儀なくされました。

参院予算委員会で答弁する林芳正外相=2023年3月6日、国会内、朝日新聞社
参院予算委員会で答弁する林芳正外相=2023年3月6日、国会内、朝日新聞社

衆参予算委員会の特に初日、2日目は、全閣僚の出席が基本ルールです。

だから、外務大臣も当然、国会に出なきゃいけないということでG20を欠席したわけです。

これまでも外務大臣が国会日程の優先を理由に重要な国際会議に出られなかったことは結構あったんですが、今回は、日本のメディアでもかなり、この欠席を問題視する報道が出ました。G20外相会合に日本の外務大臣が欠席するのは2017年に外相会合が定例化してから初めてだったので、確かにインパクトはあるのですが、私は、少し違う見方をしています。

2年前なら、外相がG20を欠席することが、そこまで大きな関心を呼ばなかったのではないでしょうか。裏返せば、昨年からのロシアのウクライナ侵略もあり、それだけ世の中の国際情勢、外交への関心が日本国内でも高まっている証左とも言えると思います。

G20外相会合で演説するインドのモディ首相=2023年3月1日、ロイター
G20外相会合で演説するインドのモディ首相=2023年3月1日、ロイター

そもそも外務大臣は外交するのが仕事なのに、国内に縛られるはどうなのか。もちろん、国民に日本の外交を説明するのも大事で、そのバランスをどう取るかという議論がずっとある中で、今回、こういう事態が起こりました。

日本の国会も今、大きく変わろうとしている国際秩序に敏感になり、柔軟であってほしいですね。パックン、アメリカはブリンケン国務長官も、議会にも出ますが、一方で、相当自由に外遊している気もします。どうでしょうか。

パックン これには、日本とアメリカの閣僚の本質的な違いを意識しないといけません。日本の閣僚は、ほとんどが国会議員です。首相も国会議員から選ばれます。その首相が内閣の閣僚を決めるということで、権限自体は衆院議員にあるんですよ。衆院議員の下の行政府と考えてもいい。だって、不信任案を可決させれば、衆院議員の力で総理や大臣を変えることができるわけです。

これはアメリカではまったくあり得ません。直接選挙とも言いづらい変な選挙制度になっているんですが、一応、「国民が選んだ大統領」であり、その大統領が選んだ閣僚はアメリカの議会の言うことを聞く必要がないんです。

そして、アメリカの閣僚は連邦議会議員(国会議員)との兼職はできないんです。内閣に入るなら、議員をまず引退しなければなりません。

アメリカの議会は聴聞会などに閣僚を召喚することはできますが、それでも閣僚は、スケジュールが合った時に出席します。法律で出席が義務づけられた会議はないんです。

中川 アメリカで国会議員と閣僚の兼務ができないのはなぜなんでしょうか。

パックン 行政、立法、司法の三権分立が基本なので、兼職するなら三権が分立していることにならないからです。例えるなら、トヨタの正社員がホンダでも正社員として働くことになっちゃうんですよ。外務大臣に議員の仕事する時間があるのか?という疑問もあります。

財務大臣は基本的に議員ではなく、経済の専門家です。オバマ政権時代は、エネルギー長官にノーベル物理学賞を受賞した科学者を起用した例もあります。素人を起用するというのも正直、不思議なんですけど、例えば、バイデン政権で運輸長官であるブティジェッジ氏。彼は元市長であって、別に交通が専門ではありません。だから100%とは言えないけれど、その業界にたけている人を選ぶのがアメリカのシステムです。

一方で、大統領や国務大臣が、会議の主催国への抵抗を表す政治的意図のため、あるいは自分が関わる選挙活動のために国際会議を欠席することはよくあります。だから今回みたいに、国内の議会にまるまる出席しなきゃいけないから国際会議に行けないということは、アメリカでは聞かないですね。

一方で、日本については、G20外相会合において、もっと率先して国際会議に参加して、日本のリーダーシップを発揮してほしいなあと思います。非戦大国として、またG7に唯一入っている西洋ではない独特の立場を生かして、日本は、グローバルサウス、あるいは有色人種の各国と先進国とのパイプ役をもっと果たすべきだと思います。とはいえ、今回のG20はあまりまとまらなかったですよね。

中川 橋渡しの役割は簡単ではないですね。今回のG20外相会合も、結局、共同声明の採択は見送りになりました。グローバルサウスのリーダーを狙うインドをもってしても、採択できませんでした。逆に言うと、欧米諸国からは、権威主義的になっているインドに欧米側の警戒感が少し出てきているとも言えます。

パックン 今回の声明が採択できなかったのは、欧米側ではなくて、ロシアと中国の反対があったからですが、確かに、ウクライナに侵攻したロシアの制裁回避にインドが協力していることを牽制したい欧米の国は多いと思います。

欧米諸国としては、ウクライナ戦争の終結のためには、やはり経済制裁が大事な手段ですが、それをインドや中国の協力でロシアが抜け穴を作ってしまっている。

IMF(国際通貨基金)の今年のGDP成長率の予測を見ると、成長率はイギリスよりロシアの方が上だったりするわけです。ロシアに制裁がきいていない、それはインドのせいだと怒っている国も欧米にはあります。

でも共同声明の採択に反対したのは中国とロシアで、反対した文章もたいしたことはないんです。「ウクライナ戦争が多くの人に苦しみを与えている」、「世界経済にも大きなダメージがある」とか、「国際法の維持」、「核兵器の使用もしくは核兵器による威嚇はあってはいけない」というような、誰だって同意しそうな文章なんです。そんな声明でも合意できなかったことが、多国間主義が大きく揺らいでいる時代の象徴だと思います。

中川 外交とメディアの関係で、もう一つは、首脳外交のあり方です。

先月(2月)、象徴的だったのは、バイデン大統領がウクライナに電撃訪問したことです。政府内の調整、メディアとの関係などをどううまくさばいたのか気になりますね。

(注・岸田文雄首相は外遊先のインドから、321日にウクライナの首都キーウを訪問)

ウクライナの首都キーウ近郊ブチャで集団墓地が見つかった教会を訪れた岸田首相=2023年3月21日、朝日新聞社
ウクライナの首都キーウ近郊ブチャで集団墓地が見つかった教会を訪れた岸田首相=2023年3月21日、朝日新聞社

パックン バイデン大統領は、ウクライナの隣国のポーランドに行くことは発表されていました。その時点で、半日だけ、日帰りでウクライナに行くのではとの臆測は呼んでいました。アメリカの報道陣の目をくぐり抜けるには、24時間、まるまる違う予定を入れればいいだけの話です。先方の政府にも協力いただき、「今日は一日、ゴルフ大会です」とか言って、向こうのスケジュールもそう書いてもらうとか、やろうと思えば、何とかなると思うんですよ。そこまでするか、後は意思の問題かもしれません。これに対して、アメリカのメディアが黙って行ったからとして目くじらを立てることはありません。

中川 バイデン大統領のウクライナ訪問には、それが電撃であったとしても、治安上のリスクはもちろんあったと思います。これは、バイデン大統領本人のウクライナへの揺るぎない支援継続の意思とみるべきでしょうか。

パックン そうだと思いますし、僕は治安上のリスクを取ってでも訪問を決行したバイデン大統領の勇気は称されるべきと思います。アメリカの大統領が、アメリカ軍が駐屯していない国を訪問したのは史上初めてだといいます。この訪問はアメリカ国民にも評価されたと思います。でもだからと言って、ウクライナ戦争の大勢が変わるわけではありません。それでもアメリカの意思をウクライナ国民に伝える効果は十分あったのではないでしょうか。

中川 外交と民主主義の関係ってかなり奥深いテーマですが、ちょうど今月、二つの論点が出てきたので、今回、触れました。この対談の目的の一つでもあり、私が願っていることは、日本人にもっと国際関係に関心を持ってもらいたいということ。国民の目線があって、国民の民意を持って、日本の外交を動かせるようになってほしい、そしてその間に入るべきメディアの方も、時代を先取りするぐらいに、新たな視点を国民に提供してほしいということです。微力ではありますが、私もパックンもまた新たな機会で、この役目を果たしていけたらと思います。

 (注)この対談は38日にオンラインで実施しました。対談写真は岡田晃奈撮影。