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安倍晋三元首相の国葬めぐる議論、そもそも国葬は何のためにあるのか?【前編】

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中川 今回の対談の前編では、927日にある安倍晋三元首相の国葬について取り上げます。今、世の中では是非をめぐって議論が盛り上がっていますね。

パックン 過熱していますね。

中川 私は第1次安倍政権時の2007年にアラビア語の首相通訳も務めていて、安倍さんの通訳も何度もやりました。ですから、個人的に思い入れがありますし、外交官として一緒にやってきたという思いがあります。

そんな中で、今の国内の国葬をめぐる議論が、若干違うんじゃないかなと思っています。自民党と旧統一教会との関係はもちろん、ちゃんと国民が納得する形にしなきゃいけない。

それはそうなんですが、そもそもシンプルに考えると、国葬は日本の元首相をしのびましょう、ということですよね。

私の専門は中東ですが、最近でいえば今年5月に、アラブ首長国連邦(UAE)のハリファ大統領が74歳で亡くなりました。当然、国を挙げた葬式です。国王や大統領の葬儀は国が行うという、きわめてシンプルなことを外国でもやっています。

アメリカはハリファ大統領の国葬にハリス副大統領を派遣し、ブリンケン国務長官も含め多数の閣僚が参列しました。フランスもマクロン大統領、イギリスからは当時のジョンソン首相が参列しました。各国は対応が素早いです。

日本は残念ながら首相も外務大臣も行かず、総理特使として甘利明・日本・UAE友好議連名誉会長とアラブ通の小池百合子都知事が参列しました。UAEは日本の原油輸入先2位の国ですよ。こうした対応は、日本が「弔問外交が下手」と言われるゆえんです。

パックン 主要国と日本の対応が釣り合っていないところはありますね。

中川 国葬って、参列することも大事ですが、その国にどういうメッセージを送れるのかということも大事です。日本は民主主義国家です。今回の安倍元首相の国葬でいえば、国民が間接的にでも選んだ首相に対して、堂々と国葬ができないのは恥ずかしいとさえ思うんです。もっとシンプルにやればいいと思います。

ロシアのウクライナ侵攻や米中対立があって、周りが激動の中で、安倍さんが亡くなった。これから日本が国際社会でどう生きていくのかを考えて、弔問外交を展開しなきゃいけないし、安倍さんが実践した「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」をしなくちゃいけないと思います。 

安倍さんは、歴代最長の通算88カ月の在任期間というだけでなく、外交も2013年の第2次政権発足以降で、80の国と地域を訪問し、世界を約40もしたんです。この機会に、安倍さんが何をしたか皆さんに知ってほしいと思います。

今、日本は中東に石油を92%史上最高に頼っているんですよね。安倍さんは日本のエネルギー確保にものすごくパワーを費やされました。

中東の湾岸協力会議(GCC)の6カ国を含めて、全部行ったんですよ。サウジ、UAE、クウェート、カタール。これらの国は日本が原油を頼っている1~4位です。さらにバーレーンやオマーンまで。そんな首相、今までいませんでした。

日本に今、中東から原油がちゃんと入ってきているというのも、そういう外交があるからです。そこをしっかりやっておられたということは記録しておきたいなと思います。

特に、安倍さんは2年前の2020年1月、トランプ政権がイランのイスラム革命防衛隊のソレイマニ司令官を暗殺した事件の約10日後にサウジとUAEとオマーンに行く予定だったんです。

その時、私はオマーンの日本大使館で、安倍さんの受け入れ準備をしていました。アメリカとイランの緊張が高まっている時に行ったら危ないのではと、補佐官たちは中東行きをやめるよう進言したようですが、安倍さん自身が行くと決められたようです。

そして、それが最後の外遊になったのではと思います。コロナ禍になり、外国は行かれていないはずですから。

政府専用機でオマーンのマスカット国際空港を出発する安倍晋三首相(中央左)と妻の昭恵氏(同右)=2020年1月14日、朝日新聞社

もう一つ、安倍さんの強みがあります。第1次安倍政権の2007年に安倍さんが最初にワシントンでブッシュ大統領(当時)と首脳会談をして、そこで中東情勢を話して、それを中東5カ国で披露したんです。

パックン どういう意味ですか?

中川 ワシントンでの日米首脳会談で中東情勢を話して、そのネタを持ってサウジアラビアを皮切りに中東5カ国を回って、「ブッシュ大統領はこう言ってたよ」っていうことを中東の首脳に言うんです。とても説得力がある。私はその時の首相通訳をやっていたので実感があるんです。安倍外交はすごく戦略的でした。

あと、もう一つはTICAD(アフリカ開発会議)です。

パックン 横浜で開いていた会議ですね。

中川 中東もそうですが、アフリカも普段は日本でほとんど関心を持たれません。でも、3年に1度、大きなイベントがあった、それがTICADなんです。8月にチュニジアで第8TICADが開催されましたが、もともとは5年に1回だったのを安倍さんが、アフリカもっとやらなきゃと言って間隔を縮めたんです。

2016年にはケニアで、2019年には横浜で開催しました。アフリカって五十数カ国もあるんですが、そこを日本外交の柱に組み込むという壮大なビジョンを安倍さんは描いていましたね。

今、国連が安保理常任理事国ロシアによるウクライナ侵攻で機能しなくなっています。日本に今、必要なのは、いかに多くの国々を味方に付けるかということなんです。ちょっとえげつないけれど、「国連で何票取れるか」ということなんです。国連は大国も小国も同じ1票を持っています。

パックン 捕鯨もそうですし、海洋法もそうですし、いろんなところに日本は味方を増やせば、国際会議に強くなりますね。

中川 今、世界は「民主主義」対「権威主義」で陣営が分かれている。日本が立ちまわる上で、すべての国が大事なわけです。それがまさに今回の国葬での弔問外交で、外国の賓客を大事にしなければならない理由です。

ですから、もう一度そういう原点に戻って、国葬の議論をしていただきたいと思います。パックンにも、安倍さんへの評価と日本が国際社会でどう生きるべきなのか聞きたいです。

パックン ご存じの通り、僕にとって史上初の(ネット上での)「炎上事件」が起きましたので、まず立場をはっきりさせていただきます。僕は安倍さんの国葬、やってもやらなくても構いません。それを決めるのは日本国民です。僕は安倍さんと会ったことはあるんですが、付き合ってもいないし、政治理念も違います。 

中川 政治理念も?

パックン 違います。僕はとりわけ安倍さんの支持者ではないです。でも(出演したテレビの)番組で話した「憲政史上最長の政権をなした総理大臣が暗殺された後に国葬をやらないんだったら、いつ誰のためにやるのか」という質問を、「絶対やれよ」という「激推し」としてとらえられてしまったんですよ。

僕は素直な質問として話したんです。「国葬は何のためにあるのか?」 僕の感覚で言うと、その国に長く大きな形で貢献した人をしのぶというものだと思っていますが、今、中川さんがおっしゃった内容もその通り。

例えば、外国の首脳の皆さんが、お参りしたい、手を合わせに行きたい、という場合、個人葬や自民党が行ったお葬式ではなく、正式ルートである外交ルートで来日できるような場を提供するのが、国葬かなと思うんですよ。

退任してから何十年もたって亡くなられた元総理とはちょっと違う立場ですよね。一番長い政権で、80以上もの国を周っている総理大臣ですから、その外交、外国とのつながりが一番強かったし、多かった。数も、質も、上だったと思うんです。

ですから、そういう外交イベントで「弔問外交」っていう響きはあまりよくないんですけれど、世界につながる日本のシンボルの一人が突然、暗殺された場合、外国の皆さんと、日本のその関係を表す形で国葬をやるのも、まあ、割と普通の考え方かなと思うんです。

でも、やるかどうかは国民の価値観を尺度にして測るしかないです、僕の感覚ではなく。

中川 パックンはアメリカ人だから。

安倍晋三元首相の家族葬に参列した儀仗(ぎじょう)隊=2022年7月12日、東京都港区の増上寺、朝日新聞社

パックン はい。でも多分、大統領や総理大臣が70年ぶりの長期政権をなした後、選挙中に暗殺された場合は、世界のほとんどの国の基準では国葬にあたると思うんです。アメリカの国葬は、種類によって、それよりもずっと基準が低いです。

中川 あとは税金からどれだけ費用を出すかでしょう?シンプルに考えれば、それをしっかり法律で決めればいいんです。

パックン アメリカのシステムがいいかもしれません。「准国葬」のようなものがあります。

例えば、最高裁判事の葬式は基本そうです。3月にもやったばっかりですが、その時は史上最長任期を誇る共和党下院議員だったんです。その人が亡くなった後、首都ワシントンの国会議事堂内のロタンダっていう円形のロビーのような、みんなが必ず通るところでお通夜を営むイメージです。棺の中で眠っていただき、会いたい方が顔を見に来られます。それを「ライ・イン・ステート(lie in state)」というんですが、そういう形で死を悼んだわけです。 

中川 例えばコリン・パウエル元国務長官はとても有名な人ですが、昨年10月に亡くなった際も、アメリカは公金で葬儀を挙げたわけでしょう?

パックン もちろんできたはずですが、パウエルさんの場合は、遺族の意思に従い、国葬をしませんでした。

でも、公金のかけ方は様々あるんですよ。今の例は一番シンプルなものです。ロタンダは政府が管理している建物ですから。といっても、棺の移送や警備にお金はかかりますよ。小規模なものも、元大統領の大規模なものも公金で行います。外国からVIPたちも呼びます。さらに葬列も行うなら、車両代とか全部お金がかかります。

だからアメリカの場合、大小さまざまな「国葬」があるわけですね。

首都ワシントンのワシントン大聖堂で行われたコリン・パウエル元国務長官の葬儀には、バイデン大統領(写真中央)やオバマ元大統領らも参列した=2021年11月5日、ロイター

日本もそういうやり方でもいいかもしれないですね。だから言い方が悪いかもしれませんが、「マイナーな総理」も、どこかで最後のお別れができるチャンスを作って、会いたい方はどうぞ会いにいらっしゃい、という形でもいいかもしれませんね。

中川 私はむしろ、日本はこれまでいろんな葬儀の形がありすぎたんじゃないかと思うんです。今回のことを、基準を作るきっかけにしてほしいですね。それこそメジャーかマイナーな総理って、判断が難しいですよね。

パックン 僕も今回、いつ、誰のために国葬をあげるのかという基準を知りたいです。ぜひ作ってほしいです。そのプロセスも、現在の内閣決議だけじゃ足りないという議論があってもいいかもしれない。

法律を作ればいいじゃないかと思います。個人のために公金をかける場合は、アメリカも議員で決めるんですが、日本も両院全員の採決で50%60%とか、65%の賛成などと高いハードルを別に定めていただいてもいいかもしれません。

そうしないと、一党独裁とまで言わないけれど、基本的に一党政権を何十年も続けている自民党が圧倒的に有利であって、野党の人は、一人も国葬をあげてもらえないかもしれない。それはぜひルールとして議論して決めていただきたい。

会見で安倍晋三元首相の国葬などについて説明する岸田文雄首相=2022年8月31日、首相官邸、朝日新聞社

中川 今回もし、国葬ではなくて、自民党が主催する葬儀、あるいは自民党と内閣の合同葬だったら、元総理ではなく、元自民党総裁としての安倍さんにお悔やみをいうことになってしまうじゃないですか。

パックン  例えば現役じゃなければ国葬にしない、というルールがあってもいい。

中川 それも一つのやり方だと思います。

パックン もちろん。基準は構いません。とりあえず作っていただいて、教えていただきたいです。 

中川 それはその通りですし、明確なルールと明確な決定プロセスがないから、みんな納得できないんですよね。そこに内政の旧統一教会の問題が根深く絡んでくる。

繰り返しますけど、民主主義である日本、その日本国民が選挙で間接的であれ選んだ首相を、なぜ、もっとシンプルに国葬で追悼できないのか、むしろ行えない日本国民は恥ずかしいとさえ私は思います。 

パックン 「教団とのつながりが発覚した場合は国葬にしません」というルールでもいいですよ。森友学園問題とか「桜を見る会」問題みたいな疑惑が払拭できていないうちは国葬にしません、というルールがあってもいいと思いますよ。そういうことも含めて、総論で進めていただきたい。

中川 それは私も同感です。 

パックン 各論も場合によっては大事なんですよ。今回やるかどうかは別に決めていいんですよ。でも次回、こんなにもめないようにルール作りを優先するのが大事です。各論から総論へ、いつか転じていただきたいなと願っています。

中川 このコラムの趣旨に戻ると、パックンは安倍元首相が日米関係にもたらしたものを、どう評価しますか?

パックン まず長期政権ができたことは、評価していいかなと思います。よく外交官の友達から聞くのは、日本は首相が毎年代わると幹部外交官も代わるし、コロコロ代わってると人間関係ができない。

外交は人間同士が付き合ってできていることなので、国際関係が人間関係の「上」にできていると考えれば、ちゃんと絆が作れるほどの期間は欲しい、ということ。

僕は、安倍さんとは政治理念が違います。集団的自衛権とか特定秘密保護法とかもそうなんですけど、国民感情がそろっていない、説明が足りないまま、いろんなところでちょっと「ゴリ押し」している場面があったと思うんですよ。説得不足の面もあったと思いますし。全部賛成できるわけではない。

でも、日米関係を大事にすると言って、オバマ大統領を広島に連れて来た。アメリカ両院で英語で演説を行った。ヨーロッパではイギリス、アジアでは日本という、アメリカにとって1位と2位の同盟関係の再確認は、合計8年でうまくできたなと思うんですよ。その辺は、評価すべきだと思う。

安倍さん以前の時代、日本は外交においてちょっとフラフラしているように見えた。安倍さんが世界各国に周ってTICADなどの国際会議にしっかり参加して、南太平洋の国々と関係を強化した。日本の国際の舞台でのプレゼンスを高めた点も評価すべきだと思います。

一方で、外交において僕から見れば「汚点」とまでいかなくても、失敗の例もあると思います。例えば彼は、プーチン大統領が2014年にクリミア併合した翌年にプーチン氏を日本に招こうとし(実際の来日は2016年12月)、国際社会への復帰を加速させました。

共同記者会見を終えて握手するロシアのプーチン大統領(左)と安倍晋三首相(当時)=2016年12月16日、首相公邸、朝日新聞社

日韓の関係を冷え込ませたことも国益に反すると思うんです。その間の貿易だけで損失額は半端ないはずですよ。国民の感情を反韓・反中の方にあおることも非常に多かった。それもまた外交の障害物を増やしていると思います。

ものによっては、政局中心の外交で、国益中心の外交じゃないなと思ったんです。批判するところもいっぱいあります。

中川 でも逆にインドのモディ首相と非常に強固な関係を築いたりしましたね。

パックン 前から言っているんですが、インドのモディ首相も反民主主義的な色が濃くなっています。それも忘れないでいきたいですが、QUAD(クアッド、日米豪印4カ国の協力枠組み)に引き付けるとか、そういう外交策は大賛成で、みんなと政治理念が合わなくても仲良くできるっていうのはすごく大事です。

でも、そこで例えば反インド感情をあおったら、どう感じましたかっていうことですよね。だから「親韓」にならなくともいいから同じぐらい韓国・中国のリーダーと仲良く話せるようになっていただきたかったです。 

中川 安倍さんが首相時代に外務大臣を務めていた岸田首相が、安倍さんの国葬でどういう弔問外交を繰り広げることができるのか、そして、その後、近隣国との関係も含め、日本が国際社会でどう生きていくのか、今が日本の正念場です。岸田首相には信念を持った外交をしていただきたいですね。

(注)この対談は9月7日に実施しました。対談写真は岡田晃奈撮影。