こんなことが日本で起きるとは信じられません。街頭演説中だった安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件は、アメリカでも大きく報道されました。
日本のメディアでは「銃で撃たれて殺害された事件」と表現されているのが多い一方、アメリカのメディアでは、「Homemade gun used in assassination of Shinzo Abe (自作の銃で安倍晋三が暗殺される)」といったように、Assassination(暗殺)という単語が多く使われています。
日本でもケネディ大統領、キング牧師、マルコムXなどの外国要人の殺害には「暗殺」と表現されてきたようですが、安倍元首相に関しては、今のところ「撃たれて死亡」という表現が多く目に入ります。
ご存じの通り、アメリカでは各地で銃撃事件が相次いでおり、凶器が「銃」というのはインパクトが低いのに対して、銃事件が極端に少ない日本社会では、犯行の手段もまた衝撃的だったからなのかもしれません。また、比較的早い段階で、政治信条以外の動機で凶行に及んだことが判明したのも、暗殺という表現を避けた要因かもしれません。
今回の事件はアメリカでも「日本は安全な国なのに」という大きな驚きをもって報道されています。
幼稚園児や保育園児くらいの小さな子供が一人で行くおつかいの冒険を描いた、日本テレビの人気番組「はじめてのおつかい」は、ネットフリックスを通じてアメリカでも配信されており、話題になりました。
アメリカで、幼い子供の付き添いなしの外歩きはまずありえませんし、家に一人で置いておくのにしても、ほとんどの地域で違法となります。子育てのスタイルの違いと共に、日本の治安の良さ、そして発砲事件が極めてまれな日米の違いを説明している記事もありました。
アメリカに生活の拠点を移して10年以上経ちますが、外から見るがゆえに日本について誇りに思うことはいろいろあります。食べ物がおいしいことや公共機関が充実していることなどの中でもトップは、銃事件がないこと。
それなのに、こんなカタチで起こってしまった。
元首相が殺されるという衝撃に、銃が使われたことでさらに恐怖感が加わりました。「わたしの大好きな日本が、アメリカのような銃撃事件が多発する国へと変貌してしまったらどうしよう。これが、終わりの始まりだったらどうしよう」という恐怖です。
でもこれは少し大げさに考えすぎと思われるかもしれません。アメリカと日本では比較の対象にもなりえません。2021年の日本での発砲事件での死者数は1人なのに対し、アメリカでは、死者4万5000人(そのうち銃による自殺者は2万3000人)を超えています。
そして、日本ではいかに一般人が銃を入手するのが困難か、ゆえに、銃による事件が少ないか、という背景も改めてアメリカで報道されているところです。
しかし、日常的に銃がらみの心的ストレスにさらされていると、どうしても過剰に反応してしまうところがあります。
今年になってからすでに320件以上の銃乱射事件が発生しており、どの事件が報道するに値するか、アメリカのメディアが苦渋の決断を迫られているほどです。
そして、事件としてカウントすらされず、されども直接的に影響を受けてストレスなのが、子供が通う学校から、銃撃予告があったと通知がくることです。
先日も子供の学校のトイレに、「shoot up on 5/18 (5月18日に撃ちまくる)」などの犯罪予告が書かれていたと連絡がありました。
たとえ、それが現実味のある脅迫でなかったとしても、その日は街の警察が学校に待機し、荷物を調べたり、不審物、不審者がいないかパトロールを続けたりします。
子供たちは、幼稚園の頃から侵入者から身を守るために教室を施錠(ロックダウン)したり、教室内にバリケードを築いたりする訓練を定期的に行っています。
わたしの子供が小学生のときには、訓練ではなく、実際に学校でロックダウンしたこともありました。隣接している中学に通い家族が銃を保有している男子が、「学校で銃をぶっ放してやる」とソーシャルメディアに投稿し、友達や家族に予告したからです。
こういったことは日常的にいたるところで起こっており、逐一事件として報道されることはありません。
中学生の多感な時期の娘とは朝から言い争いも絶えません。なかなか起きてこない、メイクとヘアにかける時間が長い(素顔の方がかわいいのに…)、朝ご飯を食べるのが遅い、なのにずっとスマホを見ていて準備が進まない、お弁当箱を前夜に出さないから洗ってない――。学校のある日の朝はバタバタです。
ですが、どれだけ言い争っても、出かける前にはぎゅっとハグして別れます。今日も交通事故に遭いませんように、と同じくらいの気持ちで、銃事件に巻き込まれませんように、元気に帰ってきますように、と祈る気持ちで別れます。
今年5月にテキサスの小学校で子供19人を含む21人が殺された銃乱射事件では、11歳の女子生徒が、犯人が教室に戻ってくるかもしれない恐怖の中で、撃たれた同級生の血を自分の体に塗り、死んだふりをして助けを待ちました。とても心が痛みます。
日本は銃事件が非常に少ない安全な国。世界で最も安心、安全を誇れる国でいて欲しいと切に願っています。