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「撃った子も被害者」子どもが子どもに撃たれるアメリカ、問題視すべきこと

ホワイトハウスへ猛ダッシュ
医療施設でのリハビリの合間に、休憩するため近くのコーヒーショップへ向かうマイオナちゃん(左)と母親のヒントンさん
医療施設でのリハビリの合間に、休憩するため近くのコーヒーショップへ向かうマイオナちゃん(左)と母親のヒントンさん=メリーランド州ボルチモア、ランハム裕子撮影、2022年3月3日

【前の記事を読む】本物の銃をおもちゃと思い……4歳が7歳に撃たれたアメリカの事件、家族のその後

■「親戚の男の子に撃たれた」という事実

まだ4歳だったマイオナ・ヒントンちゃんが明白に理解していたことが一つあった。「親戚の男の子が私を撃った」ということだ。

ヒントンさんがいくら「彼はわざとあなたを撃った訳じゃない」、「あなたが歩けなくなったのは彼のせいではない」と説明しても、マイオナちゃんの頭の中には、誰が自分を撃ったかということと、そのせいで自分が歩けなくなったという事実だけが強烈に残っていた。

ヒントンさんの親戚によれば、この7歳の男の子は事件の夜、「自分がマイオナを殺してしまったの?」と繰り返し、眠ることができなかったという。親戚は、「この子は悪くない。彼を責めないでくれ」と周囲に説得するよう努めた。

医療施設でのリハビリの合間に、近くのコーヒーショップで休憩するマイオナ・ヒントンちゃん
自宅から車で1時間ほどのところにある医療施設でのリハビリの合間に、近くのコーヒーショップで休憩するマイオナ・ヒントンちゃん=メリーランド州ボルチモア、ランハム裕子撮影、2022年3月3日

きょうだいのように仲良しだった男の子とマイオナちゃんの関係は、事件をきっかけに壊れた。活発でいつも飛び跳ねていたマイオナちゃんは、自分の体が思うように動かなくなったことに苛立ちを募らせる。そのたびに、「彼が私を撃った」という事実が押し寄せる。ある日、リハビリで疲れ機嫌を損ねたマイオナちゃんが言い放った。「撃たれて歩けなくなったのが私じゃなくて彼だったらよかったのに」……ヒントンさんは打ちひしがれる思いを抑えながら、「そんなことを言ってはいけない。彼はあなたをわざと撃ったのではないのだから」と優しく返した。

「いつかわかってくれる日が来る。もう少し大人になったらきっと理解してくれるはず」

■現場のカメラに映っていたのは

事件から約3ヶ月後、当時23歳の黒人男性ジュワン・フォード容疑者(現服役囚)が逮捕された。男の子に銃を見せようと誘った兄弟の母親の交際相手だ。ワシントンの首都警察は現場となったアパートの防犯カメラの映像を入手した。

警察の書類と裁判記録によれば、ヒントンさんの親戚の男の子が発砲した直後、一緒にいた友達の一人が外に留めてあった車の中で話をするフォード服役囚の元に駆けつけたが、同服役囚はその場を動かなかった。誤って発砲した男の子ともう一人の友達も助けを求めた。

そこで初めて慌ててアパートに駆け込んだフォード服役囚は、血だらけで床に倒れているマイオナちゃんを発見する。だが、助けようとせず、真っ先に自分の銃を探した。見つけた銃を黒いTシャツにくるんで抱え、救急車を呼ばずに、その場を立ち去った。ヒントンさんがマイオナちゃんの元に駆けつけたのはこの直後だった。フォード服役囚は銃を不法に入手し、登録もしていなかった。その後、この銃は見つかっていない。

バージニア州の銃専門店に並べられたピストル
バージニア州の銃専門店に並べられたピストル=バージニア州ロアノーク、ランハム裕子撮影、2020年4月17日

フォード服役囚は司法取引に応じ、「免許なしで不法に入手した銃器を所持していた」罪と「証拠改ざんを試みた」罪の有罪を認めた。しかし、「child endangerment(子供を生死に関わる危険にさらした)」という罪は含まれていなかった。

■銃撃を恐れ外で遊べない子供たち

事件から一年がたった2021年5月25日、フォード服役囚の裁判が行われるワシントンの法廷で、ヒントンさんは電話越しに裁判官に訴えた。

「私はこの子が生まれた瞬間から大切に育ててきた。小さな娘には命が溢れ輝いていた。4歳の子供に、どうすれば『あなたはもう歩くことができない』と説明できるのか?事件のことを考えるたびに、まるでたった今起きた出来事のように感じる。(フォード服役囚は)どうすればそこまで薄情でいられたのだろうか?あなたは血を流して横たわる私の娘を置き去りにした。彼女の人生はすっかり変わってしまった」

マイオナちゃんが撃たれる以前、母親のヒントンさんが撮った写真
マイオナちゃんが撃たれる以前、母親のヒントンさんが撮った写真(ヒントンさん提供)

子供による発砲や銃撃が連続する状況について、ヒントンさんは続けた。「最近頻繁に起こっているこのような事件を止めなければいけない。子供が撃たれることを恐れて自由に遊べないとは、なんて悲しいことか。多くの人は自分の子供が撃たれるまで無関心だ。大人の無謀な振る舞いによってこのような体になった娘を見るたびに私の心が痛む」

ヒントンさんは、マイオナちゃんの事件が起きる前も、子供による発砲や銃撃のニュースを見るたびに悲しく思い、涙を流したこともあった。「でもまさか自分の娘にこのようなことが起きるなんて想像もつかなかった」

「フォード服役囚の行動は、私の娘の命をまるで何でもないかのように置き去りにしたこと以上に罪深い。これは子供たちに対する暴力だからだ」。ヒントンさんは続けた。

コーヒーショップで休憩するマイオナ・ヒントンちゃん
自宅から車で1時間ほどのところにある医療施設でのリハビリの日、近くのコーヒーショップで休憩するマイオナ・ヒントンちゃん=メリーランド州ボルチモア、ランハム裕子撮影、2022年3月3日

この裁判を担当したエマ・マッカーサー検察官は、この事件の重大性について法廷で述べた。「この事件の被害者はあの現場に居合わせた子供たち全員だ。銃が本物であることを知らず過って撃ってしまった7歳の男の子も被害者の一人だ。4歳の女の子が目の前で撃たれ血を流す姿を目撃した子供たちもまた被害者だ。(中略)もしも女の子が亡くなっていたら、『子供に対する第一級の残虐行為に基づく重罪謀殺』となり、被告は最低30年の禁固を強いられていたに違いない」

だが裁判の結果、フォード服役囚は18カ月間の禁固という刑を受けるにとどまった。この時点ですでに9ヶ月の拘束期間を終えていたフォード服役囚は、2022年春には自由の身になる。この判決にヒントンさんは悔しさで心が張り裂ける思いだったと話す。「(司法取引により)彼は短い収監の後、仕事や自由を取り戻し、有罪記録まで抹消される。人の人生を壊しておきながら反省の様子も見せない人がこのような判決を受けるのは公正ではない」

「あの日、母親の家に行かなければよかった」、「夕食後、外に遊びに出さなければよかった」……ヒントンさんは今でも後悔の念に押しつぶされそうになるという。ただ、もしもあの日マイオナちゃんが撃たれなかったとしても、他の子供が犠牲になっていたかもしれないという可能性を指摘する。「子供の手が届くところに銃を放置していたフォード服役囚は、子供たちのことなど一切考えていなかった」。ヒントンさんは、大人が子供の手の届かないところに銃をきちんと保管する必要性を訴える。

■脊髄手術にかける望み

マイオナちゃんが歩けるようになるには、高額な費用がかかる脊髄の手術が不可欠だ。ただ、この特殊な手術には医療保険が適用されない。そう説明するヒントンさんの携帯が鳴った。この日、マイオナちゃんの車椅子のコントローラーが壊れ、自力で車椅子を押せないマイオナちゃんはいつものように自由自在に動き回ることができなかった。電話は、それを直すのに約1000ドル(約11万5千円)かかり、修理には保険が適用されないという知らせだった。ヒントンさんは「そんな大金を払える訳がない」とため息をついた。

親子で自撮りするマイオナちゃん(右)と母親のヒントンさん
親子で自撮りするマイオナちゃん(右)と母親のヒントンさん=メリーランド州ボルチモア、ランハム裕子撮影、2022年3月3日

ヒントンさんは今、フレキシブルに働けるよう、ネイルサロンビジネスの開業を準備する一方、オンライン上でクラウドファンディングを立ち上げ、早ければ今年実現する手術の費用を必死に集めようとしている。

「将来自分が先にいなくなっても、娘が一人で生きていけるよう、できるだけ日常のことを自分できるように教えている」とも語った。

「将来の夢は医者になること」。無邪気な笑顔で話すマイオナちゃんに、ヒントンさんは言う。「やりたいことをやりなさい。あなたにはそれができるのだから」(つづく)

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