【前の記事を読む】「撃った子も被害者」子どもが子どもに撃たれるアメリカ、問題視すべきこと
銃による死が「伝染病」と呼ばれる米国では、年間約4万人が銃によって命を落としている。犠牲者の中には、幼い子供が手にした銃を誤って撃つことにより亡くなった人たちがいる。
2021年8月11日、フロリダ州アルタモンテ・スプリングスの自宅で仕事のオンライン会議に出席していた母親が、リュックサックに入っていた銃を見つけた2歳児に撃たれ死亡するという事件が起きた。同年12月25日には、ノースキャロライナ州ヘンダーソン郡の自宅前で新しい自転車に乗る練習をしていた3歳の女の子が、クリスマスパーティーに訪れた招待客が車に残したピストルを見つけ、誤って自分に発砲し亡くなった。米国ではこのような事件が後を絶たない。
銃規制を求める非営利団体「エブリタウン・フォー・ガン・セーフティー」の統計によれば、2015年1月から2021年12月までの7年間で、18歳未満の子供による故意ではない銃の発砲事件は計2448件だった。死者919人、負傷者は1609人にのぼる。1年あたり約350件。ほぼ毎日のペースでこのような事件が起きている計算となる。年別に見ると、2019年は306件、2020年は369件、2021年は379件と、増加傾向をたどっている。
■不均衡に多い黒人の犠牲者
犠牲者の中で大きな割合を占めるのが黒人だ。特に、幼い子供による偶発的な発砲事件では、子供が犠牲になる場合が多い。米疾病対策センター(CDC)のデータによれば、2011年から2020年までに、故意ではない銃の発砲で亡くなった18歳未満の人は896人だった。このうち、292人が黒人で全体の33%を占めている。黒人人口が米国全体の13%に満たないことを考えれば、黒人の子供の犠牲者が不均衡に高いことが浮き彫りになる。
ワシントンを拠点とし、有色人種や障害を持つ子供たちの社会的権利を擁護する非営利団体「チルドレンズ・ディフェンス・ファンド」によると、2019年、黒人の子供たちは、米国で銃により命を失った未成年の犠牲者の43%に及んだ。さらに白人と比べると、黒人の子供が銃によって死亡する確率は4倍も高いという。
「資金が不足する黒人居住区では銃による殺人や怪我が多発している。警察に対する不信感から、自分の身は自分で守ろうと銃を入手する人も多い。銃の数が増えれば、銃による暴力や意図的ではない発砲の発生率も高くなる」。黒人の子供の犠牲者が多い背景について、ワシントンで米国の社会問題を研究するシンクタンク「センター・フォア・アメリカン・プログレス」で銃による暴力の研究を専門とするユージニオ・ワイジェンドさんは話した。
■コロナ下で銃の売り上げ急増
首都ワシントンにあるブルッキングス研究所の分析によれば、トランプ前大統領が2020年3月13日、新型コロナに基づく緊急事態宣言をした直後、米国では銃の売り上げが急増した。それから12日間、1日平均の売り上げは12万丁を超えた。3月16日には17万6千丁が売れ、ピークに達した。それに続くピークとなったのは、2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件の週だ。多くの人がまるでトイレットペーパーや食料を買い占めるように、銃を求めた。結果、銃器の購入者は、2019年に1380万人だったのが、2020年には1660万人に上った(「内科医学の年代記 (Annals of Internal Medicine)」の分析結果による)。
「これからどうなるのかわからないという『不確定要素』と『恐怖』が人々を銃の購入へ導いた。だが、圧倒的な銃の数の多さと簡単に手に入るということが米国に様々な影響をもたらしている」とワイジェンドさんはいう。2021年のギャラップ調査に参加した銃保持者の88%が、銃を購入した理由は「犯罪から身を守るため」と答えている。
だが、ワイジェンドさんは「(強盗などの)犯罪から身を守るために銃を家に置くことは効果的ではない」と語る。その理由は(1)銃を盗まれる可能性が高い。盗まれた銃器はほとんどの場合、強盗や殺傷などの犯罪に使用される。(2)銃が家族に対して使われてしまう可能性が護身で使われる可能性よりも高い。例えば自宅にある銃を使用した自殺や、子供が銃にアクセスすることで誤って家族を撃ってしまうケースもこれに含まれる。(3)警察官ですら誤射をすることがある一方で、きちんとした訓練を受けていない銃所有者が、自己防衛のために銃を的確に使用できる確率は低い。銃の売り上げが上昇したこの数年に銃を購入した人のほとんどは、銃を初めて所有した人だとみられる。
「護身目的で銃を所有する人は、何かあった場合にすぐに銃が使えるよう、常にロックをかけず銃弾を込めておく傾向にある」。ジョージア州立大学で、子供が受ける暴力、子供が銃を手にすることで発生する怪我の防止を研究するメリッサ・オズボーン教授は指摘する。「本来は家族を守るために購入された銃が、家族の誰かが怪我をする確率を高めてしまうということがあまり認識されていない」。
■阻止され続ける連邦法、各州の対応は
「Safe Storage Laws(安全保管法)」とは、銃を使わない時にロック装置をかけたり、銃器保管庫に安全に保管したりすることを義務付ける法律を指す。銃器が幼い子供を含む未成年の手に届く状態で置いた成人に刑事責任を負わせる法律は「Child Access Prevention Laws(子供の接近防止法)」と呼ばれる。
ただ、このような法律は連邦政府レベルではひとつも存在しない。連邦法で規定されているのは、「銃器の販売業者がピストルを売る際に、安全な銃器保管庫か安全装置を提供しなければならない」ということのみだ。購入した人が実際に銃器保管庫や安全装置を使用することは義務付けられていない。「連邦法は常に議会でブロックされている。特に分極化した上院では、真の意味で銃規制を強めていくための法案の策定が、利益を優先する銃器産業の影響によって阻止されている」とワイジェンドさんは語る。
州レベルにおいては、各州がそれぞれ法律を定めている。例えば、マサチューセッツ州は「全ての銃器がロックされた状態で保管されなければならない」とする唯一の州だ。カリフォルニア州では、実際に未成年が銃を手にして誰かを負傷、または殺害したかにかかわらず、未成年が手にできる状態で銃器を放置した成人は刑事的責任を問われる。
一方ジョージア州では、銃器購入時のロック装置の提供や、銃保持者が保管する際にロックをかけることすら義務付けられていない。ジョージアの「Child Access Prevention Laws(子供の接近防止法)」に関してオズボーン教授は、「子供が誰かを撃つ可能性があることを知った上で意図的に銃を子供に手渡した場合以外、大人が刑事的責任を課されることはない」と説明する。一方で、アリゾナ、ミシガン、ルイジアナなどを含む17州には「Safe Storage Laws(安全保管法)」が全くない。このように、子供が誤って銃を手にすることを避けるために誰がどのような責任を持つかを定める法律は各州によって極めて異なる。
■「護身」の理屈で葬られる法律
首都ワシントンの銃の保管に関する法律は、専門家の間で比較的高いスタンダードと言われるものの、「強制」ではない。ワシントンではかつて「登録された銃器は銃弾を抜き分解した状態、または引き金にロックか似たような装置が固定された状態で保管されなければならない」と法律で定められていた。だが、2007年、この法律に対する訴訟が起こされ、その翌年、最高裁で違憲とされた。
「この法律は、原告が家の中で自己防衛のために合法的にピストルを使用することを妨げる。この法律はピストルを役に立たない金属とバネの塊にしてしまう。(中略)単に原告は、命の危機に面した際に『機能する』銃器を所持する権利を求めているにすぎない」。最高裁ではこのような議論が行われ、他の要素とともに、この法律は憲法で定められた個人の権利を奪うという結論が出された。この判決を受け、銃の保管に関する規定は法的拘束力を失い、「勧告」となった。
ワシントンの法律事務所で働くマイケル・フォーティニ弁護士によれば、現在の法律は、「未成年が親や保護者の許可なしに銃器にアクセスしうるということを持ち主が知っている場合、以下のうちの1つの方法で銃が保管されなければならない。(1)完全にロックがかけられた箱か安全な容器に保管、(2)合理的な人が安全とする場所での保管、(3)持ち主が所持する。または持ち主の手が届き銃を使用できる範囲に保管」。つまり、子供が銃を手にする可能性が認識されている場合に限り、法律としての法的拘束力が適用される。違反した場合は千ドル(約11万6千円)の罰金及び180日間の拘束が課されるという。
■「防げる悲劇」を回避するには
このような悲劇を避けるために銃所有者ができることについてオズボーン教授は説明する。「一番安全な保管方法は、銃弾を抜き、引き金にロック装置を付け、さらに銃弾と銃器を完全に離れたところに鍵をかけて保管することだ。さらに、親や保護者の教育をすること。子供の安全を確保するために確認すべき事項に銃を取り入れ、普段から会話の一部にしなければならない。子供と訪れる家に銃があるか、どのように保管されているのか、確認することも大切だ」
同様に、大人の間で銃から子供を守る認識共有の重要性を訴えるワイジェンドさんは、さらに法律や政策を変えていく必要性や、テクノロジーの起用を提案する。例えば、今「スマート・ガン・テクノロジー」という技術が開発されているという。「携帯電話に指紋を登録するように、銃器にも同じ機能を取り入れる。持ち主しか銃を使うことができなくなり、子供による誤った発砲事件を防ぐ一つの手立てになるだけでなく、親の銃を使ったティーンエイジャーによる犯罪や自殺も防ぐことができるだろう」
「子供による発砲事件は、犠牲者が残りの生涯を肉体的負担を抱え生活しなければならないだけでなく、撃った子供、銃の持ち主、家族や周囲の人などにも精神的に大きなトラウマを残す。関与した人全員が犠牲者となる場合が多い」とオズボーン教授は訴える。
「子供が銃を誤って撃つ事件は、回避することができる悲劇だ」