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ビールのお供だけではない 中東で食べるソラマメの意外な味わい

中東を丸かじり
自宅でつくったフール

多くの野菜は海外出身

知人から「中東に10年も住んでいて一番辛いことは何だった?」と聞かれて、ふと考えた。日常生活に欠かせない食の問題はどうか。出汁や調味料、ワカメやシイタケなどの乾物は日本から持ち込んだが、味噌汁にズッキーニを入れたり、ルコッラでナムルを作ったりと、現地の食材を使い、ちょっとした工夫でなんとか和食を作って乗り切った。筆者はエスニック料理が好きなので、エジプト料理もよく楽しんだ。現地の生活は苦労も少なくなかったが、それ以上に異文化体験の毎日を送る幸せに満ちていた。質問には「日本に住む家族になかなか会えなかったことですかね」と答えておいた。

実際、はるか離れた中東に、意外にも日本でお馴染みの野菜は多い。キュウリやトマトにナス、ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎ、ニンニク、ピーマンなどが中東の八百屋に並ぶ。日本の野菜の多くは、何世紀も前に海外から入ってきて、日本に根付いたものだからだ。そのため、地中海沿岸地域が原産の野菜も少なくない。

ピラフに添えられたソラマメ料理

中東と日本の野菜について思いを巡らせたのは、日本で野菜を育てるのにはそれなりの苦労が伴うと日頃感じていたのがきっかけだった。梅雨や夏の酷暑があり、筆者が住む三重県の山間部では寒さも厳しい。こんな気候の中でも順応した野菜たちが在来種として各地で受け継がれてきた。種の蒔き時を外したりすると、うまく成長しないこともある。友人が「日本の野菜の多くがもともとは海外から持ち込まれたものですからね」と言うのに納得した。

最近は変わった種の入手も可能で、中東の重要な食材であるヒヨコマメの種や苗も売られている。中東の有名なペースト料理フムスを原材料から育てて作ってみたら面白いのではないかと思い、試しに種1袋を買って蒔いてみた。が、梅雨が長引いて長雨と日照不足である程度まで育った後に腐って枯れてしまった。友人は、クミンなどのスパイスの栽培に挑戦しているものの、これも今のところ失敗に終わっている。

パレスチナの菜園で栽培されるソラマメ

新鮮なソラマメは殻ごと料理

エジプトでは、ソラマメが馬車の荷車に大量に積まれて売られ始める頃、春の到来を実感した。もちろん、茹でて塩を振り、ビールを飲みながら食べる。ところが、エジプト人たちはこのソラマメをまったく違った方法で調理する。

現地で春に出回るソラマメは、まだ豆も小さくてサヤも柔らかい。これをサヤごと切ってスパイスやオイルで炒めたり、トマトや肉とともに煮込んだりする。日本のソラマメのサヤは、大きく成長していて、とても食べる気にはならない。これに対して、現地の人たちは柔らかいサヤの味わいや食感を重視する。

ソラマメの代表的な使い方は、乾燥させたものを用いる料理だ。エジプトの小売店や小さな商店では、必ず乾燥したソラマメが売られている。それほどに身近で重要な食材で、乾燥ソラマメを煮込んだ料理フールは「国民食」とも言える位置付け。シンプルなバージョンは、乾燥ソラマメを一晩煮込んで塩やクミンなどのスパイスで味付けし、オイルを垂らしたもの。これにトマトやニンニクを加えたり、タヒーナというゴマペーストを加えるものもある。フールはベジタリン・ビーガン料理だが、ナッツやバターのような濃厚なフレーバーや味わいが特徴的。「フールにはウマミ(旨味)という要素もある」と、日本から伝わった外来語を持ち出してフールの美味しさを表現する現地の料理研究家もいた。

フールを作る壺型の調理用具

中東で広く愛される味わい

ソラマメは、古代エジプトでも食べられていたといわれ、フールは少なくとも4世紀には中東地域や東アフリカに広がっていたという。現在、エジプト以外にもイスラエルやパレスチナ、レバノン、シリア、ヨルダンなど中東各地で食べられている。「富める者の朝食であり、商店主の昼食、貧しい人の夕食である」と、フールが広く愛されていることを示すアラビア語のフレーズも存在する。

乾燥ソラマメを水でふやかし、時間をかけて煮込む手間のかかる料理なので、軽食屋で買うのが一般的。こうしたお店では、銅製の壺のような形をした調理器具で一晩、時間をかけてじっくり煮込まれる。乾燥したソラマメの茶色の薄皮をそのまま煮込むものと、この薄皮を取ったクリーム色の乾燥ソラマメを使うものがある。蕎麦で言えば、前者は蕎麦殻を付けたまま製粉した田舎蕎麦、後者は胚乳の中心部分のみを集めた更科蕎麦だ。薄皮がついた乾燥ソラマメを使ったフールは、香りが濃厚でナッツのようなフレーバーも目立つ。一方の薄皮を取ったものは、より洗練された味わいとなる。皮付きの方が栄養価も高く、腹持ちも良さそうだ。

ソラマメの殻ごと煮込んだ中東料理
【動画】空豆のスープ「フール」の作り方