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コロナ禍にも影を落とす中東の対立 それでも愛される共通の好物がある

中東を丸かじり
自宅で作ったシャクシューカ

「コロナ対策優等生」のイスラエル

この女性は、エルサレムに住むパレスチナ人。イスラエルが「永遠の不可分の首都」と主張するエルサレムには、パレスチナ人も住んでおり、社会保険などイスラエル政府が提供する多くの社会福祉政策の管理下に置かれている。逆に税金などの義務も課される。イスラエル国内を自由に移動できる青い身分証明書(エルサレム住民)を持つパレスチナ人たちは、ワクチン接種の対象者でもある。

世界の国々の中で「コロナ対策優等生」と評価されるイスラエルは、2回のワクチン接種を終えたことを示す証明書「グリーン・パス」を発行。これを所持していれば、ホテルやスポーツジム、バーなどへの立ち入りが認められ、日常生活の幅が大きく広がる。ただ、世界的には、「人々にそのようなことを実質的に義務付けたり、何かを行うのを禁止したりする権限が政府にあるのかどうかをめぐる倫理的な問題が存在する」(ジョンソン英首相)といわれ、イスラエルの強硬なコロナ封じ込め策は、論争の的でもある。

ヨルダン川西岸で活動するイスラエル兵

ワクチン接種を拒むイスラエル人にとっては、社会活動への参加を制限されるような政策だ。ワクチン拒否派のイスラエル人は「ワクチン接種を受けない人たちは取り残されるだろう。ワクチンを接種するよう求める圧力はとても強い」と欧州メディアに訴えている。それでもイスラエル政府は、グリーン・パスの導入によってワクチン接種率のさらなる向上を狙う。

ワクチン接種で生活正常化に期待

エルサレムに住むパレスチナ人たちは、パレスチナという祖国への想いとイスラエル支配のはざまでアイデンティティーをめぐる葛藤がつきまとう。前出のパレスチナ人女性もその一人。政治的にはイスラエルに対する抵抗感が大きいが、イスラエル政府の政策で恩恵を受ける場合もある。イスラエルのコロナ対策もその一つだ。

彼女は、パレスチナ自治政府が行政権を握るパレスチナ自治区ラマッラなどヨルダン川西岸のコロナをめぐる状況を「カオス」(混沌状態)と表現する。これに対してイスラエルでは、ワクチン接種で希望も見えてきた。彼女は一度目のワクチン接種を済ませ、2回目の接種を受けた後にグリーン・パスが付与される。

コロナ禍のテレワークやストレスで体重が3キロも増え、ジムに行くのが待ち遠しいという。海外旅行も可能になりそうだ。ギリシャやキプロスなどが2回の接種を完了したイスラエル市民らに対して、海外旅行の受け入れを始めていることも大きな希望だ。パレスチナという祖国なき地に生まれた彼女は、国際政治の荒波に翻弄され、紛争が続く地に生きている。そんな境遇をひととき忘れることができるのが、平和な地への海外旅行であった。そのささやかな息抜きさえも、コロナ禍によって奪われてしまった。

中東ではトマトを使ったサラダが定番

北アフリカが源流のトマトと卵の煮込み

イスラエルやパレスチナという土地を争うイスラエル人、パレスチナ人は共通項も多い。食もその一つ。ヒヨコ豆のファラフェルや同じ豆を使ったペースト料理のフムスは、両民族ともよく食べるものの、本家本元をめぐる食文化の争いに発展することがある。トマトの煮込みに卵を落としたシャクシューカも両民族に愛され、これはあまり争いのネタにはならない。

そもそも、トマトは中東に入ってきて比較的歴史が浅い。中東の食をめぐる洋書「食の三日月地帯−中東料理の歴史」によると、トマトは18世紀終盤にイタリア方面から中東にもたらされたらしい。オスマン帝国で出版された料理本では、1844年にトマトが食材として初めて紹介された。アラビア語でトマトは、タマーテムとスペイン語やドイツ語を語源とする単語がある一方、イタリア語でトマトを指すポモドーロが語源とみられるバンドーラというのもある。同書はこれを根拠に、トマトがイタリアから渡来した説を唱えている。

トマトを多用するエジプト料理

1872年の旅行記によれば、エジプトのナイル渓谷の全域でトマトが栽培されていたという。中東料理の中で、トマトのヘビーユーザーはエジプト料理で、この傾向は今も変わらない。国民食のコシャリやマカローナ、トマト煮込みのタジンなど情熱的な赤がエジプト人は大好き。

イタリアから東方に行けば行くほど、トマトを使う比率は下がる傾向がある。トマトは、料理に赤い色合いと甘みや酸味をもたらした。中東料理は、トマトが登場する前も、果樹のザクロ、ウルシ科ヌルデ族のスパイス、スマック、ブドウなどがトマトのような役割を演じてきた。シリアやイラン、パレスチナ料理は、今もエジプト料理のようにはトマトは多用されず、ザクロなどが活躍する。エジプトと似たような気候のイラクは、トマトが多いような気がする一方、イランは中東の中でもトマトを使う料理が非常に少ない。

政治的な争いが続くイスラエルとパレスチナの両民族が愛する料理シャクシューカ。この料理の起源は、アラビア半島南西端のイエメンとの説があるが、北アフリカ・チュニジアのトマトソース煮の卵とじ料理オッジャが源流との説が有力だ。チュニジアなど北アフリカにも住んでいたユダヤ人がイスラエルに帰還して、経済的な苦境にあった際の手軽な食事としてイスラエルに定着したといわれている。今は、トマトを使わずにパセリやコリアンダーの香草や青唐辛子を使ったグリーン・シャクシューカというフュージョン料理もあり、ニューヨーカーやロンドンっ子の間でも食べられている。

チュニジアの街並み

料理は自由でいい。シャクシューカは、スパイシーにしたければ唐辛子の量を増やしたり、エスニック風にしたければ、クミンなどのスパイスを多く使ったりするなどアレンジの幅が広い料理だ。オリーブオイルで玉ねぎやニンニクを炒め、トマトペーストにクミンやパプリカ粉を加えて煮込み、卵を落とすだけのシンプルさ。パンと食べるのが一般的で、腹持ちの良さもこの料理の特徴だ。

【動画】シャクシューカの作り方