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「ビーガンの首都」か「政治的プロパガンダ」か イスラエルの食文化も「紛争状態」

中東を丸かじり
エルサレムで食べたファラフェルの入った朝食=池滝和秀撮影

ファラフェルは国策で国民食に

ビーガンは、肉や魚を食べないベジタリンとは異なり、卵やチーズ、バターなど動物に由来した食べ物を一切排除する。思想としてビーガンを徹底させる人は、革製品やウールの服も身につけない。ビーガンは、健康志向とともに、動物愛護の精神を体現したものだ。あるビーガン主義者は「痛みを伴うものは生活の中から排除するようにしている」と話す。イスラエル紙エルサレム・ポストによると、イスラエルの人口の2〜5%はビーガンとされる。

70カ国以上から来た移民たちで主に形成されたイスラエルは、世界各地から食文化が持ち込まれた多様な食文化がある。国家としても70年余と比較的若く、伝統に縛られず、ビーガンという新たな食文化が広がりやすい土壌があった。また、四国ほどの大きさで国家の規模も小さく、ソーシャルメディアで情報が伝達するのも早い。こんな背景がビーガンという食文化が多くの国民に取り入られている要因の一つだという。

フムスなどヴィーガン向けの惣菜=池滝和秀撮影

手軽なビーガン料理にも恵まれている。イスラエル建国の基本理念であるシオニズムは、国民を一つにまとめる国民食を必要とした。建国前の1940年代には、ハーレツ紙に、ヒヨコ豆を細かく砕いてスパイスで味付けして油で揚げたファラフェルのレシピが登場。その後、イスラエル大使館は、ファラフェルやフムスをイスラエルの国民食として宣伝した。ファラフェルのほかにも、ヒヨコ豆とタヒーナを混ぜたフムスもイスラエルの国民食となった。いずれも軽食屋や商店で入手が容易。お弁当として食べられる手軽さが受けた。

ヒヨコ豆のコロッケ、ファラフェル=池滝和秀撮影

「政治排除は危険」

中東で敵対的な国家に囲まれたイスラエルは、国民皆兵。体力の必要な軍務だが、イスラエル軍には情報部門を中心に1万人のビーガンの兵士がいるという。イスラエル軍は兵士向けにヴェーガン食を提供し、革を使わないブーツやウール製ではないベレー帽も用意して対応している。

だが、こうした「ビーガンの首都」という浮かれぶりには、批判もある。パレスチナの動物愛護団体の代表は「イスラエルはビーガンの首都ともてはやされているが、プロパガンダのためにビーガンを利用している。ビーガンとはファッションではなく、動物愛護を含めた運動であり思想だ。パレスチナ人に対する行為は、ビーガンの精神に反している。政治的な要素をビーガンから取り除いてしまうのはとても危険だ」と指弾する。

もちろん、イスラエルにもパレスチナとの和平を望む層が存在する。和平の展望が開けない中で、身近なところから痛みを排除していこうと、ビーガンに走るイスラエル国民がいることも事実だろう。

テルアビブの街並み=池滝和秀撮影

イスラエルの食は、ビーガン以外にも物議を醸すことが少なくない。イスラエル料理は、地中海東岸に位置するレバント地方の料理が取り込まれた。フムスやファラフェルは、レバノンやパレスチナ、シリアなどレバントを構成する国々・地域でも食されている。地域と密接に絡み合ったイスラエルの料理に対しては、パレスチナ紛争が続いているため、土地ばかりか、食文化まで盗み取っているとの批判もある。米国の料理研究家レイチェル・レイは、パレスチナの伝統的な料理の数々を「イスラエル料理」とツイートして炎上した。

アラブ系イスラエル人シェフ、ノフ・アタムナ=イスマイールさんは「イスラエル料理なんて存在しないわ。料理が形成されるのには歴史が必要。イスラエル料理の基本は、レバント地方の料理であり、移住してきたユダヤ人たちが持ち込んだ世界各地の要素が取り入られたもの」と手厳しい。

アラブ系イスラエル人シェフ、ノフ・アタムナ=イスマイールさん(中央)=池滝和秀撮影

在日イスラエル大使館が配布する冊子では、フムスやファラフェルなどがイスラエル料理として紹介されている。イスラエルの日常生活にすっかり定着しており、日本で言えば、カレーやラーメンのような存在。にもかかわらず、イスラエルの「食文化の剽窃」論は収まらない。和平が実現するまでイスラエルやパレスチナ、アラブ諸国の間では「食をめぐる冷戦状態」が続きそうだ。