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パレスチナで見た、占領地の農業のリアル

World Now
ヨルダン渓谷の野菜畑

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冬場でも温かい肥沃なヨルダン渓谷

パレスチナは慢性的な水不足の状態にある。滞在中、この地域には珍しい大雨が降った。傘を持ち合わせていなかった記者は顔をしかめていたが、住民は「天からの恵み」と喜んでいた。パレスチナ自治区ラマラから東へ東へ。標高が下がり耳がツーンとなりながら、冬場でも夏野菜が栽培できる「肥沃な」ヨルダン渓谷に向けて車で下りていく。すると、日差しが強く、3月なのに汗ばむ陽気の場所に着いた。

農場経営者や作業員に集まってもらい、現状を聞いた。すると、イスラエルから井戸を掘る許可が得られず、栽培に十分な水が確保できないため、土壌の塩害が進んでいるという。畑を見せてもらうと、ナスが実っていたが、イスラエル側のスーパーで売られていたものと比べると、小ぶりだった。

ヨルダン渓谷の畑で取れたナス。小ぶりだった

イスラエルは建国以来、限りある水資源を確保することに力を注いでおり、全土の水源をつなぐパイプを配備し、水を管理して有効に使おうとしている。同時に、占領下に置くパレスチナに対しては、取水を制限している。またイスラエルが国際法に違反して建設を進める入植地での水使用が増えると、パレスチナ側では「自分たちが使える水の量が減る」との訴えがあがる。

パレスチナ自治区でも、イスラエルと同様、チューブに開けた小さな穴から水と栄養分を落とす点滴灌漑が導入されていた。設備に書いてある社名を見ると、イスラエルの企業ネタフィムだ。だが、ここではイスラエルにより化学肥料として使われる硝酸カリウムの使用が制限されている。農家は化学肥料の代わりに堆肥や家畜の糞尿を肥料に使っていたが、化学肥料に比べて肥料としての効果は低いという。

ヨルダン渓谷のパレスチナ人の農地でもチューブを使って点滴灌漑を行っていた

農業系NGO・PARCのイッザト・ゼイダン(55)によると、自力での農業をやめ、イスラエルの農園に働きに出る人も増えている。ゼイダンは「効率良く作物を育てるイスラエル側に、農地と水だけでなく労働力も奪われている」と嘆いた。

農業技術を普及させるアグロノミスト、ハサネイン・ハサネイン(55)によると、野菜から、高い塩分濃度の土に耐えられるナツメヤシやブドウに切り替える農家が増えているが、市場へのアクセスも限られているため専業農家は減っているという。「新しい技術を取り入れて、厳しい状況をなんとか打開したい」とハサネインはつぶやいた。

PARCのアグロノミスト、ハサネイン・ハサネイン氏=パレスチナ自治区ラマラ

状況を改善しようという試みはそこかしこで見受けられた。日本のODAの事業で、堆肥の作り方の技術研修がパレスチナ全域で行われており、過去に日本の支援で作られたエリコ近郊の堆肥造成施設も、まだ使われていた。作業時期ではなかったが、牛舎の近くに堆肥が山積みにされ、袋詰めされた製品もあった。堆肥を土に混ぜることで、アルカリ性の土壌が改善し、作物が肥料成分を効率的に吸収できるようになるという。

独立行政法人国際協力機構(JICA)の農業普及プロジェクトを担当する日本工営の中村友紀(43)は「土の見える化」が大事だと話す。「土の乾燥度合いや養分濃度の量などを調べ『見える化』をすると、作物が一番よく育つ状態にするにはどうすればいいか、課題が見えてくる」という。

堆肥造成施設に置かれた機械には、日本の国旗とともに「日本の人々から」と書かれていた=エリコ近郊

イスラエル政府が入植地や軍事施設建設のために、パレスチナ人の遊牧民系農家が家畜を放牧していた土地を接収してしまうため、家畜の飼料も不足。農家はイスラエルから高い値段で牧草を購入していた。その対策として、JICAの支援では、牧草を発酵させて栄養価を高め、長期間保存できるようにしたサイレージも普及させているという。しかし、イスラエル側による土地の接収は続き、イスラエル軍と畜産農家の衝突も起こっている。一見のどかで豊かに見えるこの場所は、実は水と土を巡る、紛争の最前線だった。