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「4パーミル」で地球は変えられる 土の力を使った温暖化対策、世界が注目

World Now
農産国ブラジルでは、不耕起栽培を採用する農家が増えている。マトグロッソ州南部の畑では、大豆の収穫後、耕さずにトウモロコシの苗が植えられていた

有機物とは、炭素を含む生物の体などをさす言葉だが、土の中にはさまざまな有機物が残されている。たとえば植物は、二酸化炭素を取り込んで葉や根などの体をつくりだす。

それが枯れて土に残ると、微生物などによって分解されていく。生ものが腐っていくイメージだ。分解の過程で、炭素はほかの生物に取り込まれたり、大気中に出ていったりする。

だが、すべてが分解されるわけではない。たとえば、分解されたあとに残る「腐植」は、土の養分を保つ働きをする大事な有機物だ。

つまり、腐植のような分解されない有機物が土の中に残るということは、植物が大気から取り込んだ炭素が土の中に残るということになる。大気中の炭素を減らすことにつながるのだ。

小さな取り組み、大きな力

「4パーミルイニシアティブ」は2015年のCOP21で、フランス政府が提案した国際的な取り組みだ。日本もこの翌年にメンバーとなっている。

「パーミル」とは、0.1%のこと。つまり4パーミルは0.4%だ。なぜか。ざっくり言えば、以下のような計算になる。

いま、人間が経済活動によって大気中に排出している炭素は、年間約100億トンずつ増えている。ここから木などが吸収する分を差し引くと、毎年約43億トン、排出が増えている計算だ。

一方、土の中には、1兆5000億~2兆トンの炭素があるとされ、うち表層の30~40センチには約9000億トンの炭素があるとされる。

そこで、土の表層にある9000億トンの炭素を年間ほぼ0.4%増やすことができれば、43億トンの排出分の大半を帳消しにできるというわけだ。長年、土壌の保護を訴えてきた米オハイオ州立大学のラタン・ラル特別栄誉教授らの研究がその根拠になっている。

もちろん、これはあくまで目安ではある。「大事なことは、有機物を土に残す小さな取り組みが、気候変動の緩和につながるのだという方向を示したことなんです」。4パーミルイニシアティブを進める事務局(仏モンペリエ)のトップ、ポール・ルー事務局長はそう言った。

フォーパーミルイニシアティブのポール・ルー事務局長

もともと、フランス政府がこの取り組みを提案したのは、それまで温室効果ガスの排出削減について、農業部門のかかわりが余り議論されてこなかったからだという。「農業も温室効果ガスを排出していますから、議論に加えてもらう必要がありました。ただ同時に、その問題の解決策にもなることを示したのです」

ルー事務局長は、すでに現実的に土を守る取り組みが広がっていると言う。たとえば米国や豪州といった農業国では、ラル氏らが提唱してきた土を耕さない「不耕起」農業が広がってきた。土を耕すと、微生物がせっせと有機物を分解し出すことになるからだ。

風や水による侵食を防ごうと、防風林の働きなどを見直す動きも広がっているし、作物を育てない時期にも草を植えておくやり方も広がってきた。

不耕起農業によって有機物が増えてきたブラジルの土。土の中に草の根や茎が残っているほか、腐植が増えてやや黒みを帯びている

さらに取り組みを広げるため、4パーミルイニシアティブの事務局では、世界各地の実行例を科学的に検証し、メリットやデメリットを確認したうえで共有できるデータベースをつくることなどを検討しているという。

とはいえ、土の有機物を0.4%増やすのは簡単ではない。無理に有機物を土に埋めたところで、管理が雑だとすぐに分解されて大気中に出てきてしまう問題もある。さらに言えば、そもそも推計が大まかすぎるという批判もある。

だがルー事務局長はこう言う。「土に有機物が増えれば、長期的には土地の生産性が上がることが分かっていますし、水源にもいい影響があります。それに加えて、温室効果ガスの増加を食い止める力があるということです。4パーミルは必達目標ではありません。ただ、そちらの方に向かえば前向きな効果があるのだから、それを進めるべきだということなのです」

肥沃な土で有名なウクライナでも、土から有機物が減り、白くなってしまった畑が出てきている

日本でできること

日本は、どういうことができるのだろうか。4パーミルイニシアティブの科学委員会に加わっている農研機構農業環境変動研究センターの白戸康人・温暖化研究統括監は「まだあまり知られていないので、これから広がっていく段階でしょう」と言った。白戸さん自身は、土の中にどれぐらいの炭素があるかを計算できるウェブサイトなどもつくっている。

ただ、一方で「日本には、もともと含まれている有機物が多い土もあるので、さらに増やすとなると簡単ではないかもしれません」とも言った。

これは、日本の土の性質に関係している。多くが火山灰由来とされる日本の土は、化学的に腐植と結びつきやすい性質を持っている。たとえば、畑などに見られる「黒ボク土」と呼ばれる土には、世界で最も肥沃と言われる黒土「チェルノーゼム」などの2倍のレベルの腐植が含まれていることがある。
そこから無理に有機物を増やそうとしても、今度は逆に土が悪くなって作物が不作になるリスクもある。

「本末転倒になっては意味がありません。日本の場合、まずはいまの有機物のレベルを維持する、ぐらいから考えるのがいいのではないでしょうか」と白戸さん。そして、まずは、土にこうした働きがあるということを知ってもらいたいと言う。「食の安全には関心が高まっていますが、その食を生む環境への関心は高いとは言えません。環境問題は『みんな』の問題です。その『みんな』には、自分も含まれているんです」

農林水産省は5月13~15日、滋賀県で「地球規模で考える気候変動と農山漁村」と題したシンポジウムを開いた。4パーミルイニシアティブや、国連食糧農業機関(FAO)、世界銀行などから専門家が集まったほか、国内の研究機関や農業法人、企業などもそれぞれの取り組みなどを発表し、意見を交わした。

農林水産省が5月に開いたシンポジウム

ここでも議論の焦点のひとつは、土の有機物を増やすことで、アフリカ・ウガンダでの取り組みなどが紹介された。

農水省環境政策室の長野暁子課長補佐はこう言う。「分かってもらいたいのは、農業が、気候変動に対して実態のある貢献ができるということ。このために科学者と農業者をつなぐ役割も果たしていきたいと思っています」